約1億人を調べた結果です。
デンマークの国立血清研究所(SSI)をはじめとした国際研究によって、新型コロナウイルスワクチンの健康リスクが示されました。
9900万人を対象とした史上最大規模の研究で、主としてファイザーとモデルナの開発したmRNAワクチンおよびアストラゼネカが開発したウイルスベクターワクチンの3種類でみられた、副反応13種が調べられています。
なお今回の記事はワクチンの有害性を強調するものではありません。
また最終的な結論として、ワクチン接種の利点が健康リスクを上回っていたことも、あえて先に述べてさせて頂きます。
その上で、新たに判明した副反応を報告します。
対象となる副反応は、心臓にかんする「心筋炎(MYO)、心膜炎(PER)」。
脳脊髄や末梢などの神経系にかんする「ギラン・バレー症候群(GBS)、横断性脊髄炎(TRM)、顔面麻痺(BP)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、熱性けいれん(FSZ)」「全般麻痺(GSZ)」。
血液や血栓症にかんする「血小板減少症(THR)、特発性血小板減少症(ITP)、肺塞栓症(PEM)脳静脈血栓症(CVST)、内臓静脈血栓症(SVT)」となります。
記事では各副反応にについて、3種類のワクチンごとのリスクを報告いたします。
研究内容の詳細は2024年2月12日に『Vaccine』にて公開されました。
目次
- mRNAワクチンは特に心筋症と心膜炎のリスクが高まった
- 新型コロナウイルスのワクチンが脳や脊髄など神経系へ及ぼす影響
- 新型コロナウイルスのワクチンが血管系へ及ぼす影響
- ワクチンの利益は健康リスクを上回る
mRNAワクチンは特に心筋症と心膜炎のリスクが高まった
新型コロナウイルスはこれまで世界全体で700万人近い死者を出しており、現在もさまざまな亜種が出現し続けています。
一方、これに対抗するため新型コロナウイルス感染症ワクチンも開発され、これまで135億回以上の接種が実施されて、世界人口の少なくとも70.6%が1回以上の接種を行ったと考えられています。
しかし人間が使用するあらゆる薬には必ず目的外の好ましくない効果が伴います。
生活習慣病や急性症状を含めると、薬だけでなく塩や砂糖といった食品ですら、健康リスクの主因となり得ます。
新型コロナウイルスのワクチンもまた、これまでの研究でいくつかの副反応が示されてきました。
そこで、デンマーク国立血清研究所をはじめとした国際研究チームはこの副反応の影響がワクチンの接種の利点に対して、どの程度深刻であるかを調査する研究を行いました。
この研究は、米国保健福祉省 (HHS) の疾病管理予防センター (CDC) によって資金援助されたグローバル ワクチン データ ネットワーク (GVDN) によって推進されており、世界8カ国、総勢約9900万人(99,068,901人)を対象に、新型コロナウイルスワクチンの安全性が検証された、これまでで史上最大規模の調査です。
(※GVDNはグローバル 新型コロナウイルス ワクチン安全性プロジェクト(GCoVS)の計画の一部です)。
この調査では、ワクチンを打った後42日間にみられた症状を調査し、打たなかった場合を比較しました。
たとえば胃腸にかかわるAと呼ばれる症状(症状A)があった場合、ワクチンを打った日を基準に、打った人と打たなかった人を比較して、42日間の間に症状Aが出る率を比較したのです。
もともと胃腸が弱かった人は、ワクチンを打たなくても、基準日から42日の間に症状Aを発症した可能性はあります。
研究ではワクチンを打った場合に、この症状Aが出た率を調査することで、ワクチンの影響(副反応)を調べました。
上の表においては、ChAdOx1はアストラゼネカのワクチン、BNT162b2はファイザーのワクチン、mRNA‐1273はモデルナのワクチンを示しています。
数字の背景の色は、緑なら統計上の有意差(LBCI<1)が無いこと(LBCI<1)、黄色なら統計上の有意差がある程度認められること(1<LBCI<1.5)、赤ならば統計上の有意差が顕著にみられること(LBCI>1.5)を示しています。
上の表は、ワクチンを打った人と打たなかった人の間を比較した、心筋症と心膜炎の発症率の違いを示しています。
表を見ると、ほぼ全てが黄色か赤色となっているのがわかり、ファイザーやモデルナなどのmRNAワクチンが心筋症と心膜炎に関連していることが示されています。
より詳細にみると、1回目の接種後にファイザーのワクチンを打った人は42日間で心筋症の発症率が2.78倍に増え、モデルナのワクチンを打った人はそれより多い3.48倍に増加していることが示されています。
2回目の接種ではより顕著であり、心筋症においてファイザーのワクチンでは2.86倍、モデルナのワクチンは6.10倍にも及びました。
またデータを分析すると、特に心膜炎は10代後半から20代前半までの男性において最も副反応が出る率が高かったことが示されました。
心膜炎でも同様の強い傾向がみられ、1回目の接種ではファイザーのワクチンでは1.54倍、モデルナのワクチンでは1.74倍となりました。
また3回目の接種ではモデルナのワクチンは2.64倍となっています。
ただ最も高い数値だったのは、心膜炎に対するアストラゼネカのワクチンの影響でありであり、3回目の接種に6.91倍となりました。
この結果は特に、1~2回目の接種においてファイザーやモデルナなどのmRNAワクチンでは心筋症と心膜炎のリスクが増大することが示されました。
新型コロナウイルスのワクチンが脳や脊髄など神経系へ及ぼす影響
上の表は主に、脳や脊髄などの中枢神経と手足などの末梢神経など、神経系への影響がまとめられました。
左から順番に統計的に有意な差がみられたものをみていくと、まずギラン・バレー症候群(GBS)がアストラゼネカのワクチンによって2.49倍に増加しているのがわかります。
ギラン・バレー症候群は末端の神経の障害により、手足の痺れや、力が入らないなど体の脱力、痛みが起こる神経症状です。
左から2番目の横断性脊髄炎(TRM)は免疫システムが脊髄(特に髄鞘)の神経に対して誤って攻撃し、炎症を引き起こす症状です。
表を見ると、1回目のアストラゼネカのワクチン接種により、1.91倍に増加していることがわかります。
右から二番目の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)では、アストラゼネカのワクチンで2.23倍、モデルナのワクチンで3.78倍に増加していることが示されています。
急性散在性脳脊髄炎は脳や脊髄などの中枢神経に散発的に脱髄と炎症を起こしてしまう疾患です。
これまでの研究では、感染症やワクチンなどが原因で、免疫が自分を攻撃してしまう自己免疫的なものが原因と考えられています。
他にも1回目の接種で顔面麻痺(ファイザーとモデルナの両方)や熱性けいれん(モデルナのみ)などが確認されています。
新型コロナウイルスのワクチンが血管系へ及ぼす影響
上の表は主に血液学的な副反応をまとめたものになります。
全体的にみて、神経学的な症状を示した前の表に比べて、黄色の部分が多くなっているのがわかります。
一番左の血小板減少症(THR)は出血を防ぐ役割がある血小板が血液中で減ってしまう症状であり、1回目の接種で、3種類全てのワクチンで有意な増加を示しました。
(※アストラゼネカ1.07倍、ファイザー1.11倍、モデルナ1.33倍)
左から2番目の特発性血小板減少症(ITP)はウイルス感染後などに突然発症する血小板が減少する症状であり、1回目のアストラゼネカのワクチン(1.40倍)とファイザーのワクチン(1.08倍)で有意に増加しました。
中央の肺塞栓症(PEM)は足の静脈などから剥がれた血栓によって、肺に血液を起こる血管が突然に閉塞してしまう症状であり、3種類全てのワクチンで1回目の接種後に増加しました。
(※アストラゼネカ1.20倍、ファイザー1.29倍、モデルナ1.33倍)
脳静脈血栓症(CVST)頭蓋や硬膜洞でみられる血栓症であり、1回目の接種後にアストラゼネカのワクチンで3.23倍、ファイザーのワクチンで1.49倍に増加しました。
一番右の内臓静脈血栓症(SVT)は肝臓へ続く血管(門脈系)の静脈が閉塞してしまう症状であり、1回目の接種後にファイザーのワクチン(1.25倍)とモデルナのワクチン(1.23倍)で増加しているのがわかります。
アストラゼネカのワクチンはパンデミック中にもかかわらず血栓症になるとして利用が一時停止したことがありますが、3つ目の表でも統計的に顕著(赤色マス)に血栓ができることが示されています。
ワクチンの利益は健康リスクを上回る
健康リスクをあまり気にしなくていい理由
研究結果をまとめると、調査された13種の症状において、ファイザーやモデルナなどmRNA系のワクチンは心筋症や心膜炎などのリスクを増加させ、アストラゼネカのワクチンは顔面麻痺と内臓静脈血栓症以外の11種類全てのリスクを増加させると言えるでしょう。
この結果は、新型コロナウイルスの3種類のワクチンには明らかに健康リスクがあることを示しています。
もし新型コロナウイルスが存在しない世界で、新型コロナウイルスのワクチンだけを打つという矛盾した設定を許せば、ワクチン接種は健康リスクだけを増大させることになるでしょう。
健康な人にとって、全く有害事象が出ない薬やワクチンは存在しないからです。
しかし現実は違います。
これまでに行われた複数の研究では全て、新型コロナウイルスの感染によって、心筋症や心膜炎などの症状の発生率が大幅に増加することがわかっているからです。
また新型コロナウイルスの感染によって、その後に心筋炎になる確率が、ワクチン接種後の数週間よりも、遥かに高くなることがわかっています。
実際、新型コロナウイルス感染症で入院した8人に1人が心筋炎と診断されていました。
さらに感染後に神経系への何らかの影響が出る確率は「617倍」と圧倒的に増化することが報告されています。
最新の研究では、新型コロナウイルスの症状が長引く要因が、感染によって脳が損傷してしまったことであると報告されています。
新型コロナウイルスは現在も変異を続けており、一部の国や地域では再流行に近い広範な感染者を出しています。
ビッグデータを用いた研究では、英国の国民全員が完全にワクチン接種を受けていた場合、死亡や重篤化した4万件のうち、7000件は回避できた可能性があることが示されています。
同様の結果は日本においても当てはまるでしょう。
このような現実を考えると、新型コロナウイルスのワクチンを打つ利益は健康リスクを上回ると言えます。
似た副反応は他のワクチンでも起こる
最近の研究で、インフルエンザや天然痘、ポリオ、麻疹、おたふく風邪、風疹など、様々な種類のワクチン4億500万回分を分析した結果、新型コロナウイルスワクチンを接種した後に起こる心筋炎や心膜炎の発症率は、これらの他のワクチンを接種した後の発症率と大差ないことがわかりました。
ただし、若い男性に限っては、モデルナやファイザーのようなmRNAベースの新型コロナウイルスワクチンを接種した後の心筋炎や心膜炎の発症率が顕著に高くなる傾向が見られました。
医学誌ランセットに掲載された研究では、新型コロナウイルスワクチン接種後に見られる心筋炎や心膜炎の稀な症例は、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質やその他の特定の成分よりも、ワクチン接種による体の全体的な免疫反応に関連している可能性があることが示唆されました。
さらに、新型コロナウイルスワクチンの大規模な接種とそれに伴う綿密な監視が、心筋炎や心膜炎の報告数の増加につながっている可能性もあります。
約1億人ものサンプルを用いた副反応の研究は極めて稀であり、この人数になってはじめて見えてくる有意差があるからです。
幸いなことに、急性心筋炎になったほとんどの人は良好に回復し、長期的な健康問題を抱えることは少ないようです。
参考文献
Largest COVID Vaccine Study Ever Reveals The Actual Health Risks You Face
https://www.sciencealert.com/largest-covid-vaccine-study-ever-reveals-the-actual-health-risks-you-face
元論文
COVID-19 vaccines and adverse events of special interest: A multinational Global Vaccine Data Network (GVDN) cohort study of 99 million vaccinated individuals
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X24001270?via%3Dihub
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。