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家の鍵を掛けたか気になる! 強迫性障害のメカニズムの一端が明らかに


家を出るたび、「鍵はちゃんと掛かってる?」という疑問が頭から離れず、何度も確認に戻る…。これは強迫性障害の一例です。強迫性障害は、強迫観念と強迫行為が続き、日常生活が支配されてしまう病的な状態を引き起こします

強迫観念や強迫行為の原因については、これまで「脳の機能異常」が指摘されてきましたが、具体的なメカニズムは明らかにされていませんでした。

しかし、最近発表された英国ケンブリッジ大学の研究により、強迫性障害患者の脳の特定の領域で神経伝達物質「グルタミン酸」と「ガンマアミノ酪酸(GABA)」のバランスが崩れていることがわかりました

この不均衡は、強迫性障害の症状の強さにも、強迫行為の発生にも関連していました。研究者たちはこの発見について「より効果的な治療法の開発につながる可能性があるものだ」とコメントしています。

研究の詳細は、2023年6月27日付の『Nature Communications』誌に掲載されました。

目次

  • 身近だが治療が難しい「強迫性障害」
  • 脳の回路の機能不全が関与している可能性
  • 患者の脳で神経伝達物質の不均衡がみられた

身近だが治療が難しい「強迫性障害」

「強迫症っぽい」という言葉は、整頓好きやキレイ好きな人を指す「冗談」のように使われることがあります。

しかし、実際の強迫性障害(OCD:Obsessive-Compulsive Disorder、強迫症)は、日常生活に深刻な影響を及ぼす、決して軽視すべきではない疾患です。

強迫性障害の診断は、「強迫観念」と「強迫行動」の二つの症状が存在する場合に下されます。普通の人でも多少の不安感はありますが、この疾患では強迫観念・強迫行為によって日常生活に支障が出てしまいます。

「鍵を閉めたかしら」などの考えが繰り返し浮かび、やめようと思ってもやめられない。
Credit: Canva

例えば、手を何度も洗い続けてしまう、または、部屋の中を何度も往復してしまうなど、目を覚ましている間ずっと、同じ行為に夢中になってしまう人もいます。

また、外出しようとすると不安になり、家に戻って鍵のかかり具合やコンロの火を何度も確認してしまうため、家を出ることができない人もいます。

治療法としては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を中心とした薬物療法や、認知行動療法(Cognitive-behavioral therapy, CBT)が用いられます。

しかし、治療の効果や進行には個人差が大きく、一部の報告では「強迫性障害の患者の50%はSSRIに対して十分な反応が得られない」とされており、治療が難しい疾患の一つと認識されています。

強迫性障害は若い世代での発症が多く、成人40人に1人にみられると言われます。意外と身近な病気であるにもかかわらず、その原因がはっきりとしていないため、有効な治療法は限定されています

脳の回路の機能不全が関与している可能性

強迫性障害の原因は完全には解明されていませんが、脳の特定の回路が関与していると考えられています。その一つが「皮質-線条体-視床-皮質回路(CSTC circuit)」です。

この回路は、脳の異なる部分が互いに情報をやり取りするループ状の経路で、行動、感情、思考などを調節する役割を担っています。

この回路の一部が適切に働かないと、強迫観念や強迫行動が引き起こされると考えられています。

「回路の一部が適切に働かない」とは、具体的には、前頭葉(特に眼窩前頭皮質(OFC)と呼ばれる部分)からの信号が線条体(特に尾状核と呼ばれる部分)に送られる際、この信号の制御がうまく機能しないことです。

回路が適切に働かないことが強迫観念や強迫行動の一因とみられている。
Credit: psych scene hub(ナゾロジー編集部が訳文を挿入)

通常、尾状核は視床への信号を抑制する役割を持っていますが、制御がうまくいかないと、視床への信号が抑制されず、視床が過剰に活動するようになります

これにより、視床と眼窩前頭皮質の間で過剰な活動が生じ、強迫観念や強迫行動といった症状が引き起こされると考えられています。

脳の回路は、神経伝達物質という特定の化学物質によって調節されます。

「グルタミン酸」は神経細胞を刺激し、情報伝達を促進する役割があります。一方で、「GABA」は神経細胞の活動を抑制し、情報伝達を減少させる役割があります。

これらの化学物質のバランスが崩れると、前頭皮質と線条体の間の情報の流れが乱れ、強迫的な行動が引き起こされるのではないかと見られています

患者の脳で神経伝達物質の不均衡がみられた

これまでの研究では、グルタミン酸やGABAのレベルについて一貫した結果が得られていませんでした

例えば、ある研究では強迫性障害の患者の前頭前皮質でGABAレベルの低下が確認されましたが、別の研究では逆の結果が得られたり、GABAのレベルに変化がないという結果も報告されていました。

これらの問題を解決するために、ケンブリッジ大学の研究者たちは、高性能な磁気共鳴画像(MRI)スキャナーを使用して、脳内のグルタミン酸とGABAのレベルを測定しました。

本研究では、通常の臨床診断で使用されるMRI装置(1.5テスラまたは3テスラの磁場強度)よりも強力な7テスラの磁場強度を持つMRIスキャナーを使用したことで、神経伝達物質のレベルを異なる脳領域で個別に検出・測定できました

主に、前帯状皮質(ACC)と補足運動野(SMA)と呼ばれる、脳の前方に位置する2つの領域に焦点を当て、グルタミン酸とGABAのレベルを測定しました。

(a)黄色は前帯状皮質、紫色は補足運動野、オレンジは後頭皮質、(b)緑色は健常者、青色は強迫性障害の参加者のグルタミン酸とGABAのレベル(ppm)
Credit: Biria, et al. nature communications(2023)

ACCとSMAは、先述したCSTC回路の一部として機能しています。ACCは意思決定や感情の処理に関与し、SMAは自発的な運動の開始に重要な役割を果たしています。

これらの領域で神経伝達物質のバランスが崩れると、感情や行動に影響が及ぶ可能性があります

結果、神経症障害の患者のACCとSMAにおいて、グルタミン酸のレベルが高く、GABAのレベルが低いことが確認されました。

つまり、これらの領域では神経細胞の興奮が過剰で、抑制が不足している状態になっているということです。

この神経伝達物質のバランスの崩れが、特に症状の強さに影響を与えるのではないかと考えられます。

また、SMAにおいてグルタミン酸のレベルが高いと、臨床的診断の有無にかかわらず、強迫行為がみられることもわかりました

すなわち、SMAのグルタミン酸のレベルが高いほど、強迫行為の症状が重い可能性があるということです。

本研究の筆頭著者であるビリア博士は、この「バランスの崩れ」が強迫性障害の症状に影響を与えるとコメントしています。

「グルタミン酸のレベルが変化すると、グルタミン酸受容体の活性化に影響を与え、異常な興奮伝達を引き起こします。同様に、GABAのレベルの中断は、神経ネットワークのバランスを維持する基本的な役割を果たす抑制的な信号伝達に影響を与えます。グルタミン酸またはGABAの神経伝達の乱れは、神経の過活動または低活動につながるのです」

この発見により、研究者たちは「強迫性障害に対するより効果的な治療法の開発に向けた希望が高まっている」と述べています。

新しい治療法としては、神経細胞からのグルタミン酸の放出を抑制する薬の使用や、頭皮に磁気コイルを当てて神経回路の化学的バランスを調整する方法が考えられています。

ビリア博士は、「将来的には、強迫性障害が病気の初期段階で診断され、化学的不均衡が早期に特定されることで、これらの新しい治療法が強迫性障害患者の生活の質と幸福感の向上に寄与することが期待されます」と述べています。

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参考文献

People with obsessive-compulsive disorder have an imbalance of brain chemicals – our discovery could mean a treatment breakthrough https://theconversation.com/people-with-obsessive-compulsive-disorder-have-an-imbalance-of-brain-chemicals-our-discovery-could-mean-a-treatment-breakthrough-208549

元論文

Cortical glutamate and GABA are related to compulsive behaviour in individuals with obsessive compulsive disorder and healthy controls | Nature Communications https://www.nature.com/articles/s41467-023-38695-z
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