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何かに気づいた瞬間「全ての動き」を一時停止させる脳回路を発見!


文字通り全てが止まります。


デンマークのコペンハーゲン大学(KU)で行われた研究によって、脳内にはあらゆる形態の動きを完全に停止させる驚くべき神経細胞が存在することがマウス研究で示されました。


興味や注意を引かれる場面に出会ったときに、私たちは一瞬動きを止めてしまいますが、どうやら脳内には「一時停止」を専門に扱う神経細胞があるようです。


突然の一時停止が起こるとき、私たちの脳と体では何が起きているのでしょうか?


研究内容の詳細は2023年7月27日に『Nature Neuroscience』にて公開されました。




目次



  • 「全ての動き」さらに「呼吸」まで停止させる脳回路を発見!
  • 一時停止が起こるとその後の動作も変わる

「全ての動き」さらに「呼吸」まで停止させる脳回路を発見!


「全ての動き」さらに「呼吸」まで停止させる脳回路を発見!
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

脳による体の制御は、動くこと、走ること、話すことなど動きにかんするものだけではありません。


狩猟犬が鹿の臭いを嗅いだ途端に、ピタリと動きを止めてしまうように、私たちの脳は一時的に全ての動きを止め、全神経を集中する仕組みも存在すると考えられています。


動作を実行することと動作を停止させることは、行動の制御という観点からはどちらも重要です。


しかしその仕組みが脳内のどこにあり、どんな指示系統で体に命令しているかは、ほとんど謎につつまれていました。


そこで今回、コペンハーゲン大学の研究者たちは、マウスの特定の脳細胞だけを活性化させる技術を使って、どの神経細胞が緊急停止に関与しているかを調べることにしました。


調査にあたってはまず、マウスの脳細胞の遺伝子を操作し、光を照射された脳細胞だけが活性化するようにし、続いてマウスの頭蓋骨に穴をあけ、光ファイバーを挿入しました。


この方法は「光遺伝学的手法」と呼ばれており、光のオンオフで脳細胞の活性を制御可能になるため、従来のように脳に直接電極を刺し込み電気刺激をするよりも、体への負担が少なくなります。


PNNは中脳にある領域で人間にも存在します
Credit:歩行誘発野:身体適応ー歩行運動の神経機構とシステムモデルより引用

結果、マウス中脳の脚橋核(きゃくきょうかく:PPN)と呼ばれる部位に存在する、特定の脳細胞(Chx10を目印に持つ)を活性化したときに、マウスの動きを急停止させられることが判明しました。


また興味深いことに、この脳細胞を刺激されているときのマウスの状態を詳しく調べたところ、体の動きに加えて呼吸も停止しており、さらには心臓の鼓動まで遅くなっていることが発見されました。


画像
Credit:Haizea Goñi-Erro et al . Pedunculopontine Chx10+ neurons control global motor arrest in mice . Nature Neuroscience (2023)

さらに脳細胞への光の照射を止めて活性化を中断すると、停止していたマウスの動作が再開することがわかりました。


上の動画では、歩いていたマウスの脳内に光を照射すると、突然マウスが立ち止まりピクリとも動かなくなる様子が示されています。


この結果は、PPNに存在する特定の脳回路は意識的な動作に加えて呼吸や鼓動など無意識的な動作にも影響を与える、極めて強力な「停止スイッチ」であることを示します。


研究者たちは「マウスたちに一時停止と動作再開を促す仕組みは非常にユニークであり、いままで見たことがない」と述べています。


一時停止が起こるとその後の動作も変わる


一時停止が起こるとその後の動作も変わる
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

また一時停止と動作再開を繰り返してマウスの動きを分析したところ、一時停止は「時を止めたような本当の停止」とは異なっていました。


たとえば一時停止を挟んで動作再開させたマウスたちはしばしば、物事に対して新しい方法でのアプローチを行うこともありました。


この結果は、体や呼吸の動きが一時停止している間にも脳の活動は続けられていることを示しています。


また追加の研究でPPNによる一時停止と恐怖による「立ちすくみ」を比較したところ、脳内では全くの別経路だったことがわかりました。


つまりPPNによる停止と恐怖による停止は別の現象だったのです。


そのため研究者たちは、PPNによって制御される動作や呼吸の一時停止は、集中力や注意力、警戒心を増加させるための仕組みだと結論しています。


全ての体の動きと呼吸を止めることは、環境から自分の影響を排除し、周囲の様子をより中立的に観察することに繋がるからです。


実際、PPNに存在する停止機能にかかわる脳細胞の出力先を調べると、予期せぬ行動の感知、注意力増加、覚せいレベルの増加に関連する脳領域に繋がっていることがわかりました。


一時停止を起こしたマウスの脳内では、運動面と認知面の両方のパフォーマンスが向上し、運動再開後に最適な動作が実行できるように備えていたのだと考えられます。


研究者たちは、マウス脳に存在するPPNは脊椎動物に広く存在する脳領域であり、おそらく人間にみられる一時停止も同じ仕組みで起きている可能性があると述べています。


また今回の発見は、パーキンソン病の理解につながる可能性も秘めています。


というのも、運動の突然の停止はパーキンソン病の主な症状の1つであるからです。


この症状をもつ患者は特に注意を必要とするような状況でなくても、動さが突然止まってしまうことがあり、円滑な作業が困難になってしまいます。


研究者たちは、パーキンソン病の患者では脳の状態が変化し、PPNが過剰に活性化されてしまっている可能性があると述べています。


もしPPNの脳回路を自由に活性化したり抑制したりできる薬が開発されれば、人々の集中力を高めたり、パーキンソン病の主要な症状の1つを緩和することができるかもしれません。


全ての画像を見る

参考文献

Nerve cells in the brain can halt all movement – even breathing
https://healthsciences.ku.dk/newsfaculty-news/2023/07/nerve-cells-in-the-brain-can-halt-all-movement-in-the-body--even-breathing/

元論文

Pedunculopontine Chx10+ neurons control global motor arrest in mice
https://www.nature.com/articles/s41593-023-01396-3
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