膨大なエネルギーを放出する火山の噴火は時に雷さえも作り出します。
そしてその雷によって、地球の生命が生まれた可能性があるのです。
地質学者、地球科学者、鉱物学者を集めた研究グループがさまざまな国の火山の調査を行ったところ、火山雷によって大気中の窒素から作られた大量の硝酸塩が発見されました。
私たちの体を含め、ありとあらゆる生き物の体には窒素が必要です。
しかし、窒素は非常に安定した形で大気中に存在していて、生き物の材料であるアミノ酸になるためには大気中の窒素が固定され窒素化合物の形にならなければいけません。
これまで、生命の起源につながる窒素固定は細菌によるものだと考えられてきましたが、火山雷による大規模な窒素固定が生命の起源につながる可能性があります。
さらに火山の噴火にはこの研究以外にも生命の起源につながる要素があるようです。
この研究は米国科学アカデミー紀要121巻7号に2024年2月5日付けで掲載されています。
目次
- 生命の起源は火山雷で固定された窒素かもしれない
- 火山ガスがアミノ酸をタンパク質に変えた?
生命の起源は火山雷で固定された窒素かもしれない
フランス、パリテール大学アデライン ・アロスケイ氏らの研究グループはさまざまな火山で堆積物を調査し、各所でたくさんの硝酸塩を発見しました。
これらの成分を分析したところ硝酸塩に含まれる窒素は火山にもともと含まれていた成分ではなく、大気中の窒素を取り込んだものである可能性が高いといいます。
研究者たちはこの硝酸塩が火山からふきあがる水蒸気、火山灰、火山岩などの摩擦電気から生じる火山雷によるものではないかと考えました。
もともと雷には大気中の窒素を固定し、循環させる役割があることが知られています。
雷の電気と高温によって、空気中の窒素分子と酸素分子が分解して原子となり、だんだん温度が下がるにつれ窒素原子と酸素原子が結合することで窒素酸化物となるのです。
それらが雨に溶けて地中でしみこみ、硝酸塩となります。
火山噴火で生じる火山雷でも大気は電気を帯び高温になるため、大量の窒素固定が起きると推察されます。
そして、この大量の硝酸塩から生命が生まれた可能性があるのです。
生命に欠かせない硝酸塩
硝酸塩は地球上の生物の多くが生命活動に利用している窒素化合物です。
細胞を作るアミノ酸やタンパク質の材料となるもので、植物は地中の硝酸塩などの窒素化合物と炭水化物を組み合わせてアミノ酸を作っています。
硝酸塩は植物の肥料としても与えられるくらい植物の成長を促す成分であり、硝酸塩を大量に生み出す雷も植物の成長を促します。
雷の別名である「いなづま」は漢字で「稲の妻」と書きますが、これは雷雨の後は稲穂の実りがよくなったことが由来だと言われています。
無機物である硝酸塩ですが、生命を作り育てるのには不可欠な成分なのです。
ただし、生命の誕生には硝酸塩だけでなくアミノ酸からタンパク質になる過程も重要です。
実は、アミノ酸がタンパク質になる過程も硝酸塩が火山雷に由来しているのと同様に火山活動が関係した可能性が指摘されています。
火山ガスがアミノ酸をタンパク質に変えた?
アミノ酸はペプチド結合することでタンパク質になります。
このペプチド結合はアミノ酸の形では起こりにくく、アミノ酸の酸素原子を硫黄原子に置換したものと酸化鉄が溶液中で混ざると起こりやすくなることが、大阪大学の研究で明らかになりました。
火山ガスは硫化水素が含まれることからこの硫化水素の硫黄原子がタンパク質の誕生に寄与していた可能性があります。
また火山灰にも酸化鉄が含まれているため、噴火時はペプチド結合が起こりやすい条件が整っています。
火山噴火によって生じた火山雷で硝酸塩が生じ、その硝酸塩からできたアミノ酸が火山ガスと火山灰の影響でペプチド結合し、タンパク質となった可能性があるのです。
生命が火山から生まれた可能性は他にも
生命の誕生の解明には、硝酸塩からどうやってアミノ酸が生まれたか、つまり有機物がどのように生まれたかも重要です。
有機物は大気中の二酸化炭素と水素から生まれたと考えられていますが、これらが有機物となるには鉱物などの触媒が必要となります。
これらの触媒も火山灰に含まれる成分が担えるという説もあります。
知れば知るほど、火山の噴火には生命が生まれる条件がそろっています。
生命の起源は本当に火山にあるのかもしれませんね。
参考文献
生命の起源-地球上にポリペプチドが出現したルートの解明にもつながる成果
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2019/20190517_2
元論文
Geological evidence of extensive N-fixation by volcanic lightning during very large explosive eruptions
https://doi.org/10.1073/pnas.2309131121
Regioselective α-Peptide Bond Formation Through the Oxidation of Amino Thioacids
https://doi.org/10.1021/acs.biochem.8b01239
ライター
いわさきはるか: 生き物大好きな理系ライター。文鳥、ウズラ、熱帯魚などたくさんの生き物に囲まれて幼少期を過ごし、大学時代はウサギを飼育。大学院までごはんの研究をしていた食いしん坊です。3人の子供と猫に囲まれながら、生き物・教育・料理などについて執筆中。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。