マウンティングとは、「自分の方が優れている」と相手に誇示してしまうことを言います。
例えば働き方に悩む非正規雇用の人に対して、「社員なんて責任が重くて大変なだけだよ、非正規の方が気軽でいいじゃん」と励ました場合、一見相手への理解を表していますが、言葉や態度で「自分はあなたよりも責任の重い仕事をしている優れた人間だ」ということをにじませています。
もちろんこれをマウントだと受け取るのは、捻くれ過ぎと思う人もいるでしょう。
これは最もな意見で、会話の中のマウンティングはあからさまなものよりも、皮肉めいた分かりづらい言い回しで伝えることがほとんどです。
そのため、会話でマウントの取り合いが発生するかどうかは、相手がどれだけマウンティングに敏感かどうかにかかっています。
スルーする人もいれば、別に発言側はそんなつもりじゃなかったのに食ってかかられることもあるのです。
そして研究によると、マウンティングは男性に比べ女性の方が発生しやすいと言われています。
よく男性視点で、女性の友達関係って仲が良いのか悪いのかよくわからない、と言われてしまう原因もこのことが関係しているかもしれません。
今回は、マウンティングエピソードを多数収集し、性質ごとにタイプ分けした、お茶の水女子大学の論文を紹介し、なぜ女性は繊細で複雑なマウンティングが発生しやすいのか? その謎に迫っていきます。
目次
- 女性は敏感!男性は鈍感?マウンティングとは
- 女性のマウンティングは非常に複雑
- マウンティングの分類から分かること
女性は敏感!男性は鈍感?マウンティングとは
お茶の水女子大学の論文によると、「マウンティング」とは相手よりも自分が優位であることを示す行為だとしています。
生物学における「マウンティング」とは、サルが格下のサルの上に乗ることによって、群れにおける順序を確認するために行う動作を指しています。
しかし、2014年ごろからは、「自分のほうが立場が上である」と示すときの言動を表す用途で「マウンティング」が使われることが多くなってきたといいます。
もっと前からマウンティング自体はあったはずですが、皮肉同様、会話のマウンティングはあまり直接的に表現されないことが多く、明確に現象として認識され、深く研究されることがなかったようです。
例えば、既婚女性と未婚女性の友達同士で会話をしていて「休日は夫と子どもがいて大変!全然遊びに行けないよ。でも子どもの笑顔を見てると疲れが吹き飛んじゃう」、「やっぱ結婚って大変そうね。私はまだまだ1人で楽しく暮らしたいな」というやり取りがあった場合、これはマウンティングに当たるでしょうか?
この発言は客観的には自分に起きていることを報告しているだけで、マウンティングをしていないようにも見えます。しかし、言外の部分で自分の有意性を主張し合っていて、バチバチと見えない火花が飛んでいるシーンと受け取ることもできるでしょう。
実際にマウンティングは、非常に分かりづらい表現をされることが多く、会話をしている当事者同士でさえも、マウンティングをしている・されているという感覚を自覚していない場合があります。
しかし、「自慢をしたい、羨ましいと思われたい」という気持ちで、自分の現況を話す人はいますし、それを敏感に察知して不快に思う人がいることも事実です。
つまり会話でマウンティングが起きるかどうかは、会話相手の敏感さが関係しています。
そして同大学の研究によると、このマウンティングは女性同士のほうが起こりやすいというのです。
マウンティングの定義
お茶の水女子大学では、マウンティングには以下の4つの特徴があると指摘しています。
- 初対面やその場限りの関係ではなく、すでに関係性が築かれている者同士で起こる
- 一方が一方に対して「立場が上」であることを暗に示している
- マウンティングされたほうは不快に感じる
- マウンティングをするほうは一見加害しているようには見えない、もしくは実際に加害意識がない
ドラマや漫画などでは大げさに描かれがちですが、上記4つの条件を満たすようなできごとは日常的に発生します。
マウンティングは「すでに関係性が築かれている者同士」で起こることから、その場の空気感や友好関係を保つために、不快な気持ちを我慢する人も少なくありません。
こうした定義からもわかるようにマウンティングが成立するためには、友達などのよく知っている関係であること、また相手がマウンティングされたことに気づいて不快感を抱いている必要があります。
そしてマウンティングについては、女性の方が敏感なため、マウンティングが起きやすいというのです。
確かに漫画やドラマでは、女性同士が張り合っているとき、男性だけ状況がよくわかっていないという描き方をされることがあります。
こうした状況が描かれやすいのは、男性が女性同士の行うマウンティングに鈍感で、女性は敏感であるからだと考えることができます。
しかしなぜ、女性の方がマウンティングに対して敏感なのでしょうか?
女性のマウンティングは非常に複雑
女性がマウンティングに敏感な理由は、男性と異なり、女性のマウンティングには非常にバリエーションが多く、複雑であるためだという予測があります。
そこで今回の研究者は、書籍やドラマ、リアリティショーなどから、先に上げたマウンティングの4つの特徴を満たしたエピソードを抽出し、タイプ別に分類してみました。
このプロセスでは分析者の主観や思想を排除し、エピソード内にある特徴的な単語を機械的に抽出することによって、マウンティングのタイプを客観的に分類しています。
その結果、女性のマウンティングは大きく分けて「伝統的な女性」「自立した女性」「性的魅力」の3つのタイプに分類でき、さらに20個の概念に細分化して分類できることが分かりました。
①伝統的な女性
自分は伝統的に素晴らしいとされる女性像を体現している人間だとアピールするタイプ。
このタイプはさらに以下の6つに分類されます。
概念名 | 具体例 |
貞淑さ | 飲み会でおしゃれをする女性に「今日は気合が入っているね」とからかう |
既婚の安定 | 独身の女性に「先に結婚してごめんね」と突然謝罪をする |
夫や彼氏の存在 | 夫や彼氏に買ってもらったアクセサリーだとわざわざ伝える |
子どもの存在 | 子どもがいない人に「自由でいいね、自分は毎日忙しくて大変」と、子どもがいない人は苦労が無いと決めつける |
年の功 | 年下女性に対して「こんなにはしゃげるのも今のうち」と伝える |
実家資源 | 母親のブランドバッグを借りてきたことをわざわざ伝える |
②自立した女性
仕事や経済力を持っていて、男性に頼らず生活できることをアピールするタイプです。
概念名 | 具体例 |
キャリア | 契約社員に対して「正社員は長時間働いても給与が変わらないけど、安定しているからやっていける」などの愚痴を言う |
学歴 | 高学歴の女性が「学歴が無いのに結果を出すのはすごい」と褒める |
仕事の有能さ | 仕事の結果を報告した人に対して、「私も認められたことがある」と返答する |
苦労 | 両親に育児を手伝ってもらう人に「実家が近いのは得、それに比べて…」と自分の苦労話をする |
経済力 | 高級時計を「安く買った」と見せる |
独身の自由 | 既婚者に対し「独身生活謳歌しています」とあえて伝える |
海外経験 | 「海外経験があるから視野が広がった」と渡航歴が無い人に言う |
居住地 | 地元の友人に対し「ここにもこんな店あるんだ、意外」と言う |
趣味・教養 | テレビの話をする人に対して「テレビを見るのに意味を見いだせない、それより…」とより崇高なことをしていると暗に伝える |
③性的魅力
異性からモテている、魅力的な外見を持っていることを誇るタイプ。
概念名 | 具体例 |
美しさ | 「メイクが上手で羨ましい、私はメイクしても変わらない」と外見をメイクでごまかしていないようにふるまう |
ファッションセンス | 頼まれてもいないのに「自分のお下がりを上げる」と提案する |
若さ | 年上の女性に対して「◯歳になったら年増になってしまう」と言う |
モテ経験 | 「また告白されてしまった、軽く見られているのかもしれない」と、自分に問題があることを悩むように、異性からの告白経験を発表する。 |
男性のセンス | 友人の彼氏の写真を見て「優しそう、イケメンじゃない人を選ぶのが逆にいいよね」などと、暗に相手のパートナーの容貌を貶す |
こうしてみると確かに女性のマウンティングには、細かなタイプがあるとわかります。ではここから何が言えるのでしょうか?
マウンティングの分類から分かること
お茶の水女子大学の研究から、マウンティングにはさまざまな種類があり、大きく3つのタイプに分類できることが分かりました。
それぞれのタイプは、貞淑さ、自立、性的魅力と相反するものであり、すべてを兼ね備えるのは難しいでしょう。
そのため、ある部分では勝てるが違うところでは負けてしまう、膠着した三すくみの状態になることが考えられます。
例えば、貞淑さの観点では評価される「結婚し、家族がいる女性」は、自立という点では「家族の存在に縛られていて自由に暮らせない」と判断されることもあります。
相手にマウンティングされたと感じる一方、自分自身もその相手にマウンティングしていることもよくあるでしょう。
このようにして、女性同士のグループ内でマウンティングが繰り返されてしまうことが考えられます。
男性同士のマウンティングとの違い
当たり前ではあえりますが、女性同士だけではなく男性同士でもマウンティングは存在します。
男性によく見られるマウンティングは以下のような項目です。
- 職業上の成功
- 肉体や精神の強さ
- 独立心
これらは互いに矛盾しないことが一般的で、肉体や精神の強さを持ちながら、仕事で成功し、結果独立していくことが可能です。
有名な「俺、昨日1時間しか寝てなくてつらいわ~」というのも、「俺は寝ないで仕事しまくってるけど、お前らはどうなの?」という寝ないでも平気という肉体的な優位や、仕事がたくさんこなせるという職業上のマウントです。
なので女性のように相反する価値観同士で反発することなく、すぐに勝敗がつく傾向にあると言えるでしょう。
分かりやすく順位付けができることから、男性の場合それぞれが過剰に自分が上位であるとアピールする必要もなく、マウンティングそのものが起きにくいことも考えられます。
女性同士でマウンティングが起きやすいのは、それぞれが持つ価値観の多様さ、単純に優劣がつきにくい三すくみ状態などが影響しているのではないか、と研究者は指摘します。
今回の研究を聞いていると、家族との幸せエピソードをブログに上げただけの元アイドルが、鬼のように叩かれてしまう現象にもある程度納得ができます。
今後の展望・マウンティングに負けないために
マウンティングをされたと感じると、人は多少なりともストレスを感じます。
しかし、人によって何をマウンティングと感じるのか異なることもあり、一概に「マウンティングはやめよう」といっても解決しないでしょう。
そもそもですが、マウンティングをしている方は無意識であるパターンも少なくなく、ただの世間話をマウンティングにとらえてしまう可能性もあります。
「マウンティングはよくないこと」と啓蒙したとしても、何も変わらないこともあるでしょう。
そこで、マウンティングからのストレスを軽減するためには、「マウンティングをされたと感じる人」の防衛が必要です。
そのために、今回分類したマウンティングエピソードを使い、それぞれどのようなエピソードでどの程度不快に思うのか階層表の作成が役立つのではないか、と期待されています。
この階層表と自分自身の回答を比較することにより、自分がどのようなマウンティングにどのように弱いのか把握可能です。
事前に自分が傷つくポイントが分かっていれば、苦手は話題になったらトイレに退避するなどして防御することができるようになるでしょう。
参考文献
「私、今マウンティングされた?」なぜ女性同士がマウントを取り合うのか。臨床心理学者・森裕子さんインタビュー
https://yoi.shueisha.co.jp/body/mentalhealth/5915/
元論文
マウンティングエピソードの収集とその分類:隠蔽された格付け争いと女性の傷つき
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050573243113624064
ライター
永山めぐみ: 大学ではコンピュータサイエンスと数学を主に学びました。卒業研究はArduinoによるマイコン制御。そのほか、生物学、医学、遺伝学、動物に興味があります。今は2.5人(お腹に1人)の育児中。子どもから大人まで楽しめるトピックを探索します。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。