トレンドやバズリなど、現代では多くの人が支持する作品や発言は素早く広まり共有されます。
これに対して「これ良い!」「最高!」とすぐ同調や共感を示す人がいる一方で、「私には合わなかった」「私はそうは思わない」と周囲とは反対の反応を示す人たちも必ず存在します。
そんな人は、「流行に流されない」と高評価されることもあれば、「単なる逆張り」と低評価されることもあるでしょう。
では一見同じような意見を出していても、人々の認識がこのように大きく異なる裏には何があるのでしょうか?
アメリカのジョージア大学(University of Georgia)心理学部に所属するブライアン・W・ハース氏ら研究チームは、他の人と異なっている2つのタイプ「異端の感性」と「逆張り」について、人々がどのような印象(※一方的で偏見を含むイメージ)を持っているか調査しました。
自分ではトレンドに流されない「異端の感性」だと思っていても、周りからは「逆張りオタク」だと見られている、なんとてこともあるかもしれません。
研究の詳細は、2023年12月24日付の学術誌『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されました。
目次
- 「周囲と異なっている人」に対する人々のイメージを探る
- 米国では「異端の感性」はリーダーシップ、「逆張り」は創造性と関連付ける
「周囲と異なっている人」に対する人々のイメージを探る
個が重んじられるアメリカでは、傑出した人物やオンリーワンな存在に注目が集まり、「好ましい存在」「憧れの存在」として扱われます。
「他の人と異なっていることは、かっこいい」と感じられるわけです。
協調性を重んじる日本などでも、こうした考えはある程度存在しています。
「ヒーローもの」の漫画や映画では、主人公が「他の人とは異なった才能を持つ者」としてよく描かれます。
また恋愛小説や漫画では、「ヒロインが周りから浮いた異端の男性に恋をする」ストーリーが定番だったりします。
とはいえ現実世界で、自分が他の人と異なっている場合、周りから実際にどのように見られているかは、簡単には分かりません。
自分では「トレンドに流されない独自の感性」を気取っていても、周りからは「逆張りオタク」だと思われていることもあるでしょう。
ハース氏ら研究チームが行った研究は、「大多数とは異なっている人」を人々がどのように見ているのかを明らかにしました。
この情報は、いくらか自分を客観視するのに役立つかもしれません。
「異端の感性」か、それとも「逆張り」か
今回研究チームは、いくつかの調査を通して、2つのタイプの「周囲とは異なる人」について、アメリカの人々がどのようなイメージを持っているか調べました。
その2つのタイプとは、「異端の感性(Mavericks)」と「逆張り者(Contrarians)」です。
「異端の感性」とは、自分に確固たる意見があり、周りに流されない人のことです。
「逆張り者」とは、投資用語から転じたネットスラングであり、一般的な意見とはあえて逆を主張する人のことを指します。「天邪鬼」とも言えます。
では、人々はこれらの2タイプに対してどのような印象を持っているのでしょうか。
(※調査結果は、アメリカ人の考えの傾向を示すものの、固定観念や偏見が大いに含まれるため、結果に「正当性」があるわけではありません。)
最初の調査では、「異端の感性」や「逆張り」として、どんな有名人が挙げられるか調べました。
その結果、異端の感性には、ボーカリスト・シンガーソングライターの「ビリー・アイリッシュ」や、映画スターの「ジョニー・デップ」などが挙げられました。
一方、逆張りには、シンガーソングライターの「レディー・ガガ」や、モデル・女優の「キム・カーダシアン」などが挙げられました。
米国では「異端の感性」はリーダーシップ、「逆張り」は創造性と関連付ける
次の研究では160人の参加者が選ばれ、彼らは、「異端の感性」や「逆張り」に対する印象(仕事、性格、能力など)を回答しました。
その結果、異端の感性の方が逆張りよりも肯定的に見られていると分かりました。
参加者たちは、異端の感性に対して「高い能力を持つ」「リーダーシップがある」と考えており、CEOや起業家などの職業と関連付けました。
一方で参加者は、逆張りに対して、「温かさや協調性を犠牲にして、多数派との差別化を図る人」「外見を重視する人」「創造性が高い人」だと考え、ミュージシャンやアーティストのようなクリエイティブな職業と関連付けました。
また、異端の感性を持つ人はより陽気で有能であると見なされ、逆張り者はより社交性が高く神経質であると見なされたようです。
どうして逆張りは、「協調性がない」のに「社交性が高い」とも見なされるのでしょうか。
ハース氏によると、「意図的に多数派を避けたり、社会に溶け込むことを拒んだりするには、社会や集団が行っていることを正しく理解し、計画的にその逆を行かなければいけないからだ」と説明しています。
加えて、260人の参加者を対象にした追加の研究では、2タイプに対して参加者たちが次のような偏見を持っていることも分かりました。
異端の感性は、「年上」「男性に多い」「人生に満足している」「良心的」などです。
一方、逆張りは、「若い」「女性に多い」「人生に満足していない」「承認欲求」などです。
もちろん、これらはアメリカの参加者が抱く一方的な考えであり、決してこの見方が正しいわけではありません。
日本などの協調性を重んじる国や地域などでは結果が異なる可能性があります。
それでも今回の研究は、自分が多数派ではない場合に、人々からどのように見られているかを推察するのに役立ちます。
結果からは、人々がトレンドとは反対の意見を出す人に対して、期待している資質や特性があるということがわかります。
そのため自分では「異端の感性」だと思っていても、能力やリーダーシップが低く、不満ばかり口にしているなら、人々からは「逆張りオタク」だと見られているかもしれません。
またレディー・ガガのように突出した「逆張り者」になりたいと思っていても、創造性や社会への理解度が低く、計画性もないなら、逆張り者ですらなく、単に「協調性のない凡人」としか見られないのかもしれません。
今後研究チームは、アメリカ以外の国で、この2タイプがどのような印象を持たれているのか調査したいと考えています。
参考文献
Understanding differences in nonconformity
https://news.uga.edu/understanding-differences-in-nonconformity/
Mavericks vs. contrarians: Study highlights perceptions of two distinct types of nonconformists
https://www.psypost.org/mavericks-vs-contrarians-study-highlights-perceptions-of-two-distinct-types-of-nonconformists/
元論文
All You Nonconformists Are (Not) All Alike: Dissociable Social Stereotypes of Mavericks and Contrarians
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/01461672231217630
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。