「友達がいない」と孤独に悩む人は多く存在します。
しかし、孤独な人は本当に社会から孤立しているわけでなく、単に人と「ものの感じ方が違う」だけの可能性があるようです。
米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究者らは、自分を「孤独だと感じている人」と「孤独とは感じていない人」の脳画像を比較し、自分が孤独だと感じている人の脳の反応が「独特である」ことを発見したと報告しています。
研究の詳細は、2023年4月7日付の『Psychological Science』誌に掲載されています。
目次
- あなたは本当に孤独なのか?
- 孤独を感じている人は特異な脳反応を示す
- 友人に囲まれていても孤独を感じる
あなたは本当に孤独なのか?
孤独は幸福にとって有害であることは、多くの先行研究により示されています。
人間は社会的な生き物であり、多くの人々が暮らす社会とつながっていたいという根源的な欲求があります。
この帰属欲求が満たされず、社会的に孤立し孤独を感じると、うつ病、不安、心血管系疾患、さらには死亡リスクの上昇など、個人の幸福に有害な影響を及ぼします。
しかし孤独感とはなんでしょうか?
孤独感とは「他の人々とのつながりが不十分であると感じ、それが心の中で苦痛を引き起こす状態」と定義されています。
この定義は、孤独感が個々の主観的な感覚に基づいていることを意味しており、客観的に見た他の人々との社会的なつながりの数や質とは必ずしも一致しません。
孤独は皆が同じように感じるものではありません。少ない友人しかいなくても強い孤独は感じない人もいますし、大勢の人たちに囲まれていても常に孤独を感じている人もいます。
こうした孤独感の個人差は、性格、愛着スタイル、社会的支援ネットワークなど、さまざまな要因に影響されると考えられています。
研究者らは、このような個人差について、「自分を孤独と感じない人は皆似ているが、自分を孤独だと感じている人は皆、特有の方法で世界を認識している」という仮説を立て、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた調査を行いました。
結果、孤独を感じている人は孤独を感じていない人に比べて、より異質で特異な脳処理パターンを示すことがわかったのです。
孤独を感じている人は特異な脳反応を示す
今回の研究チームは、孤独を感じている人と感じていない人たちに同じ体験をしてもらい、その際の神経反応がどれだけ類似しているか評価を行いました。
具体的には、大学生66名(18歳から21歳)にビデオを視聴させ、その間の脳活動をfMRIで追跡しました。
そしてこれらのデータを、事前調査に基づく2つのグループ(「孤独を感じている人(35人)」と「孤独を感じていない人(31人)」)に分類しました。
さらに、分類したデータを使って、①孤独を感じている人のペア、②孤独を感じている人と感じていない人のペア、③孤独を感じていない人のペアを作り、彼らが同じ動画を観ているとき、動画の特定のシーンや出来事に対して、脳反応が類似するどうかを調べました。
もし脳反応が異なる場合、その人は「同じ体験をしているにも関わらず、他の人とは感じ方が異なっている」と解釈することができます。
結果、孤独を感じない人のペアでは、同じ動画に対して類似した脳反応が検出できたのに対し、孤独を感じている人のペアでは、同じ動画を見ても、脳反応がそれぞれ異なっていることがわかったのです。
この結果はどういうことを意味するのでしょうか?
友人に囲まれていても孤独を感じる
孤独を感じている人ほど、脳反応が人とは異なるという事実は、友達が少ないことに原因があるのでしょうか?
今回の研究では、被験者の友人の数などの社会的つながりについても調査していますが、脳の反応が特異的であるという結果は、友人の数や、ペアにした人同士が友人であるかどうかなどとは関係していませんでした。
論文では今回の結果が、「独特な脳反応を示す人は友人が少ない」とか、「脳反応が類似する人同士は互いに友人である可能性が高い」などという、短絡的なものではないことが強調されています。
本研究を行ったベク准教授らは、「友人がいるかどうかに関係なく、孤独感の強い人ほど特異的な神経反応を示しやすい」という結果を受け、「自分とは異なる世界認識をする人々に囲まれていることが、(たとえ彼らと定期的に交際していたとしても)孤独感を高める危険因子である可能性がある」と述べています。
本研究ではまた、孤独感のレベルが高いほど、脳の報酬系を構成する領域の感じ方も人とは異なることが示されています。
今回の結果は、孤独を感じている人々は仲間と同じ物を見ても、同じ価値を見出せない結果、自分が仲間と違っていると認識し、それが社会的なつながりを達成する上でさらなる困難をもたらすのではないかという事を指摘しています。
友達がたくさんいても、いつも映画や漫画などでみんなと感想が違うとなってくると、その人は実際孤立はしていなくても、孤独を感じるようになってしまうのでしょう。
そして健康にとってマイナスとなる孤独感は、こうした個人の孤独に対する感じ方に依存する可能性があります。
孤立した人をなくすための試みは社会のさまざまな場所で試みられていますが、実際社会的には孤立していなくても、本人が孤独を感じてしまうのではどうにもなりません。
今後の研究についてベク准教授は、「友人がいて社交的であるにもかかわらず孤独を感じている人々について調査することに興味がある」と述べています。
さらに、孤独な人々のユニークな神経処理が、どのような状況に置かれた場合に起こるのかを特定することにも意欲を示しています。
参考文献
Brain scans reveal that lonely people process the world in unique ways https://dornsife.usc.edu/news/stories/brain-scans-lonely-people-process-unique/元論文
Lonely Individuals Process the World in Idiosyncratic Ways https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/09567976221145316#bibr2-09567976221145316