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全長2.7mの怪物サーモン!特徴的な牙を持つ古代の巨大鮭の謎


現在、地球上で最も大きな鮭である「キングサーモン」は、全長1.5メートル・体重60キロの巨体を誇ります。

ところが過去の地球には、これをはるかに上回る怪物サーモンがいたのです。

約500万年前まで北米の海に存在していた「オンコリンクス・ラストロスス(Oncorhynchus rastrosus)」はサケ科の中で最大の魚種であり、最大全長は約2.7メートルに達しました。

また米フィラデルフィア・カレッジ・オブ・オステオパシック・メディスン(PCOM)の最新研究で、本種は口先の左右にイノシシのような一対の牙を生やしていたことが明らかになったのです。

研究の詳細は2024年4月24日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されています。

 

目次

  • 史上最大の怪物サーモンの「牙」とは?
  • 牙は口先の左右から生え出ていた!

史上最大の怪物サーモンの「牙」とは?

オンコリンクス・ラストロスス(以下、O. ラストロススと表記)は、新たに見つかった新種ではありません。

本種の最初の化石は断片的なものが1917年にカリフォルニア州で発見されました。

しかし、より完全な標本が発掘されて、論文に学名が記載されたのは1972年になってからです。

O. ラストロススはタイヘイヨウサケ属の一種であり、化石記録から新第三紀(2303万〜258万年前)の前期に出現して、約475万年前までに絶滅したと推定されています。

主な生息場所は北米太平洋岸の北西部であり、現在のキングサーモンと同様に、淡水域で生まれた後に海で生涯の大半を過ごし、産卵のために川へ戻ってくるという生態でした。

最も驚くべきはそのサイズです。

最大全長2.7メートルという鮭としては規格外の大きさであり、キングサーモンよりも平均1メートル近く大きかったと見られています。

オレゴン大学自然文化史博物館に展示されているO. ラストロススの化石と復元像
オレゴン大学自然文化史博物館に展示されているO. ラストロススの化石と復元像 / Credit: PCOM –‘SABER’ NO MORE: A GIANT PREHISTORIC SALMON HAD SPIKE TEETH(2024)

ただO. ラストロススの存在が明らかになった当初から、興味深い点が一つありました。

それは長さ5センチ程の一対の牙を持っていたことです。

現代の鮭にも鋭く細かな歯はありますが、これほど大きな牙はありません。

研究者らは当初、この特大の牙が前歯として口内に生えていたものと考えていました。

というのも、当時見つかっていた牙の化石は他の頭蓋骨から離れた状態で見つかっていたため、どこに生えていたのか特定できず、前歯として考えるのが自然だったからです。

上の画像の壁絵でも、一対の牙は前歯として再現されています。

このことから、O. ラストロススは英名で「セイバートゥース・サーモン(剣歯鮭:saber-toothed salmon)」と呼ばれるようになりました。

ところが、です。

研究チームの新たな調査で、O. ラストロススの牙は前歯ではなく、口先の左右に横向きに生え出ていたことを突き止めたのです。

牙は口先の左右から生え出ていた!

チームは2014年に発見された化石からこの新事実にたどり着きました。

化石にはアゴと牙がつながった状態で残っており、そこから一対の牙が口先の外側の左右に横向きになって生え出ていたことが確認できたのです。

またこれまでに回収されたO. ラストロススの様々な化石断片をCTスキャンで分析し、牙がどこにどのような形で生え出ていたかを検証した結果、どの個体でも口先の左右に生えていたことが確かめられました。

加えて、オスとメスが同じように牙を持っていたことも判明しています。

牙が口先に生え出ている化石
牙が口先に生え出ている化石 / Credit: PCOM –‘SABER’ NO MORE: A GIANT PREHISTORIC SALMON HAD SPIKE TEETH(2024)

この事実からチームは、O. ラストロススの英名を「セイバートゥース・サーモン」ではなく、トゲのような歯が生えていることを意味する「スパイクトゥース・サーモン(spike-toothed salmon)」に改名するべきだと述べました。

口先の牙が何に使われていたのかは定かでありませんが、チームはライバル同士の争いや捕食者の撃退に使われていただろうと考えています。

また他に、巣穴を掘るためにも使われていた可能性もあると指摘しました。

研究主任のケリン・クライソン(Kerin Claeson)氏は「ライバルや捕食者と争うのに役立ったこの大きな牙は、この巨人たちがおそらく穏やかな生き物ではなかったことを指し示している」と話しています。

O. ラストロススの復元イメージ(口先の左右に一対の牙)
O. ラストロススの復元イメージ(口先の左右に一対の牙) / Credit: PCOM –‘SABER’ NO MORE: A GIANT PREHISTORIC SALMON HAD SPIKE TEETH(2024)

一方で、この牙が獲物の捕食に使われた可能性はありません。

というのも、O. ラストロススは現代のキングサーモンのように甲殻類やイカ、小魚を食べるのではなく、ヒゲクジラ類のように濾過摂食によってプランクトンを食べていたことがわかっているからです。

なのでイカやカニを狙う獰猛な捕食者ではありませんでしたが、ライバルや天敵とは勇敢に戦ったことが伺えます。

余談ですが、鮭の赤い身はエビやカニに含まれるアスタキサンチンという色素によるものであることがわかっています。

そのため、O. ラストロススがこれらの甲殻類を食べなかったのであれば、彼らの身はいわゆるサーモンピンクではなかったのかもしれません。

チームは現在、牙の化石の摩耗パターンを分析して、それらが具体的にどんな使われ方をしたかを調べているところです。

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参考文献

‘SABER’ NO MORE: A GIANT PREHISTORIC SALMON HAD SPIKE TEETH
https://www.pcom.edu/campuses/philadelphia-campus/news-and-events/pcom-news/saber-no-more-giant-prehistoric-salmon-had-spike-teeth.html

These giant, prehistoric salmon had tusk-like teeth
https://www.eurekalert.org/news-releases/1041599

Giant prehistoric salmon had tusk-like teeth, just like a warthog’s
https://www.livescience.com/animals/extinct-species/giant-prehistoric-salmon-had-tusk-like-teeth-just-like-a-warthogs

元論文

From sabers to spikes: A newfangled reconstruction of the ancient, giant, sexually dimorphic Pacific salmon, †Oncorhynchus rastrosus (SALMONINAE: SALMONINI)
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0300252

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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