昼寝は古くから世界中で行われている習慣です。
これまでの研究で、昼寝には様々な健康効果が認められており、職場や学校でも取り入れているケースが見られます。
ただ昼寝とは、昼間にガッツリ寝ることを指しているわけではありません。
米テキサスA&M大学(TAMU)で睡眠医学を専門とするスティーヴン・ベンダー(Steven Bender)氏は、昼寝をする際に注意したいポイントがあると指摘します。
それは「昼寝の時間」です。
ベンダー氏いわく、短い昼寝は健康にとても有益ですが、長い昼寝は逆効果になる可能性が高いという。
では昼とはどのくらいの時間が適切なのでしょうか? 詳しく見ていきましょう。
目次
- 短い昼寝がもたらす数多くの健康効果とは
- 短い昼寝が健康によくて、長い昼寝が悪い理由は?
短い昼寝がもたらす数多くの健康効果とは
まずは短い昼寝で得られる健康効果についてです。
ここで”短い昼寝”とは「パワーナップ(Power naps)」と呼ばれるもので、一般的に15〜30分程度の短い仮眠を指します。
時間あたりに対する睡眠の効用を最大化する睡眠法とされており、覚醒後の記憶力、注意力、反応時間を改善します。
また脳はパワーナップの時間を通して、それまでに収集した情報を処理し、目覚めた後の問題解決能力を高めます。
加えて、生産性や創造性の向上にもつながるため、職場に仮眠室を導入している企業もあるほどです。
米ミシガン大学の研究(Personality and Individual Differences, 2015)では、パワーナップを習慣化した人は欲求不満や衝動性が抑制され、その結果として、仕事のタスクを実行する際の集中力と作業効率が向上したことが明らかになっています。
まだまだこれだけではありません。
パワーナップにはストレスを緩和する効果もあり、チュニジア・マヌーバ大学の研究(Biology of Sport, 2021)の実験で、約20分間の昼寝をした参加者は覚醒後の気分が大きく改善することが示されました。
午前中に少し気落ちすることがあっても、パワーナップで気持ちをリセットできるかもしれません。
反対に、この研究では30分を超える長時間の昼寝を取ると、気分の改善や幸福感の増加は得られませんでした(その理由については後ほど)。
さらにパワーナップは心血管疾患のリスク低下とも関連している可能性があります。
ベンダー氏によると、私たちは起きている時間が必要以上に長くなると、テストステロン・コルチゾール・ノルアドレナリンなど、ストレスを感じたときに放出される化学物質が体内に蓄積されやすくなるという。
しかしパワーナップの習慣がストレス関連物質の蓄積を抑制し、血圧と心拍数を正常化させることが示されているのです(Current Hypertension Reports, 2018)。
このようにパワーナップには数え切れないほどのメリットがあるわけですが、ではどうして昼寝は短い方が良いのでしょう?
30分以上の長い昼寝が逆に健康に悪影響を及ぼす理由とはなんなのでしょうか?
短い昼寝が健康によくて、長い昼寝が悪い理由は?
分かりやすく定義しておくと、15〜30分は短い昼寝、30分以上が長い昼寝となりますが、この30分のラインで健康効果に大きな差が出るのは、私たちの睡眠サイクルに理由があります。
ご存じのように、私たちの眠りのステージは「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に分けられます。
レム睡眠は脳が活発に動いている浅い眠りで、この間に情報の整理や記憶の定着が行われています。夢を見るのもこの時間帯です。
ノンレム睡眠は大脳が休息する深い眠りで、脳と肉体の疲労および機能回復の働きをしています。
私たちの眠りはまずノンレム睡眠から入り、一気に深い眠りに陥ります。
入眠から約1時間後には徐々に眠りが浅くなり、レム睡眠へと移行。その後はこれを約90分の周期で5〜6回繰り返します。
つまり、私たちは眠りに落ちた最初の30分間は大脳を休めるノンレム睡眠にあり、そこで脳や体に蓄積された疲労がクリアされているのです。
しかし、私たちが昼寝をするとそんなに深い眠りに落ちている感覚はないでしょう。
その理由は、ノンレム睡眠には4つのステージがあり、30分を超えるとステージ3のより深い眠りに陥ってしまうためです。
ステージ3以降の深い眠りに入ると目覚めは非常に悪くなり、覚醒後に体はだるさを感じ、脳は意識や記憶があいまいになる見当識障害を起こしやすくなるのです。
これを「睡眠惰性(スリープ・イナーシア)」と呼び、逆に脳と体の疲労感が高まってしまいます。
だからこそ、15〜30分の短い昼寝が最も効果的なのです。
さらに中国・山東大学の研究(Sleep Medicine Reviews, 2022)によると、60歳以上では30分を超える長い昼寝が心血管疾患のリスクを高めることが指摘されています。
特に1日に1時間以上の昼寝をしている高齢者は、血圧の上昇・高血糖・体脂肪の増加・コレステロール値の異常が発生しやすくなっていたという。
しかし短い昼寝(パワーナップ)は年齢や性別を問わず、すべての人々に健康メリットがあると考えられています。
お昼に15〜30分ほどのパワーナップ習慣を取り入れることで、午後を活気に満ちた時間にできるかもしれません。
参考文献
‘Power naps’improve memory and lower heart disease risk, but long naps can have drawbacks https://www.livescience.com/health/sleep/power-naps-improve-memory-and-lower-heart-disease-risk-but-long-naps-can-have-drawbacks元論文
Systematic review and meta-analyses on the effects of afternoon napping on cognition(2022) https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S108707922200079X?via%3Dihub Daytime napping and cardiovascular risk factors, cardiovascular disease, and mortality: A systematic review(2022) https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1087079222000958?via%3Dihub