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「長時間フライト中の飲酒」実はとても危険な行為だった!


海外旅行は楽しいイベントですが、前後の長時間フライトを苦痛に感じる人は少なくありません。

人によっては、「無料のアルコールサービスと睡眠が一番の癒しだ」と感じることでしょう。

しかし、そのような「フライト中の飲酒」は、健康面を考えると特に避けるべきことなのかもしれません。

最近、ドイツ航空宇宙センター(DLR)に所属するラベア・アントニア・トラマー氏ら研究チームは、アルコール飲料と航空機内における低圧環境の組み合わせが、血中酸素濃度(SpO2)や心拍数、深い睡眠に対する悪影響を強くすると報告しました。

研究の詳細は、2024年6月3日付の学術誌『Thorax』に掲載されました。

目次

  • フライト中の低圧環境が乗客に及ぼす影響
  • フライトと飲酒の組み合わせは血中酸素濃度への悪影響を増強する

フライト中の低圧環境が乗客に及ぼす影響

航空機の乗客は低圧環境の影響を受ける
航空機の乗客は低圧環境の影響を受ける / Credit:Canva

高高度のフライトは、燃費が良く、悪天候や乱気流を避けることができるため、航空機にとってメリットばかりです。

しかし、機内の人間にとっては、心地よい環境ではありません。

高度約1万mを飛行する航空機の周りでは、気圧が著しく低下しており、酸素も少なくなります。

もちろん機内では、気圧を調整する装置によって地上に近い環境を作り出していますが、それでも地上と全く同じではありません。

機内気圧は約0.8気圧程度になるため、内部の乗客は標高約2000m(富士山5合目)いるのと変わらない環境になるのです。

また気圧の低下に伴い、健康な乗客でも血中酸素濃度(SpO2)がいくらか低下します。

このSpO2の標準値は96~99%であり、90%以下(低酸素血症の目安)になると十分な酸素を全身の臓器に送れなくなった状態だと言えます。

フライト中、血中酸素濃度が90%以下になることも
フライト中、血中酸素濃度が90%以下になることも / Credit:Canva

機内では、それら特殊な環境により、乗客のSpO2が90%を下回ることがあります。

そうなると、体中の組織に酸素が不足した状態になるため、酸素供給を安定させるために心臓の拍動が速くなります。

こうした変化は体に良いものではなく、心臓や呼吸器にトラブルを抱えている人や妊婦、新生児に悪影響を及ぼす恐れがあります。

そして似たような体の反応は、アルコール飲料を摂取した時にも生じます。

お酒を飲むと血管の拡張などの反応が起こり一時的に血圧が下がるため、血圧を安定させるために体は脈拍を増加させます。

過去の研究では、アルコールが睡眠中の心拍数を増加させることも示されています。

そのため、長時間フライト中に飲酒をした乗客は、「低圧環境」との組み合わせた2つの要因で心拍数の増加を体験する可能性が高いのです。

では、実際にフライト中の気圧環境で飲酒した場合、私たちの体はどのような状態になるのでしょうか?

トラマー氏ら研究チームは、この疑問に答えるために、実験を行うことにしました。

フライトと飲酒の組み合わせは血中酸素濃度への悪影響を増強する

参加者たちは、フライト中を模した環境で眠り、地上との違いが分析された
参加者たちは、フライト中を模した環境で眠り、地上との違いが分析された / Credit:Canva

実験では、18~40歳の健康な参加者48名が集められました。

その半数は航空機と同じ低圧環境の部屋に入った「機内グループ」、残りは通常の気圧と酸素の部屋に入った「地上グループ」に分けられました。

そして各グループは、それぞれの環境で2晩過ごし、そのうち1晩は飲酒するよう求められました。

彼らは、缶ビール2本分のアルコール量に相当するウォッカを飲みました。

つまり、「飲酒なし・通常気圧」「飲酒あり・通常気圧」「飲酒なし・低圧」「飲酒あり・低圧」の4パターンで実験が行われたことになります。

参加者たちはそれぞれの晩で4時間眠り、その間、血中酸素濃度(SpO2)、心拍数、睡眠の質などのデータが収集されました。

その結果、血中酸素濃度(SpO2)に関しては、次のような違いが生じました。

  • 「飲酒なし・通常気圧」 : 95.88%
  • 「飲酒あり・通常気圧」 : 94.59%
  • 「飲酒なし・低圧」        : 88.97%
  • 「飲酒あり・低圧」        : 85.32%

地上で飲酒するだけだと血中酸素濃度は少し下がる程度で問題は無いように思えます。

一方、低圧環境になると低酸素血症のしきい値である90%以下になり、飲酒するとさらに悪化します。

しかも「飲酒あり・低圧」で眠った人々は、睡眠4時間(240分間)のうち、平均201分間、血中酸素濃度が90%を下回った状態でした。

つまり、フライト中に飲酒して眠る人の血中酸素濃度は、睡眠中のほとんどの時間で、危険な状態にあったと言えるのです。

フライト中の低圧環境と飲酒の組み合わせは、血中酸素濃度、心拍数、睡眠の質を悪化させる
フライト中の低圧環境と飲酒の組み合わせは、血中酸素濃度、心拍数、睡眠の質を悪化させる / Credit:Canva

また心拍数に関しても、同様の結果が得られました。

  • 「飲酒なし・通常気圧」 : 63.74bpm
  • 「飲酒あり・通常気圧」 : 76.97bpm
  • 「飲酒なし・低圧」        : 72.90bpm
  • 「飲酒あり・低圧」        : 87.73bpm

やはりフライトと飲酒の組み合わせによって心拍数が一番高くなっており、平常時と比べて平均37.63%増加しています。

さらに睡眠の質に関しても同じ結果が出ており、「飲酒あり・低圧」の条件では、深く眠っている時間が他と比べて半分近くまで減少していました。

これらの結果は、長時間フライトで提供されるアルコール飲料が、体に強い負担をかけることを示しています。

当然酸素濃度が低下した状態が続けば、意識の混濁や呼吸困難の恐れが増加します。またこの状況は不整脈の原因にもなります。

そのため研究チームは、「特に高齢者や持病のある人たちの間では、フライト中に医療上の緊急事態が発生するリスクが高まるかもしれない」と警告しています。

体調に不安を抱えている人は、旅行を存分に楽しむためにも、長時間フライトであってもシラフでいる方が良いのかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Drinking alcohol on airplanes is bad for your body
https://www.popsci.com/health/alcohol-airplane/

Inflight drinks on long-haul flights increase risk to heart health
https://newatlas.com/health-wellbeing/alcohol-cabin-pressure-heart-health/

元論文

Effects of moderate alcohol consumption and hypobaric hypoxia: implications for passengers’ sleep, oxygen saturation and heart rate on long-haul flights
https://doi.org/10.1136/thorax-2023-220998

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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