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スローライフを望む若者はもはや「恋愛=幸せ」と感じていない


「人生山あり谷あり」と言われるように、私たちの一生は成功もすれば失敗もする起伏に富むものと考えられています。

ところが最近は、「人生山なし谷なし」劇的なことが人生に起こらないスローライフを望む人々が増えています。

この考え方は「フラティズム(Flatism)」と呼ばれ、中国で最初に誕生し、アジア圏を中心に浸透しつつあります。

それと同時に研究者らは、世界的に「結婚しない若者」が増えていることにも関心がありました。

そこでマレーシア・トゥンクアブドゥルラーマン大学(UTAR)は、フラティズムと独身でいることとの関係性を調査。

その結果、フラティズムを抱く若者は「幸せな人生のために恋愛や結婚は必ずしも必要ではない」と考える傾向が強いことが判明したのです。

同じ考えを持つ若者は日本にもたくさんいるかもしれません。

研究の詳細は、2023年5月12日付で学術誌『BMC Psychology』に掲載されています。

目次

  • 平坦に生きることを望む「フラティズム」とは?
  • 現代の若者にとって「結婚=幸せ」ではなくなっている?

平坦に生きることを望む「フラティズム」とは?

中国で生まれた「フラティズム(Flatism)」は、現地で「躺平(タンピン)主義」と呼ばれています。

躺平(タンピン)とは「寝そべる(Lying flat)」という意味で、この考えを抱く人々を一般に「フラティスト」とか「寝そべり族」と呼びます。

つまり、フラティズムとは一言でいえば「寝そべるようにゆったりと平坦に生きる」という思想です。

しかしフラティズムは単にぐうたらであることを意味しません。

この思想はもともと、過酷な受験戦争を勝ち抜く競争社会や、長時間労働を強いる社会的圧力に嫌気がさした中国の若者たちの抗議運動の意味合いを持っていました。

そして2021年4月にSNSで「フラティズム」が話題になったことで、一気に多くの若者たちの間に広まったといいます。

「フラティズム」には社会的圧力への抗議の意味合いもある
Credit: canva

フラティズムの主なポリシーは「資本家の金儲けマシーンとなって資本家に搾取される奴隷となるのを拒否し、最低限の生活を維持する」ことです。

具体的な行動としては、日常のストレスを減らす・欲張らない・高収入の仕事につかない・自分の時間を大切にする・家や車を買わないなどが挙げられます。

それゆえにフラティズムは、「ひきこもり」や「ニート」とは異なり、社会的に孤立はしておらず、単に職業や経済的な目標を低く設定して、健康で最小限な暮らしを心がける生き方を意味します。

そして中国で始まったフラティズムは今や、日本・韓国を含む東アジアやマレーシアなど東南アジアにも浸透しつつあります。

また、この動きと並行して研究チームは、結婚しない独身者が若年層の間で世界的に増加傾向にあることに以前から関心がありました。

これは現代の若者たちのライフスタイルや人生に対する考え方が変化していることを示唆します。

そこでチームは「フラティズムに肯定的な若者が独身でいることについてどう考えているか」を明らかにしようと考えました。

現代の若者にとって「結婚=幸せ」ではなくなっている?

チームは今回、マレーシアに住んでいる18歳〜24歳の独り身の若者、延べ232人(女性139人、男性93人)を対象に調査を行いました。

この年齢層を選んだのは、フラティズムが主に1990年代半ば〜2012年頃に生まれた「Z世代」を中心に受け入れられているためです。

調査では、フラティズムに肯定的か否定的か、恋愛と結婚に対する価値観やそこから得られる幸福度、独身でいることへの不安など、さまざまな項目でアンケートを実施。

そしてデータ分析の結果、フラティズムに肯定的だった若者ほど「恋愛関係がなくても、充実した幸せな生活を送ることができる」という質問に同意する傾向が強いことが分かったのです。

さらに「独身でいることに幸せを感じる」「恋愛や結婚に従事することは幸福な人生にとって重要ではない」という質問にも強く同意していました。

若者の幸せにとって「恋愛・結婚」はもはや必須じゃない?
Credit: canva

以上の結果から、フラティズムを抱く若者たちは、もはや幸せな人生を築く上で恋愛や結婚は必ずしも必要ではないと考えている可能性が高いことが示されました。

これを受けて研究者らは「現在のフラティズムの人気の高まりにより、今後さらに独身を貫く若者が増える傾向が高まるでしょう」と指摘します。

しかし、これは「若者が自分たちの自由意志で選んでいるだけ」という単純な理由では説明できないかもしれません。

というのもフラティズムの背景には、懸命に働いても賃金が上がらないとか、安定した雇用が得られないといった社会の問題が大いに関係しているからです。

それを踏まえて研究者は「結婚率や出生率の低下に対処するには、社会の側から若い世代をサポートすることが極めて重要である」と論文内で述べました。

一方で、フラティズムに関する研究はまだ始まったばかりです。

フラティズムの増加が社会にもたらす実際的な影響や、あるいはフラティズムの若者とそうでない若者との間の幸福度の違いなど、調べることは多岐に渡ります。

その中で、研究主任のチー・セン・タン(Chee-Seng Tan )氏は「若者たちの選択を尊重しながら、フラティズムに対する認識を深めていきたい」と話しています。

フラティズムという用語は、中国の若者たちの抗議活動から来てますが、この思想自体は現代の若い世代を中心に自然と広がっている一般的な考え方でしょう。

日本社会でも少子化や未婚率の上昇は問題にされていますが、それは単純な社会保障などで解決するものではなく、より根深い現代の人々の価値観や人生観の変化の意味を理解しなければならない問題なのでしょう。

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参考文献

Young adults who embrace “lying flatism” also tend to see romantic relationships as unnecessary for happiness https://www.psypost.org/2023/06/young-adults-who-embrace-lying-flatism-also-tend-to-see-romantic-relationships-as-unnecessary-for-happiness-165852 ‘Lying flat’: Why some Chinese are putting work second https://www.bbc.com/news/business-60353916

元論文

Feelings toward lying flatism and attitudes toward singlehood: the mediating role of happiness belief https://bmcpsychology.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40359-023-01187-2
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