ウロボロスとは、自らの尾を飲み込んで環状になったヘビを象った古代のシンボルです。
ヘビは古来、脱皮して成長する様や長い飢えに耐えうる強い生命力から「死と再生」「不老不死」の象徴とされてきました。
そこに古代人はヘビが尾を飲み込む姿をシンボルにことで、始まりも終わりもない完全なものの意味を与えたのです。
ウロボロスは創作分野でよく多用されるため、どこかでこのマークを見たことがあるのではないでしょうか。
しかしウロボロスは神話やフィクションに終始する話ではありません。
実はヘビが自らの尾を飲み込む現象は本当に起こるのです。
では、なぜヘビたちは自分の尾を飲み込もうとしたりするのでしょうか?
※ 記事内では、ヘビが尾を飲み込む実際の映像を掲載しています。苦手な方は閲覧にご注意ください。
目次
- 実際にウロボロスをすると命を落とす危険が
- ヘビが自分の尻尾を飲み込んでしまう理由とは?
実際にウロボロスをすると命を落とす危険が
ウロボロスの起源は、BC1600年頃の古代エジプト文明にまで遡ります。
エジプト神話において、太陽神ラーが夜の航海をする際、旅を妨害する悪の化身アペプから守るために、大蛇の神メヘンがラーを取り囲んで守護する記述が見られます。
これがきっかけとなり、当時のオシリスの神殿の壁に環状に丸まったヘビの図が描かれました。
このシンボルがのちにフェニキアを経て古代ギリシアに伝わり、そこで「ウロボロス(=尾を飲み込むヘビ)」の名前が与えられたのです。
その後、ウロボロスは「死と再生」や「完全なもの」の意で使われるようになりましたが、実際のヘビが行うウロボロスはそんな生やさしいものではありません。
こちらは飼育下にあるキングヘビ属の一種が自分の尾を飲み込もうとする様子です。
このヘビは幸いにも自らを傷つけることなく尾を放していますが、「実際はかなり危険な行為だ」と専門家は話します。
例えば、自分の尾を飲み込むと、自らが分泌した酸性の胃液によりウロコ表面が溶けて損傷することがあります。
また尻尾が体内で詰まると窒息死を起こしかねません。
それから鋭い牙が尻尾に食い込んだ場合、出血だけでなく、有害な病原菌が侵入して感染症を引き起こす可能性も大です。
その一方で、毒ヘビが自分の毒牙にかかることはありません。
ヘビの体内には、自らの毒素に対する抗体が自然に含まれているため、自分で自分を噛んでも毒は無害なタンパク質に変化し、腎臓から体外に排出されます。
ただ毒は平気でも、先の窒息死や感染症によって命を落とす危険は十分にあり得るのです。
では、どうしてヘビは命の危険があるにも関わらず、尻尾を飲み込もようとするのでしょうか?
ヘビが自分の尻尾を飲み込んでしまう理由とは?
ヘビが自らの尻尾を飲み込む決定的な理由はまだ得られていませんが、研究者らはいくつかの要因を挙げています。
まずは「温度調節の異常」です。
他の爬虫類と同じく変温動物であるヘビは、自らの体温を制御する能力を持ちません。
体温は外部の気温に依存して決まるため、暑い日は日陰に隠れ、寒い日は日光浴をする必要があります。
しかし体温が上がりすぎると、ヘビの方向感覚や温度感知の能力が故障し、混乱して自分の尻尾と獲物が見分けられなくなって、とっさに噛みついてしまうのです。
飼育環境下でウロボロスの現象がよく見られるのは、身を隠す日陰がなかったり、バスキングライトがつけっぱなしになることが原因だといいます。
それから「過熱による代謝亢進」も関係しているという。
ヘビが体温を下げられずオーバーヒート(過熱)すると、代謝率が上昇して、空腹でもないのにお腹が空いているように錯覚するのです。
そうなるとヘビは目についたものを何でも食べようとするので、獲物と見誤った自分の尻尾に食いつくといいます。
そして「ストレス」も大きな要因の一つです。
狭い水槽での生活、過度の光や騒音、触りすぎ、汚れたスペースなど、ストレス因子が多いとヘビは異常行動を取り始めることが分かっています。
その一つとしてウロボロスのような行為があるのです。
私たちも過度のストレスを受けると、爪を噛んだり髪の毛を抜いたりと自傷行為に走ることがありますが、それと似ているのかもしれません。
ウロボロスを見かけた場合の対処は?
もし飼い主として、ペットのヘビがこの自傷行為をしているのを見かけたら、直ちに命を救うための対処をしなければなりません。
最初に確認すべきは、飼育環境の温度調節がおかしくなっていないかどうかです。
もし過度に暑くなっていたのなら、バスキングライトを消したり、日陰に置いたり、あるいは水を吹きかけたり、水を入れたボウルにヘビを入れるのが有効だといいます。
ちなみにこちらの飼い主は、手の消毒液を鼻に塗るとヘビがスルスルと尻尾を吐き出すことを発見したそうです。
またウロボロスの行為が定期的に見られるなら、ストレスが要因の可能性が高いため、飼育環境を見直してみましょう。
温度でもストレスでもない場合は、病気や年齢による異常行動が予想されます。
その場合は獣医に診察してもらって、正しい処理を受けるのがベストです。
「ウロボロスが見れたからラッキー」と決して放置しないようにしましょう。
参考文献
Shocking Videos Show Snakes Really Do Swallow Their Own Tailshttps://www.sciencealert.com/shocking-videos-show-snakes-really-do-swallow-their-own-tails
8 Main Reasons Why Snakes Eat Themselves
https://www.atshq.org/do-snakes-eat-themselves/