全身法(フルボディルーティン)と分割法(スプリットボディルーティン)は、筋トレを行う際の2つ異なるアプローチです。
このうち、全身法では、1回のトレーニングで全身の主要な筋肉のグループ(筋群)の全てを鍛えます。
一方、分割法では、たとえば月曜日が胸と肩、水曜日が背中、金曜日が脚といったように、トレーニングをする日ごとに特定の筋群に焦点を当ててトレーニングを行います。
これまでの研究によって、週当たりの各筋群のセット数が一緒の場合、同じぐらい筋肉が大きくなることが分かっています。
その一方で.、これまでの研究では分割法と全身法が体脂肪に与える影響は十分な検討がされていませんでした。
今回、ブラジルのトリアングロ・ミネイロ連邦大学のオルサッティ教授らの研究グループは、週当たりの各筋群のセット数を揃えた上で、全身法と分割法の筋トレの効果を比べた結果、一回のトレーニングで全身を鍛えた方が体脂肪の低下が著しかったことを報告しました。
この研究結果は、体脂肪減少を目的として筋トレをする場合、全身法にメリットがあることを示唆しています。
今回の研究の詳細は、『European Journal of Sport Science』に2024年4月23日付けで公開されています。
目次
- 分割法では体脂肪が減らなかった
- 全身法は社会人にオススメのアプローチ
分割法では体脂肪が減らなかった
オルサッティ教授らは、今回の研究に取り組むにあたり、一度で主要な筋群を鍛える全身法が、ある特定の筋群しか鍛えない分割法に比べると、より大きな体脂肪減少を引き起こすと仮説を立てました。
この理由は、全身法では毎回のトレーニングで大きな筋肉を刺激するため、運動後のエネルギー消費量の増加が期待できることや、分割法ではある特定の部位を1度で追い込むため、激しい筋肉痛が起きやすく、その後の日常生活の身体活動量が減る可能性があるといった背景をもとにしたものです。
この仮説を検証するために、研究チームは、2019年に発表済みの実験データを再分析しました。
なお、2019年の論文では、全身法と分割法のトレーニング効果を主に筋力向上と筋肥大の観点から調べた結果、2つの方法が同じぐらい有効なことを示しています。
実験では、3年以上の筋トレ経験を持つ男性の筋トレ愛好家を次の2つのグループに分けた上で、8週間のトレーニング介入を行いました。
・全身法群
・分割法群
2つのグループともに、器具を使った本格的なトレーニングを週5回していますが、全身法群では、一度に全11種目を実施したため、各種目のセット数は1-2セットです。
一方、分割法群では、1度に2、3種目しか実施しない一方で、各種目のセット数が5あるいは10セットです。
一例を挙げると、胸と上腕三頭筋を鍛える日ではベンチプレス10セット、トライセプスエクステンションを5セット、実施しています。
また、トレーニング効果に影響する可能性がある週当たりの各種目のセット数(5セットもしくは10セット)や総セット数(75セット)、強度(1回しか挙げることが出来ない重さの70~80%の重量)は2つのグループで揃えています。
実験の結果、全身法群では、トレーニング期間後の体脂肪が著しく低下していることが分かりました。
例えば全身の体脂肪量で見ると、分割法群ではトレーニング期間後に平均0.8kg減っていたのに対し、分割法群では逆に平均0.3kg増えていました。
これは、全身法が体脂肪の減少に効果的という、彼らの仮説を裏付けるものです。
各種目のセット数、総セット数および強度が一緒なのにも関わらず、どうして2つのグループの体脂肪の減り方には差が生じたのでしょうか?
全身法は社会人にオススメのアプローチ
この実験では、トレーニング期間を通して身体各部位の筋肉痛を記録するように対象者に求めていますが、その結果を見ると、分割法群で著しいことが分かっています。
そこでオルサッティ教授らは、筋肉痛の大きさと体脂肪の変化との関係に着目したところ、筋肉痛が軽い人で体脂肪が低下しているという相関関係を認めました。
この結果をもとに、研究チームは一度に特定の筋群をハードに追い込む分割法群では、筋疲労やトレーニング後の筋肉痛によって、その後の日常生活の活動量が減ってしまい、エネルギー消費量が少なかった可能性があると考察しています。
これは、運動の種類が違うものの、以前取り上げた、筑波大学や東京都立大学の研究チームらによる激しい運動によるデメリット面にも通じるもので、興味深い結果です。
その他にも、研究チームは、全身法では、毎回大きな筋肉が使われるため、運動後しばらくの間エネルギー消費量が増えるいわゆるEPOC現象からみても、体脂肪を減らすために全身法の方が有効な可能性があることを指摘しています。
なお、この実験では、全身法群の方がトレーニング期間を通した総負荷量(全ての種目を合計した重量×反復回数×セット数)が多くなっていました。
ただし、体脂肪の変化との相関関係は、総負荷量よりも筋肉痛の方が強かったことを踏まえ、研究チームは総負荷量の差が全身法群における著しい体脂肪減少には寄与しなかっただろうと考察しています。
全身法は、急な事情でトレーニングが1回できなくなった場合でも、毎回全身に刺激が入るため、筋力向上や筋肥大につながりやすいとされます。
一方、分割法ではトレーニングを休むことがあった場合、全身の筋肉を一巡するのに時間がかかってしまい、仕事やプライベートが忙しい時にはなかなか効果があがりません。
過度なダメージを避けながらも、肉体改造をはかりたい人は、一度に様々な種目を行う全身法を取り入れてみてはいかがでしょうか?
参考文献
Being Sore After a Workout Doesn’t Mean Your Muscles Are Growing
https://www.vice.com/en/article/9k4gvy/being-sore-after-a-workout-doesnt-mean-your-muscles-are-growing
元論文
Full-body resistance training promotes greater fat mass loss than a split-body routine in well-trained males: A randomized trial
https://doi.org/10.1002/ejsc.12104
High-Frequency Resistance Training Is Not More Effective Than Low-Frequency Resistance Training in Increasing Muscle Mass and Strength in Well-Trained Men
https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000002559
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。