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長寿番組が終了したとき、視聴者は「親友を失ったのと同等の悲しみ」を経験していた


日本の有名な長寿番組というと、2014年の放送終了まで約32年間続いたお昼の人気番組『笑っていいとも!』 があります。

おそらく大半の人が一度は目にしたことがあるでしょうが、その中でも特に番組を長年追い続けていた視聴者は放送終了に何を思ったのでしょうか。

最近、いいともを対象とした調査ではないものの、豪セントラルクイーンズランド大学(CQU)が同国で37年間も続いた長寿番組『ネイバーズ』の終了に対する視聴者の反応を調べた研究を発表しました。

それによると、視聴者は長寿番組の終わりに対し「まるで親しい友人を失ったのと同じような喪失感を経験していた」というのです。

いいともの終了で同じ感情を味わった人は多いかもしれません。

研究の詳細は2024年6月12日付で科学雑誌『PLOS One』に掲載されています。

目次

  • 37年続いた長寿ドラマ『ネイバーズ』を対象に調査
  • 「親友を失った悲しみ」と同等の経験をしていた

37年続いた長寿ドラマ『ネイバーズ』を対象に調査

オーストラリアの人気長寿ドラマ『ネイバーズ』のロゴ
オーストラリアの人気長寿ドラマ『ネイバーズ』のロゴ / Credit: en.wikipedia

長年続いたテレビ番組や熱心に追いかけていたドラマシリーズが終了すると、ファンは大きな動揺と喪失感を経験することがあります。

日本では「〜ロス」なんていう言葉も使われますよね。

その一方で、長寿番組の放送終了に対し、視聴者が具体的にどのような感情を抱いているのかは学術的にほとんど調査されていません。

そこで研究チームは今回、オーストラリアの人気ドラマシリーズ『ネイバーズ(Neighbours)』の放送終了を機に調査を行いました。

ネイバーズとは、1985年に放送開始したソープオペラ(連続ドラマ)で、ラムゼイ・ストリートという架空の通りに住む人々の生活を描いたフィクション作品です。

主にオーストラリアやイギリスを中心に長年愛され続けていましたが、2022年7月22日をもって37年の歴史に幕を下ろしています。

(ちなみにですが、ネイバーズが2023年9月18日に『Neighbours: A New Chapter』として新シリーズが始まっています)

長寿番組の終了に視聴者はどんな感情反応を示すのか
長寿番組の終了に視聴者はどんな感情反応を示すのか / Credit: canva

本調査では、2022年の最終回が放送された直後に、視聴者がどのような感情体験をしたかを調べるオンライン調査を実施しました。

調査に参加する条件は

・シリーズのファンであること

・過去12カ月間に平均して週に一回以上、同シリーズのエピソードを視聴していること

・シリーズの最終回を見ていること

の3つでした。

参加者はFacebookおよびTwitter(現X)への投稿を通じて募集され、最終的に1289名の回答が得られています。

参加者の大半はイギリス(68.04%)とオーストラリア (13.42%)に住んでおり、76.34%が女性、平均年齢は45.12歳でした。

その多くはネイバーズの長年のファンであり、512名がシリーズを放送開始から37年間追い続けていました。

また参加者の90%以上は週に平均5エピソードを視聴していたとのことです。

アンケート調査では、ネイバーズ終了に対する悲しみや怒り、喪失感、キャラクターへの共感度、番組への感謝の程度を評価しました。

例えば、参加者は「ネイバーズが終了したことに腹が立つ」「ネイバーズの放送が恋しい」「ネイバーズが終わったことをまだ認めていない」「大好きなキャラクターと会えなくなることが寂しい」「番組が長く続いたことに感謝している」などの質問項目を評価しています。

では、調査の結果を見てみましょう。

「親友を失った悲しみ」と同等の経験をしていた

調査の結果、全体の傾向として、参加者はシリーズの終了に対し、深い悲しみや喪失感を経験しており、ネイバーズの終了を受け入れるのが困難であると報告していました。

その中でも特に興味深かったのは、参加者がネイバーズに登場するキャラクターとの間で、高いレベルでの「パラソーシャル関係」を築いていたことです。

パラソーシャル関係とは、個人的には面識のない有名人やインフルエンサー、あるいはドラマ・ゲーム・アニメなどに出てくる架空の人物に対して、親しみや友情、恋心を一方的に抱く関係のことです。

これは異常心理ではなく、ほとんどの人が経験している健全な心の働きであり、多くの場合は精神の安定や気分の向上といったプラスの作用を与えてくれます。

本調査では、全部で72人のキャラクターがお気に入りの人物として選ばれており、現役のキャラクターや過去回でシリーズを去ったキャラクター、中には1980年代にまで遡る古いキャラクターもいました。

参加者はそうした自分の好きなキャラクターに会えなくなることに対し、強い悲嘆や喪失感を感じていたのです。

これについて心理学者で研究主任のアダム・ジェレス(Adam Gerace)氏は「視聴者が現実の親しい友人と別れたり、恋愛関係が終わったときに感じる悲嘆や苦痛と同じレベルの感情経験をしていることを意味する」と指摘しました。

また「ファンたちはまるで親友を失ったかのようにシリーズの終わりについて話していたのです」と述べています。

親友を失ったような悲しみを経験していた
親友を失ったような悲しみを経験していた / Credit: canva

これと同じ反応は、いいともが終了したときに多くの視聴者が直面した感情反応とよく似ているのではないでしょうか。

長年いいともを見続けてきた視聴者の中には、タモリさんが親戚のおじさんみたいに感じられたり、タモリさんの顔を見るとなぜか安心できたという人も多いかもしれません。

以上の結果は、パラソーシャル関係が年月の積み重ねによって強まることで、長寿番組が終了したときの喪失感や番組内の人物と会えなくなることの寂しさががより深まることを示すものです。

その一方で、ネイバーズの視聴者の多くは「シリーズがこれほど長く続いたことに感謝している」とも答えていました。

「こうした反応は何もテレビ番組に限ったことではないでしょう」とジェレス氏は話します。

特に今ではテレビよりも、YouTubeやサブスクのドラマシリーズが高い人気を集めています。

例えば、贔屓(ひいき)にしていたYouTubeチャンネルの終了や、メンバーの卒業に対して、同様の喪失感を感じている方も多いのではないでしょうか。

孤独な人ほど「現実の友人」と「架空のキャラ」に対する脳活動パターンが同じになる!

全ての画像を見る

参考文献

Fans of long-running TV show experienced grief similar to losing a close friend when show ended, study finds
https://phys.org/news/2024-06-fans-tv-experienced-grief-similar.html

Feel grief when a favorite TV show ends? You’re not alone
https://www.nbcnews.com/health/health-news/feel-grief-favorite-tv-show-ends-re-not-alone-rcna156456

元論文

When TV neighbours become good friends: Understanding Neighbours fans’ feelings of grief and loss at the end of the series
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0302160

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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