ワシやタカ、さらにはエンジンを搭載しないグライダーも、これらは上昇気流を利用して長時間飛ぶことができます。
つまり上昇気流には、人間を乗せた飛行機でさえ重力に逆らって浮かせ続けられるほどの「継続的な力」があるのです。
風力発電があるならば、この上昇気流も上手く発電に利用することはできないでしょうか?
最近、ヨルダンのアル・フセイン工科大学(HTU)工学部に所属するエマド・アブデルサラム氏ら研究チームは、上昇気流と下降気流で発電するソーラータワーを考案しました。
直径250m、高さ200mにもなるこの巨大タワーは、24時間年中無休でエネルギーを生成できると考えられています。
研究の詳細は、2023年11月30日付の科学誌『Energy Reports』に掲載されました。
目次
- 上昇気流を利用した発電システム
- 上昇気流と下降気流の両方を利用したシステムで「24時間発電し続ける」ことが可能
上昇気流を利用した発電システム
地上にある空気が上昇する「上昇気流」は、いくつかの原因で発生します。
その1つは、「太陽放射により、地上の一部が暖められる」というもの。
地上の一部分だけが暖められると、そこだけが周囲の空気より軽くなり、上昇するのです。
この上昇気流は、一種の「力」なので、上昇気流を用いて発電することが可能です。
ではなぜ風力発電は広く利用されているのに、上昇気流を利用した発電システムはあまり見かけないのでしょうか?
実は1982年には、スペインの技術者が、煙突のようなタワーと基部のタービンからなる上昇気流の発電機「ソーラー・アップドラフト・タワー」を建設しています。
この発電機は太陽放射によってタワー内の空気を温め上昇気流を発生させ、内部の風力タービンを回転させるという仕組みになっています。
しかし、上昇気流を発生させるには、かなり長い縦方向の空間に温度差を作り出す必要があり、そのためには非常に大きくて高い構造物が必要です。
そのためソーラー・アップドラフト・タワーは、「発電効率が高くない(ソーラーパネルよりはるかに低い)わりに、膨大な初期費用が掛かる」という致命的な欠点を抱えていました。
科学者たちは、「換気性能の改善」「煙突(タワー)の高さの強化」「建設材料の変更」「断熱面の強化」など、長年にわたって発電効率の改善を試みてきましたが、アブデルサラム氏によると、その成果は「控えめ」であり、この発電システムが広く採用されることはありませんでした。
ところがこの度、アブデルサラム氏ら研究チームは、従来の設計の発電効率を2倍以上に高めるシステムを考案しました。
上昇気流と下降気流の両方を利用したシステムで「24時間発電し続ける」ことが可能
新しく考案された発電機は、直径250m、高さ200mを超える超巨大な構造物です。
従来型と同じように、上昇気流を利用しています。
太陽放射で暖められた空気が中央のタワー(煙突)を通過して上昇する際、タービンを回転させるのです。
そして新しい部分として、この中央の「上昇気流タワー」の周囲を10本の「下降気流タワー」が囲んでいます。
この下降気流も温度変化によって生じます。
空気は暖められると上昇しますが、その空気が上空で急激に冷やされると、逆に下降気流が発生するのです。
新しいシステムでは、ポンプによって水を上部まで運び、スプリンクラーで噴霧。上部の「暖かく乾燥した空気」を冷却します。
この冷却された空気は周囲よりも密度が高くなるため、「下降気流タワー」を通って下り、下部のタービンを回すのです。
研究チームの設計によると、上昇気流のシステムと下降気流のシステムは同時に動作します。
また彼らによると、昼間の太陽放射によって空気の熱が蓄えられるため、夜間も発電を続けられるようです。
チームは、2つのシステムにより「発電は24時間365日続く」とさえ主張しています。
ちなみに、システムの効率が最大になるのは、「暑くて乾燥した地域」であり、シミュレーションでは、サウジアラビアの首都リヤドの気象を想定しました。
そしてシミュレーションの結果、新しい発電システムは、年間753MWのエネルギーを生成できると判明しました。
これは、従来の「上昇気流だけを用いた発電システム」の約2.14倍の電力を生成することを意味します。
とはいえ、年間753MWという電力は、「60Wの電球1500個を1年間ノンストップで使用できる量」であり、かなり微妙です。
現時点で研究チームは、ソーラーパネルなど他のシステムとコストを比較していませんが、新システムのサイズを考慮すると、発電効率に関しては一般的なソーラーパネルのほうが有利でしょう。
(ちなみに、日本に設置されている風車(風力発電機)1基が生成する電力は、年間3000MWほどなので、巨大なタワーを建設するくらいなら、風車を1基建てたほうが良いかもしれません)
しかも新システムは天候や季節の影響を大きく受ける可能性があります。
さらに、設置に最適な「暑くて乾燥した地域」では、冷却に必要な大量の水を用意するのが困難なので、この課題にも対処する必要があるでしょう。
これらの問題点を考えると、新しいシステムは「まだまだ改善を続けるべき」段階にあるのかもしれません。
それでもアイデア自体は興味深いものであり、二酸化炭素の排出を低減させるというメリットもあります。
また他の発電技術と組み合わせることで、より良い発電システムが誕生する可能性もあります。
今はまだ未熟な技術であっても、自然の中に私たちが見落としている利用可能なエネルギーがないか? それをより効率的に取り出す方法がないか模索していくことは技術開発の非常に重要なステップです。
これからの人類は、既に存在している「自然の力」を、もっと上手に利用していく必要があるのです。
参考文献
24/7 solar towers could double energy output
https://techxplore.com/news/2023-12-solar-towers-energy-output.html
Double-action solar tower promises clean energy all day and night
https://newatlas.com/energy/double-solar-updraft-cooling/
元論文
An innovative twin-technology solar system design for electricity production
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352484723015512
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。