タランチュラは大きな体を覆うモッサリとした剛毛が特徴的です。
なぜ彼らはこんなに毛がボーボーなのか、これまで確かな答えは得られていませんでした。
しかし今回、フィンランド・トゥルク大学(University of Turku)の最新研究により、「タランチュラの剛毛は掃除屋のアリに齧られないための防護シールドである」との新説が浮上しました。
加えて、研究チームはタランチュラが一般に抱かれやすい凶暴なイメージとは違って、カエルなどの異種と仲良く共生していたことを明らかにしています。
研究の詳細は2024年8月6日付で科学雑誌『Journal of Natural History』に掲載されました。
目次
- タランチュラの剛毛は「防護シールド」だった
- 樹上性のタランチュラは「忍者スタイル」でアリを回避!
- 意外すぎ!カエルとは「マブダチ」だった?
タランチュラの剛毛は「防護シールド」だった
「タランチュラ」とはオオツチグモ科に属するクモの一般的な名称であり、南米や熱帯アジア、オーストラリアなど世界に広く分布しています。
タランチュラの外見で強く目を引くのは、なんといっても全身にみっちりと生えそろった剛毛でしょう。
研究チームは今回、タランチュラと異種生物が野生下でどんな関係性を持っているかを理解すべく、過去の科学文献を見直すとともに、フィールドワークやSNSを利用した情報収集を行いました。
その中でタランチュラが剛毛である理由の新たな説が浮上したのです。
それが「タランチュラの剛毛は掃除屋のアリから身を守る防護シールドである」というものでした。
これまでの調査で、地上性のタランチュラの巣穴には「グンタイアリ」という獰猛な捕食性のアリがたびたび出入りしていることが知られていました。
研究主任のアリレザ・ザマニ(Alireza Zamani)氏によると、タランチュラとグンタイアリの関係性はずっと不可解だったといいます。
というのも、グンタイアリはあらゆる獲物に集団で襲いかかる獰猛な習性の持ち主であり、そのターゲットとしてはクモも例外ではありません。
ところがザマニ氏によると「グンタイアリはタランチュラの大人も子供も無視し、タランチュラが食べ残した残骸だけを集めて去っていく傾向があった」のです。
これは巣穴を清潔に保つことにも有益であるため、タランチュラにとってグンタイアリは便利な掃除屋となっていました。
グンタイアリは大柄なクモもバンバン捕食するため、この行動は実に不可思議だったとザマニ氏は話します。
流石のグンタイアリもタランチュラには怖気付いているということなのでしょうか?
しかしチームが観察を続けてみると、グンタイアリの中にはわずかながらタランチュラに噛み付いて攻撃を仕掛けている個体もいました。
ところがそのとき、タランチュラの全身が硬い剛毛で守られていたため、アリは皮膚に噛み付くことができず、あきらめて帰っていったのです。
この観察からザマニ氏らは「タランチュラの剛毛は掃除係のグンタイアリに齧られないために発達したのではないか」との新説に至ったのです。
つまり、グンタイアリは「タランチュラが怖いから攻撃しない」または「残飯を提供してくれる共生関係があるから攻撃しない」のではなく、「毛が邪魔で食べれないから残飯だけ頂いて帰ろう」と考えている可能性を示唆しています。
実際にタランチュラは大人だけでなく、子供も毛が生えていますし、さらには卵嚢(らんのう)までも毛で覆われていることがわかっています。
そのためにグンタイアリはタランチュラを敵に回すのではなく、共生相手として友好的に暮らすことを選んだのでしょう。
(※ タランチュラの子供たちの実際の画像はこちらから。かなり刺激的ですので、虫が苦手な方は閲覧をお控えください)
しかし、地上性のタランチュラが剛毛で身を守る一方で、樹上性のタランチュラはまた別の面白い方法を取っていました。
樹上性のタランチュラは「忍者スタイル」でアリを回避!
実は樹上性のタランチュラは、地上に巣穴を掘る種に比べて、体毛が薄いことが知られています。
しかし樹上にもグンタイアリはいるため、剛毛シールドとは別の生存戦略を取らなければなりません。
そこでチームが南米ペルーで野外観察をしたところ、樹上性のタランチュラは実に面白い戦略を取っていることがわかりました。
彼らはグンタイアリが近づいてくるのをいち早く察知すると、クモ糸で作った巣穴を出て、前足の先っぽで葉の縁にぶら下がり、忍者のような奇抜な方法で身を隠していたのです。
グンタイアリの足音が遠ざかると、また葉っぱの上に戻っていました。
※ 実際の画像はこちらです。苦手な方は閲覧にご注意ください。
地上の種とは違って剛毛がないので、彼らはこうしたアクロバティックな生存方法を見つけたのでしょう。
このようにタランチュラは危険なグンタイアリと共生関係を築いていたのですが、また意外なことにカエルとも仲良しだったことが判明したのです。
意外すぎ!カエルとは「マブダチ」だった?
ザマニ氏らはタランチュラと同じ生息環境にいる他の生物たちとの関係も調べたところ、驚くべきことに、カエルとは非常に友好的な交流を楽しんでいること多いと判明したのです。
チームは世界10カ国における60件以上のタランチュラとカエルとの相互作用を調べ、お互いに恩恵を受け合っていることを特定しました。
ザマニ氏によると、カエルはタランチュラの巣穴に逃げ込むことで、天敵から身を守るためのシェルターとして利用していたといいます。
一方でカエルはその見返りとして、タランチュラの巣穴や卵、子供にとって有害な害虫を食べていたのです。
タランチュラの方もカエルの存在を認めており、すぐ側にいても襲うことなく、友好的に共生していました。
中には巣穴の中でタランチュラとカエルが身を寄せ合っている姿まで見つかったのです。
その様子はもはや「マブダチ」と言えるものでした。
ザマニ氏はこの結果を受けて「タランチュラは一般に評判されるほど、恐ろしくもないし脅威でもないようでした」と話しています。
タランチュラはそのイカつい見た目から凶暴で毒々しいイメージを持たれがちです。
サスペンス映画などでは度々、タランチュラが殺人用の毒蜘蛛として使われるケースがあり、そのせいで人々に恐ろしいイメージを与えるようになりました。
しかし専門家によると、タランチュラは確かに毒を持つものの、人に害を及ぼすほどの毒性はまったくなく、これまでにタランチュラの毒で死亡した例も知られていません。
またタランチュラには大人しい種が多く、それも手伝ってかペットとしても人気が高いです。
彼らの見た目が怖いのは確かですが、心根は優しいのかもしれませんね。
参考文献
Tarantulas have surprising partnerships with other species and their hairiness may be a defence mechanism
https://www.utu.fi/en/news/press-release/tarantulas-have-surprising-partnerships-with-other-species-and-their-hairiness
We now know why tarantulas are hairy — to stop army ants eating them alive
https://www.livescience.com/animals/spiders/we-now-know-why-tarantulas-are-hairy-to-stop-army-ants-eating-them-alive
元論文
An extensive review of mutualistic and similar ecological associations involving tarantulas (Araneae: Theraphosidae), with a new hypothesis on the evolution of their hirsuteness
https://doi.org/10.1080/00222933.2024.2382404
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部