森林は、酸素を供給するだけでなく、豊かな資源を生み出し、様々な生物の生態系を築く基盤となる場所です。
そのため、遥かな太古の森林がどんな場所だったのか? という問題は科学者たちの興味の対象です。
そして最近、イギリスのケンブリッジ大学(University of Cambridge)地球科学部に所属するニール・S・デイビス氏ら研究チームは、同じくイギリスのカーディフ大学(Cardiff University)の研究者たちと共に、イングランド南西部に位置するサマセット州とデボン州の北海岸から3億9000万年前の樹木の化石を発見しました。
これは、これまでに発見された樹木の化石としては最も古く、「最古の森林」の記録だといいます。
研究の詳細は、2024年2月23日付の学術誌『Journal of the Geological Society』に掲載されました。
目次
- イングランドの海岸でデボン紀に存在した「最古の森林」の証拠が見つかる
- 最も古い「樹木の化石」を更新!ヤシのような見た目で内部が空洞だった!?
イングランドの海岸でデボン紀に存在した「最古の森林」の証拠が見つかる
古い樹木の化石が見つかったのは、イングランド南西部に並ぶ2つの州「サマセット州」「デボン州」の北海岸です。
この海岸沿いにある高い崖の砂岩層にて、貴重な発見があったのです。
発見された樹木は「Calamophyton(カラモフィトン)」という名で知られており、研究チームは、この樹木が3億9000万年前のものだと報告しています。
3億9000万年前は、古生代の中頃である「デボン紀(約4億1600万年前~約3億5920万年前)」に該当します。
デボン紀といえば、この時代に出現する魚類の化石の量の多さから、「魚の時代」と呼ばれています。
しかしこの時代には、陸上においても大きな変化がありました。
デボン紀の開始時期には、複数の大陸が衝突し、巨大な山脈を形成したと考えられているのです。
そうした山脈が大気の流れを遮り、周辺地域に雨を降らせ、これに伴い長大な河川が出現しました。
そして、これらの河川に沿って樹木が誕生・拡大し、「最古の森林」が形成されていきました。
これら河川と森林は、後の多種多様な生物を支えたと考えられています。
最も古い「樹木の化石」を更新!ヤシのような見た目で内部が空洞だった!?
「最古の森林」の記録として、これまで最も古かったものは、アメリカ・ニューヨーク州カイロの廃棄された採石場で見つかった化石でした。
ここでは、10mまで成長するような「Cladoxylopsids(クラドキシロプシダ)」と、古代の松のような木「Archaeopteris(アーキオプテリス)」の化石が発見されており、3億8500万年前のものだと推定されました。
そのため今回イングランド(デボン州とサマセット州)の海岸で見つかった3億9000万年前の「Calamophyton(カラモフィトン)」の化石は、以前の記録を約500万年更新したことになります。
研究チームの一員であるクリストファー・ベリー氏(カーディフ大学)は、「Calamophytonの木は、イギリスでこれまでに発見された最も古い樹木の化石であり、植生の歴史の欠けた部分を明らかにします」と述べています。
では、現状最も古い樹木の化石である「Calamophyton」は、どのような植物なのでしょうか。
研究チームによると、「この樹木は一見するとヤシの木に似ている」ようですが、私たちがよく知っている今日の木々とは異なり、いわば「原型」のような存在です。
Calamophytonの木は、幹が細く、内部が空洞になっていました。
また枝に葉は無く、その代わり、多くの小枝のような構造物で覆われていたようです。
現在の木々と比べてはるかに低く、高さは2~4mほどでした。
そして木が成長するにつれて大量の枝を落とし、それらが無脊椎動物たちの生息を支えたと考えられています。
加えて研究チームは、この化石や、化石が発見された地層から、木々が生きていたころの環境をいくらか知ることもできました。
ベリー氏は、「Calamophytonが、小さな川の脇にできた盛り上がった土手に沿って立っていた」と推測しています。
さらにデイビス氏は、今回のイングランドの「最古の森林」では1種類の木がまばらにしか生えていないことと、400万年後のニューヨーク州の「最古の森林」ではより多様な種が存在していることを比較し、次のように述べています。
「サマセット州とデボン州の植物相とニューヨーク州の植物相を比較すると、地質時代の観点で、物事が急速に変化したことがよく分かります。」
デボン紀にできた森林は、私たちの想像以上に、急速に拡大していったのかもしれませんね。
ちなみにデイビス氏によると、「今回の発見は偶然だった」ようです。
研究チームは別の目的で地質を調査するためにこの地域を訪れており、野原で昼食をとっていた時に、偶然この化石を見つけたのです。
これまで科学者たちは、「イングランドの海岸のこの地域には、重要な植物の化石は含まれていない」と考えていたため、デイビス氏らにとってもこの発見は驚くべきものでした。
もちろん、最古の森林については、未だ分からないことばかりです。
今後もこのような調査や発見を重ねることで、どのように森林が生まれ拡大していったのか分かる時が来るでしょう。
参考文献
Earth’s earliest forest revealed in Somerset fossils(Cardiff University)
https://www.cardiff.ac.uk/news/view/2800919-earths-earliest-forest-revealed-in-somerset-fossils
Earth’s earliest forest revealed in Somerset fossils(University of Cambridge)
https://www.cam.ac.uk/stories/earths-earliest-forest-somerset
Earth’s earliest forest revealed in Somerset fossils(eurekalert)
https://www.eurekalert.org/news-releases/1036783
元論文
Earth’s earliest forest: fossilized trees and vegetation-induced sedimentary structures from the Middle Devonian (Eifelian) Hangman Sandstone Formation, Somerset and Devon, SW England
https://www.lyellcollection.org/doi/abs/10.1144/jgs2023-204
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。