私たちの宇宙では√3が基準のようです。
私たちは縦横の比率が異なる四角形を長方形と呼びますが、これが細長くなると帯とかリボンと呼びます。
では長方形と帯の境目は数学的に存在するのでしょうか?
米国のブラウン大学(Brown University)で行われた研究は、綺麗なループ状のメビウスの輪を作るための、帯のアスペクト比を調査し、縦1に対して横が最低でも√3(1.73)必要であることを示されました。
もしこれより帯のアスペクト比が小さい場合、帯同士がぐちゃぐちゃに重なってしまい、綺麗なループ状にできなくなってしまいます。
これは帯と長方形の違いを数学的に示したとも言えるでしょう。
研究内容の詳細は2023年9月12日にプレプリントサーバーである『arXiv』にて公開されました。
目次
- メビウスの輪を作るにはある程度の長さが必要
- メビウスの輪を切り開く
メビウスの輪を作るにはある程度の長さが必要
メビウスの輪は帯状の紙を一回転させて、端同士をセロハンテープでくっつけることで作成できます。
この輪の上をアリが歩くと、表側と裏側が入れ替わるようにして、永遠に循環を繰り返します。
通常の輪では歩き始める場所を決めた時点でリング表面の表側と裏側のどちらか一方の面の上しか進めませんが、メビウスの輪では表と裏の両方を進める点で大きく違います。
そのため録画テープやインクリボンなど表も裏も使えたほうが得な構造では、メビウスの輪の構造がよく取り入れられています。
またベルトコンベアをメビウスの輪の形にすると接触面が2倍になるため摩耗しにくく長持ちするという利点があります。
しかしメビウスの輪の実用が進む一方で、メビウスの輪そのものの特性、特に作るのに必要な最低限のアスペクト比(縦横比)は不明となっていました。
前述のようにメビウスの輪は小学生にも簡単に作ることができますが、材料として渡される帯の形状によっては、かなりの困難が生じます。
たとえばアスペクト比1の正方形の折り紙でメビウスの輪を作ろうとしても、紙同士がぐちゃぐちゃに接してしまって(帯が帯に食い込んで)、綺麗なループ状になってくれません。
「綺麗なメビウスの輪を作るのに必要な最低限のアスペクト比はどれくらいか?」
この質問は単純に思えますが、実はメビウスの輪が最初に発見された1858年から現在に至るまで、誰も答えを数学的に証明することはできませんでした。
メビウスの輪を切り開く
綺麗なメビウスの輪を作るに、材料の帯に求められる最低限のアスペクト比はどれくらいか?
50年以上にわたる謎を解明するため、ブラウン大学の数学者シュワルツ氏はまず、メビウスの輪に顔を近づけてみました。
この稜線は完全な直線であり、メビウスの輪が始まって終わる境界線、つまり材料となる帯の端と端になりえる部分です。
小学生の工作では端と端をくっつけるときに「のりしろ」部分ができてしまいますが、この稜線部分は一切の遊びを許さない、始点と終点が同じ境界線となっています。
シュワルツ氏は、このような稜線が発生する境界線部分に、上の図のように、青い線を引いていきました。
そして帯の横幅(全長)を短くした場合に、境界線がどのように変化していくかを数学的に分析しました。
結果、最も短いメビウスの輪を切り開くと展開図は台形になり、材料として求められる帯のアスペクト比は「√3」になることがわかりました。
私たち人間は四角形、長方形、帯を直感的に分類しています。
そのためある人にとってはアスペクト比5:1が長方形という2次元的な認識であっても、別の人にとっては帯として、やや一次元的(線)な要素の強い認識をされてしまいます。
しかしメビウスの輪を基準にするならば、私たちの宇宙はアスペクト比√3:1を長方形と帯の境目としているのかもしれません。
現在シュワルツ氏は、1回ではなく3回ひねったメビウスの輪を作るのに最低限必要なアスペクト比を探している、とのこと。
メビウスの輪の理解を通じて、現実の構造そのものを理解できるようになる日が来るかもしれません。
参考文献
Mathematician proves that Möbius band must have an aspect ratio greater than √3 https://phys.org/news/2023-09-mathematician-mbius-band-aspect-ratio.html元論文
The Optimal Paper Moebius Band https://arxiv.org/abs/2308.12641