幼稚園や小学校の時代に、「ホッピング」というバネを使った遊具で遊んだことがあるかもしれません。
香港城市大学(City University of Hong Kong)に所属するソンナン・バイ氏ら研究チームは、一般的なクアッドコプターを備えたドローンの下部にこの「ホッピング」を搭載されせたバージョンを開発しました。
「ホップコプター」と呼ばれるこのドローンは、通常通り空を飛ぶことができるだけでなく、飛び跳ねながら移動できます。
これにより加速度の急激な増加や、急旋回が可能になった他、消費電力を節約できるようになり、ドローンの「飛行時間が短い」という欠点も補えたという。
この新しいドローンは、非常に小型でありながらホッピング機能を使えば、1時間近くも跳び続けることができるようです。
研究の詳細は、2024年4月10日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。
目次
- ドローンの欠点を補うホッピング付きクアッドコプター
- 6分しか保たないバッテリーで1時間跳ね続ける「ホップコプター」
ドローンの欠点を補うホッピング付きクアッドコプター
ドローンには、野生動物や農作物の監視、捜索救難など、幅広い分野で活躍する可能性が秘められています。
しかし、いつも「飛行時間」の課題が付いてまわります。
サイズが大きい産業ドローンであっても20~30分しか飛べず、コンパクトなホビードローンだと、わずか10分の間すら飛び続けることができないのです。
ソンナン・バイ氏ら研究チームは、この課題に取り組むために、「ホッピング」に着目しました。
ホッピング(またはポゴスティック)とは、バネが付き棒に足場と取手がある遊具のことであり、ぴょんぴょん飛び跳ねながら前進できます。
「子供のころホッピングで遊んだことがある」という人も多いでしょう。
新しいドローンは、4つのプロペラで飛ぶ一般的な「クアッドコプター」の下部に、このホッピングを装備しています。
これにより、通常通り空を飛ぶだけでなく、飛び跳ねながら前進することができるのです。
この新しいドローンは、「ホップコプター(Hopcopter)」と呼ばれており、従来のドローンと比べて、消費電力を大幅に削減できます。
高く飛び上がる際には、電力でモーターを回転させる必要がありますが、そこから地面に落下・衝突し、バネの力で反発する際には、モーターの使用はほとんどありません。
反発の際、ドローンは足の角度を調整することができるため、同じ場所で飛び跳ねるだけでなく、意図した進行方向へ前進することも可能です。
これによりかなりトリッキーな挙動で動き回ることができ、急激な加速と急旋回も可能になりました。
そして何より驚くべきはホッピングを併用したことによる稼働時間の延長です。
小型のドローンではこれまでありえなかった、その挙動について次項で見ていきましょう。
6分しか保たないバッテリーで1時間跳ね続ける「ホップコプター」
屋内テストでは、平均ジャンプ高度1.63mだったようです。
そして重要なのは、バッテリー1回の充電で50分間も飛び跳ね続けることができたという点です。
一方、通常の飛行モードでは、わずか6分間でバッテリーが切れました。
この事実からも追加されたホッピング機能がどれだけ消費電力の節約に役立っているか理解できます。
ちなみに、ホッピング機能に頼ることで、ドローンの飛行時間だけでなく、積載量もいくらか増えるようです。
研究チームは、ホップコプターを望み通りに、ある場所から別の場所へと簡単に移動させたり、瞬時に方向転換させたりできることを発見しました。
ちなみに、通常の飛行モードでは、そのような高速急旋回は不可能です。
また、状況に応じて飛行モードとホッピングモードを切り替えることで、様々な地形に対応できる可能性も見出しました。
加えて、凸凹の地面でも上手く飛び跳ねたり、壁を蹴ったりするトリッキーな挙動制御も実現。
ドローンは複雑な地形では壁などに衝突して損傷する危険がありますが、このポップコプターでは足を緩衝装置のように用いて、壁やその他の構造物にぶつかる際に、本体の損傷を防ぐことができ、さらにこれを方向転換や加速に利用できるのです。
さらに機体の上部に羽のようなスタビライザー(安定化装置)を取り付けることで、ジャンピング移動をより安定させられます。
これにより、狭い廊下や階段であっても難なく移動できるようです。
研究チームによると、「ホップコプターの重さは約35gと非常に軽量であり、小鳥ほどのサイズ」とのこと。
彼らは、ホップコプターのようなドローンが、森の中を飛び跳ねながら野生動物を監視したり、災害地域で生存者を捜索したり、農場で植物から植物へ飛び跳ねて移動し、土壌や水分レベルを検査したりできると考えています。
もちろん、「空中浮遊」という観点では、ホップコプターも従来のドローンと同じく、短時間しか飛行できません。
それでも、小型ドローンに求められている役割の大部分は、電力をほとんど消費しない「ホッピング」でも代替できるため、このアイデアは画期的だと言えます。
もしかしたら将来、森林や農場、災害地域を、多くのホップコプターが飛び跳ねていく様子が見られるかもしれません。
参考文献
Adding a telescopic leg beneath a quadcopter to create a hopping drone
https://techxplore.com/news/2024-04-adding-telescopic-leg-beneath-quadcopter.html
Video: Ultra-efficient flying pogo robot bounces around on its tail
https://newatlas.com/drones/hopcopter-hopping-drone/
元論文
An agile monopedal hopping quadcopter with synergistic hybrid locomotion
https://doi.org/10.1126/scirobotics.adi8912
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。