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ずっと謎だった「人参をオレンジ色にする遺伝子」をついに特定!


人参(ニンジン)のような身近な野菜には、もう謎など残っていないと思う人が多いかもしれませんが、実はそうではありません。

通常人参はオレンジ色をしていますが、この色の正体は「カロテン」という色素で、中でも「β-カロテン」が多く含まれているほど鮮やかなオレンジ色となります。

ところが、人参が遺伝的にどのようにしてカロテンを発現し、オレンジ色に染まることになるのかはわかっていなかったのです。

そんな中、米ノースカロライナ州立大学(NCSU)が600種以上の人参の遺伝子を調べた結果、オレンジ色を発現するのに必須な遺伝子はたった3つだけであることが判明しました。

しかも驚くことに、人参をオレンジ色にするには、この3つの遺伝子が「オフ状態」になっている必要があったのです。

研究の詳細は、2023年9月28日付で科学雑誌『Nature Plants』に掲載されています。

目次

  • 人参をオレンジ色にする遺伝子は3つだけ
  • オレンジ色の人参は「オランダ人」が発明した?

人参をオレンジ色にする遺伝子は3つだけ

今でこそ、「人参=オレンジ色」のイメージがすっかり定着していますが、初めからそうであったわけではありません。

人参の起源はぼんやりとしていますが、3000年前にはすでに現在の中東あたりで食べられていたとされています。

ただその時点での人参は「紫色」や「黄色」が主流で、土っぽい風味から主に薬草として珍重されていたという。

では人参がオレンジ色になったのはどのタイミングだったのでしょう?

今回の新たな研究は、オレンジ色の人参の歴史をひもとく調査の一環としてスタートしました。

研究チームが630種の人参ゲノムの解析を行ったところ、人参がオレンジ色になるのに必要なのは「REC」「Or」「Y2」という3つの遺伝子だけであることが特定されました。

しかも、この3つの遺伝子がオン状態になるのではなく、オフ状態になることでのみ、オレンジ人参に特有のα-カロテンおよびβ‐カロテンを発現することが可能になっていました。

630種の人参ゲノムを解析
Credit: Massimo Iorizzo et al., Nature Plants(2023)

加えて、遺伝子調査から人参は9〜10世紀に西アジアと中央アジアで栽培化された証拠が得られました。

そしてオレンジ色の人参は15〜16世紀の西ヨーロッパで最初に現れたことが示唆されています。

研究主任のマッシモ・ロリッツォ(Massimo Iorizzo )氏は、オレンジ色の人参は西ヨーロッパに持ち込まれた白色と黄色の人参をかけ合わせたことで生まれた可能性が高いと話します。

オレンジ色の人参は「オランダ人」が発明した?

実はこれまでの研究で「オレンジ色の人参を開発したのはオランダ人だった」という説が有力なものとして伝わっています。

オランダの生産者は16世紀末、人参の品質を向上させるためにいくつかの実験を開始しました。

彼らはそれ以前に流通していた紫色や黄色、白色の人参を交互に交配させ始めたのです。

その後、何世代にもわたって交配を繰り返す中で、それまでの人参に比べて甘みが強く、害虫にも強い品種が生まれました。

それがオレンジ色の人参だったのです。

この説は場所や時代を踏まえると、今回の調査結果とも一致します。

オレンジ・黄色・白色の人参サンプル
Credit: NCSU –What Makes a Carrot Orange?(2023)

またオランダの生産者には人参の品質を改良する他に、別の目的があったといいます。

それが当時のオランダ王室であるオラニエ=ナッサウ家(Huis Oranje-Nassau)に敬意を表するというものです。

この王家は現在もオランダ王室として続いていますが、オラニエ(Oranje)とはオランダ語で「オレンジ色」を意味します。

オランダのナショナルカラーがオレンジ色なのも、ここに由来しています。

生産者たちはこのオラニエ=ナッサウ家を讃えるために、オレンジ色の人参を普及させようとしたのかもしれません。

この逸話が真実なのかは今回の研究とは別の話ですが、いずれにせよオレンジ色の人参はこの頃から急速に普及しはじめ、紫や黄色の品種に取って代わるようになりました。

味や香りが良かっただけでなく、害虫に強く収穫量も多くなったからです。

研究主任のマッシモ・ロリッツォ氏
Credit: NCSU –What Makes a Carrot Orange?(2023)

さらに19〜20世紀に、オレンジ色の元となる「カロテン」に高い栄養価があることが科学的にも証明されたことで、一気に世界中に広まります。

オレンジ色の人参に含まれるカロテンは、摂取すると体内でビタミンAに変換され、栄養効果を発揮します。

主には抗酸化作用による動脈硬化や老化の防止、それから目の粘膜を健康に保って、眼病を予防する効果などです。

ちなみにカロテン(Carotin)は、カボチャやほうれん草など多くの野菜に含まれていますが、最初に人参(carrot)から単離されたことでこの名前が付けられました。

身近な野菜にも、こうした様々な歴史や遺伝的秘密が隠されているのです。

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参考文献

What Makes a Carrot Orange? https://news.ncsu.edu/2023/09/what-makes-a-carrot-orange/ How carrots get their trademark orange color https://www.popsci.com/health/orange-carrot-gene/ Carrots were originally purple, not orange. Here’s what happened https://www.zmescience.com/feature-post/health/food-and-nutrition/purple-carrots-21032011/

元論文

Population genomics identifies genetic signatures of carrot domestication and improvement and uncovers the origin of high-carotenoid orange carrots https://www.nature.com/articles/s41477-023-01526-6
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