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古代人類の骨を宇宙に飛ばした宇宙旅行会社に考古学者が猛批判!人類の遺産は誰のもの?


考古学者たちは怒っています。

2023年9月8日、宇宙旅行ビジネスを行う「ヴァージン・ギャラクティック社」のロケットに2つの古代人類の化石が入ったチューブが乗せられ、宇宙を旅しました。

これだけ聞くと、ロケットに化石を乗せただけという気もしますが、この化石の宇宙旅行は、多くの専門家が批判しています

古代人類を宇宙旅行させるという試みは、確かにロマンを感じる面白いデモストレーションですが、一歩間違えば100万年以上も前の化石を失う恐れもあったのです。

これは貴重な考古学的資料が、発掘された土地の権利者によって私物化されてしまい、正しく研究に回されないという学者にとって悩ましい問題を含んでいます。

インディ・ジョーンズ博士なら「それは博物館のものだ!」と怒ったであろう今回の騒動ですが、宇宙を旅した化石とはどのようなものだったのでしょうか?

そして、なぜ宇宙を旅行することになってしまったのでしょうか?

目次

  • アウストラロピテクス・セディバとホモ・ナレディ
  • なぜ古代人類の化石は宇宙に飛び立つことになったのか

アウストラロピテクス・セディバとホモ・ナレディ

今回、ヴァージン・ギャラクティック社のミッションで宇宙を旅行したのは、アウストラロピテクス・セディバとホモ・ナレディという2種類の古代人類の化石です。

アウストラロピテクス・セディバは、2008年に南アフリカで発見された古代人類で、見つかった化石は約180万年前のものとされています。アウストラロピテクスとヒト属の中間的な特徴を示す存在として注目され、木登りに適した腕や手と、二足歩行に適応した足の構造を持っています。

ホモ・ナレディは、2013年に南アフリカで発見された古人類で、見つかった化石は約30万年前から約25万年前のものとされています。脳はアウストラロピテクスに似て小さい一方で、頭蓋骨の形状は初期の人類に近く、猿人の原始的特徴と初期の人類の現代的特徴の両方が見られます。

アウストラロピテクス・セディバの復元(左)とホモ・ナレディの顔の復元(右)
Credit:en.wikipedia 

今回、宇宙に旅することになった化石には、アウストラロピテクス・セディバの鎖骨の一部と、ホモ・ナレディの親指の骨が選ばれました。

化石を選んだのは、ナショナル・ジオグラフィック協会の探検家で、南アフリカのウィットウォーターズランド大学の人類深部探査センターの所長としても知られているリー・バーガー氏です。

バーガー氏は、アウストラロピテクス・セディバとホモ・ナレディの化石の発見にも大きく貢献しています。

2008年、バーガー氏の息子マシュー氏によって、アウストラロピテクス・セディバの鎖骨の断片が発見されました。

さらに2013年、バーガー氏は研究者グループと共に、30万年前のホモ・ナレディの親指の骨を発見しています。

実はこの発見には、後述するバーガー氏が持つ特権にも関わってきます。

なぜ古代人類の化石は宇宙に飛び立つことになったのか

バーガー氏は、これらの化石が宇宙に飛び立つことは「我々が先祖や古代の人類たちの貢献に感謝している証だ」との考えを示しています。

つまり、古代人類に対してのリスペクトが今回の化石の宇宙旅行に繋がっているようです。

息子のマシュー氏は、「これらの古代人類たちは生きている間に、驚くべき旅をするなんて想像できなかっただろう」と述べています。

確かにはるか古代に絶滅した人類が宇宙へ行く、というのはロマン溢れる試みだというのは理解できます。

しかし、彼らの主張はいささか無邪気すぎるというのが、多くの専門家たちの見解です。

実際に古代人類が宇宙旅行を理解できるはずもなく、バーガー氏とマシュー氏の発言を、多くの人類学者や他の専門家たちは批判しています。

これはバーガー氏のX(旧Twitter)投稿ですが、ここでも多くの批判が見受けられます。

バーガー氏は「重要な古代人類が、これまでどの絶滅人類も足を踏み入れたことのない場所へ行くための準備ができています!」と嬉しそうに述べていますが、生物人類学者のアレッシオ・ヴェネツィアーノ氏は、Xで「この宇宙旅行を実施する科学的な意味はなく、古代人類への敬意もない」と述べており、またバーガー氏の化石に対する特権などについても問題を指摘しています。

ただ、すべての人が批判しているわけではなく、南アフリカ遺産庁(SAHRA)はこのミッションが「科学の普及と南アフリカの人類起源研究の国際的な評価の向上につながる」として、バーガー氏の宇宙飛行計画を承認しています。

そもそも、貴重な古代人類の化石を宇宙に飛ばすことは、事故が起きた場合などに今後の研究の機会を損失するため、NGなのでは?と思ってしまいますが、バーガー氏は、化石が幅広く研究され、何度も公に紹介されているため、これらの化石を宇宙に持っていくのは妥当であると主張しています。

浮かび上がる特権

アウストラロピテクス・セディバの頭蓋骨を持つバーガー氏
Credit:en.wikipedia

ホモ・ナレディ以外のヒト科動物の化石は、その保存状態の悪さや数の少なさなどから、多くの場合、研究の対象とはなっていないのが現状です。

しかし、今回の化石の宇宙旅行に対する多くの批判の中で、アウストラロピテクス・セディバの化石のような貴重なものを自由に扱うことができる、特権的な立場を持つ人々の権利問題が浮かび上がっています。

化石を宇宙旅行に持って行ったのは、南アフリカの大富豪であるティモシー・ナッシュ氏という人物で、彼はバーガー氏と長い間の友人でもあります。

彼らはアウストラロピテクス・セディバの化石を発見した場所を含む多くの土地を所有しているため、前述したようにバーガー氏が貴重な化石を発見できたことに繋がっているのです。

さらに、ナッシュ氏は化石が見つかった土地を観光地として発展させたいと考えているようです。

多くの古人類学の研究者たちは、バーガー氏らが土地や化石を独占しているような状態であるため、彼らが現場での実際の状況や研究内容を、他の研究者たちに正確に報告していないのではないかと疑念を抱いています。

古代人類の化石が宇宙を旅するという試みは、ロマンがあることのようにも感じますが、そこには考古学研究が抱える難しい権利の問題の多くが隠れているようです。

また、特権を持つ人達が貴重な化石を自由に扱うことができる状態そのものに問題があるのかもしれません。

化石には宇宙旅行をさせるのではなく、博物館で私たちを時間旅行に連れて行くガイドをさせてほしいものです。

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参考文献

‘I am horrified’: Archaeologists are fuming over ancient human relative remains sent to edge of space https://www.livescience.com/archaeology/i-am-horrified-archaeologists-are-fuming-over-ancient-human-relative-remains-sent-to-edge-of-space
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