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振動して胃に満腹感を与えるカプセル型デバイスを開発


アメリカ人の肥満率は近年特に深刻化しており、全体の42%が肥満だと言われています。

日本は世界の中でも肥満率の低い国ですが、それでも男性の3人に1人、女性の5人に1人は肥満に該当します。

特に40代、50代の男性の40%近くは肥満であり、多くの人にとって他人事ではありません。

そうした肥満には、できるだけ健康的に対処したいものです。

そして最近、過度な食欲を抑える新たな方法が確認されました。

アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学部に所属するシュリア・S・スリニヴァサン氏ら研究チームが、振動によって満腹感を与えるカプセルを開発したのです。

このカプセルをブタに与えたところ、目立った害を与えることなく食物摂取量が約40%も減少しました。

研究の詳細は、2023年12月22日付が科学誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  • 胃の膨らみが満腹感を与える仕組み
  • ブタに振動カプセルを与えると、食事量が40%も減少する

胃の膨らみが満腹感を与える仕組み

水を飲んで胃を膨らませると満腹感が得られ、食事量が少なくなる
水を飲んで胃を膨らませると満腹感が得られ、食事量が少なくなる / Credit:Canva

ダイエット中には、「野菜をたくさん食べるように」「食事の前にコップ1杯の水を飲むように」と勧められます。

そうすることで満腹感が得られ、結果として摂取カロリーを抑えることができるからです。

満腹感は、「胃の膨らみ」「血糖値の上昇」「神経伝達物質のバランス」などの要素で決まります。

そして胃の膨らみに関して言えば、次のようなメカニズムで満腹感が生み出されます。

まず水や食物で胃が膨張すると、「機械受容器」と呼ばれる細胞がその伸びを感知し、脳に信号を送ります。

その結果、脳はインスリンのほか、C-ペプチドペプチドYYGLP-1などのホルモンの産生を促します。

機械受容体が胃の膨らみを感知し、脳に「満腹感」を与え、同時に「空腹感」を抑える
機械受容体が胃の膨らみを感知し、脳に「満腹感」を与え、同時に「空腹感」を抑える / Credit:Canva

これらのホルモンすべては連携して働いて私たちに満腹感を得させ、同時に空腹感を促すホルモンであるグレリンの濃度を低下させます。

そのためスリニヴァサン氏は、胃の内側にある機械受容器を振動によって刺激することで、「胃が伸びた」と錯覚させ、人に満腹感を得させることができるのではないかと考えました。

実際、過去の研究では、「筋肉を振動させることで、体は筋繊維が伸びたと錯覚する」と論じられています。

もし、これに似た現象を胃の内側で再現できるなら、水や野菜で胃を膨らませなくとも満腹感を得ることができるはずです。

そこでスリニヴァサン氏は、振動カプセルを用いた実験を行うことにしました。

ブタに振動カプセルを与えると、食事量が40%も減少する

今回スリニヴァサン氏ら研究チームが開発したのは、マルチビタミンとほぼ同じサイズの振動カプセルです。

カプセルの内部には小型の電池と振動モーターが入っています。

カプセルの外部はゼラチン状の膜で覆われており、この膜が胃液によって溶けることで、振動モーターのスイッチが入るようになっているのです。

そして胃の中で約30分間振動が続き、カプセルは最終的に排泄されます。

もし振動によって胃の機械受容器に「伸びている」と錯覚させられるなら、満腹感が得られる可能性があるでしょう。

振動カプセルが胃の機械受容体を刺激し、満腹感を感じさせる
振動カプセルが胃の機械受容体を刺激し、満腹感を感じさせる / Credit:Shriya S. Srinivasan(MIT)et al., Science Advances(2023)

そこで研究チームは、この効果と安全性を確かめるため、12頭の豚で実験しました。

実験では、一方のグループに振動カプセルが与えられ、もう片方のグループには何の効果もないプラセボカプセルが与えられました。

そして2週間、合計108回の食事とブタたちの食物摂取量が観察されました。

その結果、エサを与える約20分前にカプセルを振動させると、カプセルを作動させなかった場合と比較して、エサの摂取量が平均で40%も減少しました。

また振動カプセルを投与したグループは、この実験期間中、体重増加のスピードが遅くなりました。

さらにチームが、カプセルを与える前後でブタから血液サンプルを採取したところ、振動カプセルが与えられたブタでは、空腹ホルモンであるグレリンの濃度が低いことを発見しました。

振動カプセルを与えると、ブタの体は「胃が膨らんだ」と錯覚し、十分な量のエサを食べた時のように空腹感が無くなっていたのです。

では振動カプセルの安全性についてはどうでしょうか。

研究チームが実験に参加したブタの胃を調べたところ、擦り傷や刺激、炎症の跡は見つからず、胃の内側に害を及ぼさないことが示唆されました。

振動カプセルを与えたブタはエサの摂取量が40%も減少した
振動カプセルを与えたブタはエサの摂取量が40%も減少した / Credit:Shriya S. Srinivasan(MIT)_Engineers develop a vibrating, ingestible capsule that might help treat obesity(2023)

もし、この「満腹感を与える振動カプセル」が、人間に対しても同様に働くのであれば、食欲をコントロールして肥満から抜け出すのに役立つ可能性があります。

もちろん、自分の意志で食欲をコントロールし、運動によって体重を落としていけるなら、それがベストでしょう。

それでも現代では、その方法で痩せられない人たちが、薬剤を使用したり、胃を切除したりして過度な肥満に対処しています。

これらの方法と比べると、「振動カプセルを飲み込んで満腹だと錯覚させる」方がより安全で、デメリットが少なく、安価である可能性があります。

もちろん、空腹感だけが人に何かを食べるよう誘惑するわけではありません。

ストレスなどが原因で過食するケースもよく見られるため、振動カプセルが人間にどの程度効果があるのかは、実際に試してみるまで分かりません。

今後研究チームは、臨床実験を開始するために必要なステップを踏んでいく予定です。

全ての画像を見る

参考文献

Engineers develop a vibrating, ingestible capsule that might help treat obesity
https://news.mit.edu/2023/engineers-develop-vibrating-ingestible-capsule-1222

A vibrating pill could help treat obesity, pig study finds
https://www.livescience.com/health/obesity/a-vibrating-pill-could-help-treat-obesity-pig-study-finds

元論文

A vibrating ingestible bioelectronic stimulator modulates gastric stretch receptors for illusory satiety
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adj3003

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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