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世界第1号!「ニューラリンクの脳内チップ」でチェスをプレイ!


ニューラリンクの脳内デバイスがついに人体で試行されたようです。

米カリフォルニア州に拠点を置く新興企業・ニューラリンク(Neuralink Corporation)は20日、同社の超小型チップを脳内に埋め込んだ治験者が思考だけでオンラインチェスをプレイする様子をライブ配信しました。

ニューラリンクは実業家のイーロン・マスク(Elon Musk)氏が2016年に創設した会社で、脳およびコンピューター間の直接的なコミュニケーションチャネルを構築することを目指しています。

今回、超小型チップを埋め込んだノーランド・アーバー(Noland Arbaugh)さんは全身麻痺患者であり、ニューラリンクのデバイスを利用した治験者の第1号となりました。

目次

  • ニューラリンクの「超小型チップ」の仕組みとは?
  • ニューラリンク世界初のユーザーがチェスのプレイに成功

ニューラリンクの「超小型チップ」の仕組みとは?

人間の脳には全部で約860億個のニューロン(神経細胞)があり、ニューロン同士はシナプスでつながっています。

私たちが思考するたびに、小さな電気信号がニューロン間を信じられないスピードで飛び交っています。

研究者たちはこれまで、さまざまなデバイスを介して、脳内のの電気信号を検出し、脳が何を考えているかを明らかにする技術の開発を進めてきました。

こうした脳とコンピューターを直接的に接続する技術を「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」と呼びます。

BMIを使えば、頭で考えるだけでオンラインでの情報検索ができたり、複雑な計算をすることが可能になります。

マスク氏のニューラリンクもBMIの開発と進歩を目指して設立されました。

ニューラリンク社のBMI埋め込み用手術ロボットを発表するマスク氏
ニューラリンク社のBMI埋め込み用手術ロボットを発表するマスク氏 / Credit: ja.wikipedia

このBMIに関連する技術には、大きく分けて2つのタイプがあります。それが帽子のように被るだけで簡単につけ外し可能な非侵襲的な方法と、手術で脳内にデバイスを埋め込んでしまう侵襲的な方法です。

脳内の情報を読み取るとなると侵襲的な方法の方が信頼性は高くなりますが、治験者の負担は大きくなり、また一度装着すると取り外しは容易でないため抵抗感を抱く人も多いでしょう。

そしてニューラリンクのBMIは、チップを埋め込む侵襲的デバイスです。

ただ、これは従来のデバイスに比べると、小型化や機能面で遥かに先を進んでいます。

これまでのBMIは非侵襲的なキャップにせよ、侵襲的な脳内インプラントにせよ、大掛かりなワイヤに接続されるのが一般的でした。

ところが、ニューラリンクの超小型チップはコインを5枚重ねたくらいのサイズしかなく、その中にバッテリーや無線通信などの機能がすべて内蔵されているのです。

このサイズであれば、脳内に埋め込んでも日常生活に支障がないと考えられます。

ニューラリンクの超小型チップ
ニューラリンクの超小型チップ / Credit: Neuralink’s Clinical Trial: The PRIME Study(youtube, 2023)

具体的には、超小型チップを侵襲的な手術によって脳内に埋め込み、微細なワイヤーを通して神経活動を検出して、無線信号を外部の受信装置に送り返します。

データの質や量においても優れており、ニューラリンクの超小型チップには1024個の電極が用いられ、これは従来のデイバイスの数倍に匹敵するとされます。

これにより、ユーザーが思考した微細な電気信号をリアルタイムに拾い上げ、発話できない患者や全身麻痺の患者が伝えたいことを正確に読み取れるようになると期待されています。

手が麻痺していても考えるだけで、パソコン上のカーソルを操作できる
手が麻痺していても考えるだけで、パソコン上のカーソルを操作できる / Credit: Neuralink’s Clinical Trial: The PRIME Study(youtube, 2023)

ニューラリンクはブタやサルを用いた試験を行った後、2023年5月にアメリカ食品医薬品局(FDA)から超小型チップをヒトで試験する許可を得ました。

その第1号の治験者となったのが、米アリゾナ州出身の男性ノーランド・アーバーさん(29歳)でした。

ニューラリンク世界初のユーザーがチェスのプレイに成功

ノーランド・アーバーさんは2016年にダイビング中の事故に遭って、肩から下が麻痺状態に陥りました。

彼は元々、熱心なゲーマーでしたが、肩から下の感覚がなく、自力では四肢を動かせないため、ゲームもまったくプレイできなくなったといいます。

しかし今年1月、アーバーさんはニューラリンクの超小型チップを脳内に埋め込む手術を受ける決心をしました。

アーバーさんはニューラリンクの試験に参加した理由について「世界を変える革新的な試みに私も参加したかったから」と話しています。

脳内インプラントの埋め込み手術は無事に行われ、認知機能にも問題は生じませんでした。

こうしてアーバーさんはニューラリンクの開発した超小型チップの世界初の治験者となったのです。

そして今月20日、アーバーさんはニューラリンクのエンジニアと一緒に、超小型チップを介したオンラインチェスゲームをプレイする模様をXでライブ配信しました。

そのときの映像がこちらです。

最初はカーソルを動かす初歩的な訓練から始めたそうですが、アーバーさんは今や、脳内で”考える”だけで盤上のコマを自由に動かし、見事にチェスをプレイしています。

「本当にすごい。ニューラリンクのおかげでテレパシーが使えるようになったみたいだよ」とアーバーさんは述べました。

また、思考でカーソルを操る訓練については、スターウォーズの「フォースの使い方を学ぶようなものだった」と冗談めかして話します。

今ではチェスの他に「シヴィライゼーション(Civilization)」というシミュレーションゲームをプレイしたり、日本語やフランス語のレッスンを受けたりしているという。

アーバーさんは「この技術はまだ開発途中にありますが、私の人生はすでに大きく変わりました」といいます。

ニューラリンクのエンジニアチームも、超小型チップのさらなるアップデートを進めていく予定だと述べました。

ニューラリンクのBMIは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病など、通常のコミュニケーションが難しい患者をサポートする革新的な技術になると期待されています。

脳で思考するだけで電話にも出られるように?
脳で思考するだけで電話にも出られるように? / Credit: Neuralink’s Clinical Trial: The PRIME Study(youtube, 2023)

その一方で、ニューラリンクは、人間の脳内にチップを埋め込むことの危険性や倫理的な問題から懸念の声が多数あがっています。

とはいえ、チェスやシヴィライゼーションなどのゲームプレイを全身麻痺患者が実行できるとなると、身体がまったく動かなくなった人でもゲームの世界では自在に遊んだり仕事ができる未来が近づいている印象はかなり強まりました。

一般の人にも応用される時代がどれだけ先になるかは不明ですが、身体が自由に動かないという障がいを持つ患者にとって非常に明るい技術が誕生しつつあるのは確かでしょう。

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参考文献

World’s First Neuralink User Plays Chess Via Thought After Brain Implant
https://www.sciencealert.com/worlds-first-neuralink-user-plays-chess-via-thought-after-brain-implant

Neuralink: Musk’s firm says first brain-chip patient plays online chess
https://www.bbc.com/news/business-68622781

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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