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52℃の熱湯でも茹で上がらない温泉に住む「新種のヨコエビ」を発見!


南米ペルーにある「インカの温泉」から新種のヨコエビが発見されました。

「ヒアレラ・ヤシュマラ(学名:Hyalella yashmara)」と命名された本種は、水温19.8℃~52.1℃まで生存可能であることが判明しています。

研究を行った広島大学とペルー国立カハマルカ大学(UNC)によると、これはヨコエビが生存できる水温の世界最高記録とのことです。

研究の詳細は、2023年5月3日付で科学雑誌『Invertebrate Systematics』に掲載されています。

目次

  • 現地では「皇帝のエビ」の愛称で知られていた
  • 新種と判明!52℃の熱湯でも茹で上がらない

現地では「皇帝のエビ」の愛称で知られていた

インカの温泉
インカの温泉 / Credit: Hiroshima University –In an ancient hot spring haunt of Inca rulers, scientists discover a new freshwater shrimp species(2023)

ペルー北部にある「インカの温泉(バーニョス・デル・インカ)」は、インカ帝国最後の皇帝アタワルパが愛した名湯として有名です。

一説によると、アタワルパは侵略してきたスペイン人に囚われる直前にもこの温泉に浸かっていたと言われています。

さらにインカの温泉には古くからヨコエビが生息していることが知られていました。

現地では「皇帝のエビ(Emperor’s shrimp)」の愛称で親しまれ、このヨコエビを描いた切手まで販売されています。

「皇帝のエビ」が描かれた現地の切手
「皇帝のエビ」が描かれた現地の切手 / Credit: 広島大学 –ペルー北部の温泉から新種ヨコエビ発見(2023)

ヨコエビは名前にもあるようにエビにそっくりな生き物ですが、正確にはエビよりもダンゴムシやミジンコに近い甲殻類の一種です。

体を横に倒して移動することから「ヨコエビ」と呼ばれ、世界中の海や湖、山などに広く生息しています。

その一方で、インカの温泉に住むヨコエビは種名が不明のままであり、何者なのかよく分かっていませんでした。

そこで広島大学とペルー国立カハマルカ大学は2021年から「皇帝のエビ」の共同調査を始めました。

新種と判明!52℃の熱湯でも茹で上がらない

チームは詳しい形態分析から、このヨコエビがアメリカ大陸のほぼ全域に広がる「ヒアレラ属(Hyalella)」の仲間であることを特定。

さらに100種近くが存在するヒアレラ属の既知種と比較した結果、特徴的な脚の形などから新種であることが判明しました。

この新種は、研究者の一人の娘さんの名前を取って「ヒアレラ・ヤシュマラ(学名:Hyalella yashmara)」と命名されています。

新種のヨコエビの図解と写真
新種のヨコエビの図解と写真 / Credit: 広島大学 –ペルー北部の温泉から新種ヨコエビ発見(2023)

しかし最も驚くべきは、この新種が生存できる水温の幅でした。

インカの温泉は場所によって温度が変わり、35℃前後のぬるい水温から78℃の熱湯まで様々です。

現地調査によると、新種のヨコエビは35〜40℃程の温水路や、源泉からそう遠く離れていない50℃程の温泉でうろついているのが見つかっています。

そこでチームは新種がどれほどの水温に適応できるかを実験で検証しました。

一般的にヨコエビは冷水を好むので、最初に冷たい温度で実験した結果、新種は19.8°Cの冷たい水で生きられることが判明しています。

それより冷たい温度では24時間以上を生きることができませんでした。

一方で、どこまでの熱さに耐えられるかを試したところ、52.1℃という熱湯でも生存できることが明らかになったのです。

過去に記録されているヨコエビの最高生息水温は38℃だったので、新種は世界最高記録を塗り替えたことになります。

研究者いわく「世界におよそ1万種が知られているヨコエビの中で最も熱い水温で生きられる種」とのことです。

52.1℃という熱湯に耐えられることが判明!
52.1℃という熱湯に耐えられることが判明! / Credit: Hiroshima University –In an ancient hot spring haunt of Inca rulers, scientists discover a new freshwater shrimp species(2023)

52.1℃は普通のヨコエビなら軽く茹で上がって死んでしまう温度です。

これについて研究主任の富川光(とみかわ・こう)氏は「タンパク質は高温で熱変性するため、多くのヨコエビの外骨格は高温環境に耐えられない」と指摘。

「しかしインカの温泉で見つかった新種は、高温環境で高い活性を持つタンパク質を進化の過程で獲得したと推測される」と説明しました。

また今回の知見は、ヨコエビの生息水温がこれまで考えられていたよりも幅広く多様であることを示した点で重要な発見です。

今後、ヒアレラ・ヤシュマラの生態や生理を詳しく調べることで、甲殻類における高温耐性のしくみが明らかにできるかもしれません。

富川氏は「昔から身近に親しまれてきたヨコエビが新種だったことに驚く一方で、甲殻類のヨコエビがこれほどの高温で生息しているのは常識では考えられません。どのように適応しているのか今後、詳しく調べていきたい」と話しています。

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参考文献

ペルー北部の温泉から新種ヨコエビ発見
https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/80248

In an ancient hot spring haunt of Inca rulers, scientists discover a new freshwater shrimp species
https://www.hiroshima-u.ac.jp/en/news/79486

元論文

Description of a new thermal species of the genus Hyalella from Peru with molecular phylogeny of the family Hyalellidae (Crustacea, Amphipoda)
https://www.publish.csiro.au/IS/IS22060

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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