医学研究に欠かせない「顕微鏡画像」は、時に私たちの目をくぎ付けにします。
まるで芸術作品のような美しさがそこには広がっているからです。
オーストラリアの医学研究機関であるセンテナリー研究所(Centenary Institute)が設けた顕微鏡画像コンテスト「When Art Meets Science(芸術と科学が出会うとき)」では、そんな美しい画像が集まっています。
そして最近、コンテストの2024年優勝作品が発表されました。
マウスの脳細胞が示すアルツハイマー病の証拠は、画像で見ると苛烈な印象を受けるかもしれません。
目次
- 顕微鏡画像コンテスト「When Art Meets Science」
- 2024年で最も魅力的な顕微鏡画像を発表
顕微鏡画像コンテスト「When Art Meets Science」
センテナリー研究所は、オーストラリアのシドニーに拠点を置く世界有数の独立医療研究機関です。
彼らが研究している分野は、がん、老化、炎症、希少疾患などです。
そのような研究の中で、研究者たちは生物の細胞の顕微鏡画像の一部が驚くほど美しいことに気づき、これらを用いて顕微鏡画像のコンテストを開くことにしました。
この顕微鏡画像コンテスト「When Art Meets Science(芸術と科学が出会うとき)」は、2009年に始まって以来、毎年開催されてきました。
そして最近、2024年の受賞作品が公開されました。
まずは、賞を逃したものの、驚くほど美しい作品をいくつか御覧ください。
A Bridge Between Worlds
この作品は、Bobby Boumelhem氏の「A Bridge Between Worlds」です。
これは健康なマウスの多能性幹細胞の画像です。
多能性幹細胞とは、ほぼ無限に増やすことができ、体のあらゆる細胞に変化できる性質をもつ細胞のことです
研究では、マウスの多能性幹細胞から脳の細胞「ニューロン」を作成しようとしました。
その際、研究者は神経細胞がどのように発達するかに注目しました。
※作品は、得られた顕微鏡画像をコピーし、片方を反転させて並べたものです。
The Glowing Fishes
この作品は、Christelle Tshamala氏の「The Glowing Fishes」です。
これはゼブラフィッシュを用いた脂肪肝の実験画像です。
脂肪肝とは、中性脂肪が肝臓に蓄積する病気です。
実験では、ゼブラフィッシュ(脊椎動物のモデル生物としてよく用いられる)の脂肪肝にナノ粒子を付着させ、脂肪レベルを追跡できるようにしています。
画像の輝きのレベルは、脂肪肝が慢性化する前に治療できるかどうかを研究者たちに示すものです。
※画像は編集・加工されていません。
Tiny but Mighty
この作品は、Bobby Boumelhem氏の「Tiny but Mighty」です。
これは健康なマウスの副腎の画像です。
副腎は、肝臓の上に位置する小さな臓器であり、全身にホルモンを放出する役割を担っています。
研究では、副腎の各部位で脂肪のレベルが異なるかどうかを調べようとしました。
脂肪をマゼンダと青で染色することで、脂肪が副腎の機能にどのような影響を及ぼすのか理解できるようにしています。
※編集・加工はされていません。
ここまでで、魅力的な3つの顕微鏡画像を紹介してきました。
次項では、気になる優勝作品をご紹介します。
2024年で最も魅力的な顕微鏡画像を発表
ここでは、「When Art Meets Science 2024」にて、見事受賞を果たした3作品をご紹介します。
どの作品も顕微鏡画像とは思えないほど芸術的な作品となっています。
第3位:Roses are Red
この作品は、Heidi Strauss氏の「Roses are Red」です。
これは、患者から提供された膵臓の腫瘍組織から直接培養された細胞群の画像です。
これらの細胞を成長させることで、元の臓器の特徴を保持したミニチュアの臓器(オルガノイド)を作成できます。
そして研究者たちは、これを用いることで、新しい治療法のテストを行えます。
画像は繊細な細胞の構造を示していますが、バラに似ていることから、「Roses are Red(バラは赤い)」というタイトルがつけられました。
※画像は、トリミング・背景除去・コントラスト調整が行われました。
第2位:Close to my Heart
この作品は、またしてもBobby Boumelhem氏のものであり、「Close to my Heart」というタイトルです。
これは乳がんの腫瘍細胞の画像です。
毎日約60人の女性が乳がんと診断されています。
早期検査・治療が行われているにも関わらず、乳がんの仕組みについては未だ不明な点が多くあります。
研究では、乳がんの腫瘍から採取した細胞を増殖させ、様々な条件下で細胞がどのように変化するか調査しています。
その際、細胞構造や細胞核が染色され、変化が測定されました。
この画像を分析することで、悪性腫瘍に関する新たな洞察が得られるかもしれません。
※画像は編集・加工されていません。
優勝作品:Cloudy Brain with a Chance of Forgetfulness
優勝作品に選ばれたのは、Ka Ka Ting氏の「Cloudy Brain with a Chance of Forgetfulness」です。
これはアルツハイマー病のマウスの海馬の画像です。
海馬は、脳の中でも特に記憶、学習、感情に関わっている領域です。
画像では、マウスの海馬に、アルツハイマー病の特徴の1つである白いアミロイドプラーク(脳内に蓄積した老廃物)が確認できます。
これが脳細胞(青色)や血管(赤色)に損傷を与えることで、マウス(または患者)に記憶喪失を生じさせると考えられています。
画像から、青と赤で構成される美しい海馬が、カビのような白の斑点で汚染されている様子がよく分かりますね。
※画像は編集・加工されていません。
ここまでで紹介した1~3位の作品は、細胞の神秘と美しさをよく表現しています。
このような細胞が、私たちや動物たちの体の中にあることを考えると、なんとも不思議な気持ちになりますね。
ちなみに、今年の「When Art Meets Science」優勝作品は発表されましたが、まだ一般の人々が選ぶ「People’s Choice Award 2024」は残っています。
専用のページから、オンラインで投票できるため、ぜひ確認してみてください。
参考文献
Winning images showcase intersection of science and art – and you can vote
https://newatlas.com/photography/art-meets-science-image-competition/
People’s Choice Award 2024
https://www.centenary.org.au/peoples-choice-award-2024/
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部