アメリカの水族館で飼育されているメスのオーストラリアハイギョ「メトセラ(Methuselah)」は、飼育魚として世界最高齢となる84歳と推定されていました。
しかし新たなDNA検査により、研究者らの予想を超えて、メトセラは100歳を超えている可能性が浮上したのです。
米カリフォルニア科学アカデミー(CAS)、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の報告によると、メトセラの年齢は推定92歳から最大で101歳に達しているとのこと。
ハイギョ自体が長寿の魚ですが、現時点でメトセラより高齢のハイギョは知られていないといいます。
目次
- 1938年から水族館暮らしを続けている
- 大台の100歳に達している可能性が浮上!
1938年から水族館暮らしを続けている
ハイギョの起源はとても古く、約4億年前のデボン紀には地球上に出現していました。
現存する魚の中で最古参となっており、シーラカンスと共に”生きた化石”と呼ばれています。
魚は普通、エラ呼吸によって水中に留まり続けますが、ハイギョは成長するにつれて肺を発達させるため、数時間ごとに水面に出て息継ぎをしなければなりません。
今回話題となっているメトセラの属する「オーストラリアハイギョ (学名:Neoceratodus forsteri )」は、非常に代謝率が低く環境への適応力が高い、独特の生態を持っており、非常に長寿であることで知られています。
自然界でも平均10〜20年以上、飼育されている個体では50年以上生きたとされる個体の報告があります。
また、オーストラリアハイギョは肺呼吸とエラ呼吸の両方を行うことが出来、基本的に水質が良く酸素の豊富な場所ではエラ呼吸を行い、水質が悪く酸素濃度が低下すると肺呼吸へ切り替えます。
これが非常に環境適応力が高いとされる理由でもあり、飼育下では基本的にエラ呼吸で生活しています。
さて、今回の主役であるメトセラは1938年11月に米マトソン航行会社の定期船にのって、カリフォルニア州にあるスタインハート水族館(Steinhart Aquarium)に到着しました。
1938年というと、まだ第二次世界大戦も始まっていない時期です。
メトセラは当初、フィジーとオーストラリアで捕獲された231匹の魚と一緒にやって来ましたが、他のどの魚よりも長生きし、ついには同館で最も長寿かつ人気の魚となりました。
現在のサイズは全長1.2メートル・体重11キロとオーストラリアハイギョの一般的なメスと同等ですが、お腹を地面に擦るユニークな行動を取るそうです。
年齢に見合わず食欲旺盛で、飼育員から手渡しでエサをもらう姿が子供のように愛らしく、その姿を見るたびにメトセラの実年齢が分からなくなるといいます。
同館のチャールズ・デルベック(Charles Delbeek)氏は「メトセラが1930年代後半に水族館に来たことは確かですが、当時は年齢を測定する技術がなかったため、科学的根拠に基づいた正確な年齢は不明でした」と話します。
そこで研究チームは、最先端のDNA検査を用いて、メトセラの年齢を割り出すことにしました。
大台の100歳に達している可能性が浮上!
今回の研究ではメトセラの他に、年齢の分かっている2匹のハイギョ(50歳と54歳)および米国・豪州の6つの機関から提供してもらった計30匹のハイギョを対象にしました。
従来のハイギョの年齢測定は、耳石や耳骨の回収・ウロコ全体の除去など、魚にダメージを与える侵襲的な方法が主でした。
しかし今回は、ヒレから0.5平方センチメートル未満の組織サンプルを採取し、そこからDNAがどれだけ摩耗しているかを調べることで年齢を推定しました。
そのDNAデータを年齢の分かっている2匹のハイギョや他の30匹のハイギョと比較することで、メトセラの実年齢を割り出します。
結果、メトセラの年齢は92歳から最大で101歳に達していることが判明したのです。
研究主任でCSIROの分子生物学者であるベン・メイン(Ben Mayne)氏は「1870年にオーストラリアハイギョが発見されてから初めて、本種の最大年齢を予測することに成功した」と述べています。
また本研究は、オーストラリアハイギョ自体の年齢測定の精度を高めることにもつながりました。
年齢を詳しく知ることは、オーストラリアハイギョが野生下でどれだけ長く生存し繁殖できるかを理解し、個体数維持や保全活動を促進する上で大いに役立ちます。
現在、野生のオーストラリアハイギョはクイーンズランド州を流れる一部の河川にのみ分布し、ダム建設などによる生息地の破壊で徐々に数を減らしています。
すでに絶滅危惧種にも指定されているため、保全活動は急を要する課題です。
そうした仲間の存続の危機をよそに、メトセラは飼育魚の最高齢記録を大きく伸ばすことになりました。
見た目に弱っている様子もないため、今後もまだまだ記録を更新していくかもしれません。
ちなみに名前の由来になった「メトセラ」とは、旧約聖書の『創世記』に登場する伝説的な人物で、あの”ノアの方舟”で知られるノアの祖父に当たります。
メトセラは969歳で死んだと記述されており、聖書全体においても最も長寿の人物です。
まさに今回の研究で、その名前に偽りのない魚であることを証明しました。
参考文献
World’s oldest aquarium fish ‘Methuselah’could be decades older than we originally thought, DNA clock reveals https://www.livescience.com/animals/fish/worlds-oldest-aquarium-fish-methuselah-could-be-decades-older-than-we-originally-thought-dna-clock-reveals California Academy of Sciences Reveals Age of World’s Oldest Living Aquarium Fish https://www.calacademy.org/press/releases/california-academy-of-sciences-reveals-age-of-world%E2%80%99s-oldest-living-aquarium-fish World’s oldest living aquarium fish could be 100 years young https://www.popsci.com/science/worlds-oldest-living-aquarium-fish/