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食事でがん患者の生存期間を劇的に改善!ケトン食療法の研究


炭水化物や糖類を極力控え、脂質を中心に栄養を摂取するケトン食療法。

このケトン食療法は長らくてんかん患者に有効だと使用されてきました。

しかし、大阪大学の研究により、てんかん患者だけではなく、進行がんの患者にも効果があることが判明しています。

今回は、このケトン食療法が進行がん患者に与える影響についての研究を紹介します。

目次

  • ケトン食療法とは何か
  • ケトン食ががん患者の生存期間を伸ばす?

ケトン食療法とは何か

炭水化物を極力抑えたケトン食
credit:photoAC

ケトン食療法といわれても耳慣れない人がほとんどでしょう。まずは、ケトン食療法について解説します。

ケトン食とは

ケトン食とは、炭水化物(糖質)を控え脂質を多した食事のことです。

通常、脳のエネルギー源は炭水化物などから作られる糖質ですが、体内に糖質が少なくなると、脂質から作られるケトン体を使用するようになります。

ケトン食は、このケトン体を体に多く作り出すことが目的です。

ケトン食は糖質を控えるため、基本的に米や小麦などの炭水化物はできるだけ摂取しません。

砂糖もグラニュー糖ではなく、糖類が含まれていない人工甘味料を使用します。

そのため、ケトン食では脂質を使わない麺類などを活用し、魚、肉、豆腐、卵といった脂質中心の食材で作られます。

このような食事は糖質制限ダイエットでも使用されることから、ケトン食療法としてではなくダイエットの一環としてケトン食を摂取している人もいるでしょう。

ケトン食療法とは

ケトン食療法は、治療として絶食状態にしなければならなかったてんかん患者に対して提供されたことが始まりです。

ケトン食であれば、絶食しなくても体が絶食したときのように飢餓状態になることから、てんかん治療に有効なのではないかと考えられました。

結果、ケトン食療法はてんかん患者の発作軽減に効果があると判明し、日本でも小児のてんかん治療の一環としてよく行われています。

また、魚やアザラシの肉などの脂質を中心としたケトン食のような食習慣を持つイヌイットは、デンマーク人と比較してがんの罹患率が低いという調査結果があります。

1950年代以降欧米型の食文化が進んだイヌイットにはがんが急増しており、食生活の変化ががんに関係するのではないか、と予測できるでしょう。

国内でも糖代謝に異常が起こると大腸がんになりやすいといった調査があり、糖を抑制し、脂質を中心としたケトン食療法ががん治療にも有効なのではないかと注目を集めています。

こういった背景から、大阪大学大学院医学系研究科特任教授である萩原圭祐先生は、ケトン食療法をがんに活用する研究を始めました。

ケトン食ががん患者の生存期間を伸ばす?

2枚目の画像
credit:大阪大学

大阪大学では、2013年から2018年の間、ケトン食療法を行っている進行がん患者を55人の観察を続けました。

その結果、ケトン食療法を3カ月以上続けた場合、55人中37人に有望な結果が得られたと報告しています。

今回の論文は、その55人全員(うち2人はその後体調悪化により脱落)を2023年3月まで追跡調査を行ったものです。

脱落してしまった2名を除く53人を、ケトン食療法継続12カ月以上21人と、12カ月未満32人の2群に分け、観察を行いました。

その結果が以下のとおりです。

12カ月以上12カ月未満
ケトン食療法の実施期間の中央値37カ月3カ月
死亡数10人(21人中)31人(32人中)
生存期間の中央値55.1カ月12カ月

ケトン食を12ケ月以上続けた群はそうではない群に比べ、死亡数が少なく生存期間も長いことが分かります。

そのほか、12ケ月以上ケトン食療法を続けた群のほうが、血液検査の結果も良好になったほか、患者当人が感じる痛みが減少し、生活の質向上が向上したと感じる人が多い、という結果が出ました。

( A ) 12 か月以上ケトン食を行った患者と受けていない患者の未調整比較 ( p <0.001、ログランク検定)。( B ) 逆傾向スコア加重分析における 2 つのグループの比較 ( p <0.001、調整されたログランク検定)
credit:大阪大学

一例として、48歳のときにRAS変異結腸がんと多発性両側肺転移があると診断された女性を紹介します。

この患者は、がん治療として標準的な化学療法や放射線治療を受けつつケトン食療法も継続して行っていたところ、12月のCT検査では肺と肝臓の転移が減少しました。

治療中に軽度の低カリウム血症(カリウム摂取不足により起こる病気)、高脂血症(血液中の脂質の値が高すぎる症状)などが起き医療的な介入はあったものの、重篤な副作用は起きませんでした。

2023年3月もケトン食療法を継続していますが、全身状態は良好です。

ケトン食療法の今後の展望と注意点

今回の論文は「ケトン食療法を続けたがん患者のほうが長期的に生存できた」という調査結果に関する報告でした。

がん細胞は糖を栄養分として成長する特徴があるものの、なぜケトン食療法を継続した群のほうが生存期間が長くなったのか本当にケトン食療法に効果があると言い切れるのか、といったことは明らかにはなっていません。

また、この観察において、ケトン食療法は医師や管理栄養士の指導の元行われている点にも注意してください。

ケトン食はダイエット中の人も取り入れることもあるから気軽に始められるように感じますが、実は嘔吐、下痢、便秘、倦怠感といった状態に陥ることもあります。

健康な人でもケトン食の持続には注意が必要であるため、てんかん患者やがん患者にとってはより慎重な進めなくてはなりません

食べ物を変えるだけで自宅で気軽にできると思うかもしれませんが、専門家の指示なしで進めていくことは危険を伴います

何か起きたときには医師による医療行為を受けることは必須です。

そのため、ケトン食療法を試したいと考えるときは勝手に自分で取り入れるのではなく、必ず医師の指示を受けながら行うようにしてください。

簡単に導入できると思いがちなケトン食療法ですが、がんを扱う医師がケトン食療法について知り、患者に対して正しい知識を提供することが必要です。

そのため、今後はより多くのがん患者がケトン食療法を受けられるように、各病院で環境を整えられることが求められます。

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参考文献

進行がん患者の生存期間を劇的に改善 新たなケトン食療法の長期継続効果から https://research-er.jp/articles/view/122371 ケトン食の治療における活用と癌治療への展開 https://eiyonews.com/nutrients/ganketonshoku/

元論文

Long-Term Effects of a Ketogenic Diet for Cancer https://www.mdpi.com/2072-6643/15/10/2334
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