風力発電は「風が強ければ強いほど良い」というわけではありません。
ほとんどの風力タービンは、故障や事故を防ぐために暴風で停止するよう設計されているのです。
せっかくの強風がもったいないようにも思えますね。
オランダのスタートアップ企業「TouchWind」は、暴風でも安全に電力を生成し続ける次世代の浮体洋上風力タービンを開発しています。
まるで海に浮かぶ巨大な「竹とんぼ」のようですが、風の強さに応じて柔軟に角度を変えることができるようです。
2023年9月11日には、日本の大手海運会社「商船三井」が、TouchWind社に出資参画したことを発表しています。
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- 「巨大竹とんぼ」みたいな浮体洋上風力タービン
「巨大竹とんぼ」みたいな浮体洋上風力タービン
風力発電と言えば、丘の上に並んだ風車を思い浮かべるかもしれませんが、最高の風力は主に海の上で得られます。
また海の上であれば、近隣住民や野生動物とトラブルを起こすこともほとんどありません。
そのため科学者たちは、海の上に浮かぶ「浮体式洋上風力発電」の開発に取り組んできました。
そしてTouchWind社は、次世代の技術を確立させようとしています。
彼らが開発している風力タービンは、まるで海に浮かぶ「竹とんぼ」のようであり、まっすぐに立つのではなく、斜めに傾いています。
では、このユニークなデザインの風力タービンには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
1つに、暴風でも発電し続けられる、というメリットがあります。
日本の気象庁は、平均風速が地上で20m/s、海上で25m/sを超えると暴風警報を発令します。
そして多くの風力発電所は、風速25m/s以上で、風力タービンを停止させます。
これは極めて強い風によって、風力タービンが暴走したり故障したりするのを防ぐためです。
風が無くては発電できませんが、風が強すぎても発電できないのです。
しかしTouchWind社の新しい風力タービンは、その特殊な構造により、暴風域でも停止させる必要がありません。
一般的な風力タービンのブレードは風車のように横向きについていますが、新しい風力タービンのブレードは、竹とんぼやヘリコプターのように上向きについています。
そして通常時は傾いており、風速3m/sなどの弱い風を効果的に捉えることができます。
ところが風速70m/sほどの強烈な風が当たりだすと、ブレードが高速回転します。
これにより、ヘリコプターのように揚力が発生。マストを上向きに引っ張り始めます。
風力タービンはチェーンで海底に固定されているため飛んでいくことはなく、風力タービンの角度だけが変更されます。
私たちは風が強い時、風上に向けて身体を傾けて対処しようとするため、風の強さで傾きを調整するシステムと言われると、暴風時は風車の傾きがきつくなるイメージを持つかもしれません。
しかし実際は風車は暴風時ほど直立の状態に近づく調整をしています。
これによりブレードが風の向きに対して平行になるため、受ける風量が減少。高速回転が大幅に制限されるのです。
つまり、風が強い時でもブレードが暴走しないよう角度が変化するため、ブレードを強制停止させずに発電し続けられるというのです。
また他の浮遊式風力発電機と同じように、常に風が吹いてくる方向に頭が向くよう設計されています。
TouchWind社は、ブレードを一繋がりの2枚羽にしたことで、従来の3枚ブレードと比べて製造コストを30%に抑えられると主張しています。
さらに将来的には、規格外の直径200mブレードの構築を想定しているようです。
これにより12.5MWの電力が得られ、約1万5000世帯に電力を十分供給できるとのこと。
加えて、この風力タービンは海面と平行になるまで傾けることが可能なため、メンテナンス時にヘリコプターや大型クレーンを用いる必要がなく、メンテナンス費用を大きく削減できます。
この次世代風力タービンは現在開発中であり、2024年から2025年にかけてブレード直径6mのテストモデル10基の試験運用を予定しています。
2023年9月11日には、株式会社商船三井も出資参画を発表しており、今後ますます開発が進んでいくと考えられます。
参考文献
Single-bladed floating wind turbine promises half the cost, more powerhttps://newatlas.com/energy/touchwind-floating-wind-turbine/