子供の顔が大事なら、お酒はやめましょう。
オランダのエラスムス大学医療センター(EMC)で行われた研究によって、妊娠直前や妊娠中に週に1杯のワイン(12gのアルコール)を飲むだけで、子供の顔の形に特徴的な変化が起きていたことが明らかになりました。
子宮内部でアルコールの影響を受けた子供の顔は、鼻が短くなって、上向きになり、目の下の領域が落ち込んで、顎は上向きになるなど、特徴的な変化を起こします。
研究者たちは、顔は子供の全体的な健康状態を反映する「健康の鏡」としての側面があり、アルコールによる顔の変形は、子供たちの健康と発達に重大な影響が及んでいることを反映していると結論しています。
研究内容の詳細は2023年2月16日に『Human Reproduction』にて公開されています。
目次
- 妊娠中の少量のアルコールでも子供の顔が変化すると判明!
妊娠中の少量のアルコールでも子供の顔が変化すると判明!
これまでの研究により、妊娠中の大量飲酒は赤ちゃんに胎児性アルコールスペクトル障害と呼ばれる広範な障害を引き起こすことが知られています。
この症候群になった赤ちゃんたちは認知障害、学習障害、記憶障害、行動障害、言語発達の遅れ、および注意欠陥多動性障害(ADHD)を引き起こします。
また母親の飲酒の影響は顔の形状にも変化が及び、上の写真のような、薄い上唇、鼻の下(人中)の平坦化、目の開きの狭小化、上向きの鼻など、素人目にも識別できるような「異常な顔」の変化を起こします。
また症状の重さは一般的に母親の飲酒量に依存しており、大量の飲酒を行っていた母親ほどは、症状が重い赤ちゃんがうまれてきます。
しかし既存の研究では、影響が出なくなる飲酒量については詳しくわかっておらず、週1杯のワインやビールといった極少量でも変化が起こるかは不明でした。
妊娠中の飲酒量が極めて多ければ素人目にも判別できるような赤ちゃんの顔の変形が起こりますが、飲酒量が減るにつれて医師でも顔の変化が見分けにくくなっていきます。
特に今回の問題では、顔の変形を数値化して示す必要がありますが、これは人が目視で行うには困難な作業です。
そこで今回エラスムス大学医療センターの研究者たちは、人間ではなくAIの目を利用して、妊娠中の少量の飲酒が赤ちゃんの顔に及ぼす影響を調べることにしました。
AIを用いた顔認識技術は肉眼に比べて些細な変化であっても感知することが可能です。
(※以前に行われた研究では、AIの目でマウスの感情を表情から読み取ることにも成功しています。)
調査にあたってはまず、5600人の学齢期の子供たちの顔の3Dスキャンが行われるとともに、子供たちの母親に対して妊娠の直前や妊娠中にどれだけの飲酒を行っていたかを答えてもらいました。
その後、AIに頼んで母親の飲酒期間や飲酒量と子供たちの顔の形状との間の関連性を調べてもらいました。
するとかなりハッキリしたデータが得られます。
上の図はAIの目によって判明した9歳時の顔の変化を可視化したものであり、赤色の部分が通常よりへこんでいる部分、青色の部分が通常より飛び出している部分を示しています。
(※ここで言う通常とは妊娠直前や妊娠中に一切アルコールをとらなかった場合です)
左は妊娠直前の3カ月だけ飲んでいた場合(妊娠と同時に断酒)、中央は妊娠初期に飲んでいた場合、右側は妊娠初期の他に中期や後期も飲んでいた場合の変化を示しています。
データから読み取れる最も顕著な顔の変化は、鼻が短く、わずかに上向きになり、目の下側が落ち込んで、顎が上向きになる、というものでした。
(※より平易な言い方をすると、豚鼻で目の下が落ち込んだしゃくれ顎にみえました)
またアルコールの影響は摂取時期だけでなく摂取量にも影響しており、上の図では、より多くのアルコールを飲んでいた母親からは、より大きく変形した顔を持つ子供がうまれてきたことを示しています。
ですがより驚きだったのは、週にわずか12g未満のアルコール摂取であっても、9歳時の子供の顔に有意な変化を及ぼしていることでした。
12gのアルコールは小さなワイングラスに注がれた1杯のワインや中程度のコップ1杯に注がれたビールに相当します。
これまでの研究で、そのような少量のアルコールが9歳時に至るまで長期の影響を与えるとの報告はありませんでした。
(※アルコールによる子供の顔の変形は時間経過とともに解消され、13歳ごろになるとAIの目をもってしても有意差がみられなくなりました。しかし結果は統計的なものであり、子供によっては母親のアルコール摂取の影響がその後も顔に残り続ける可能性があります)
一方AIの目によるいくつかの興味深い洞察をもたらしてくれました。
研究者たちがデータ分析を行ったところ、妊娠初期に飲酒をやめた場合とその後も飲酒を続けた場合では、子供の顔の変形度合いがほとんど変わらないことが判明しました。
また妊娠直前まで飲酒していた場合(妊娠と同時に断酒した場合)にもやや弱い影響が起きていることが判明します。
この結果は、アルコールによる子供の顔の変形は、妊娠初期(最初の3カ月)に発生することを示しています。
以前の研究ではアルコールの摂取により母親の血糖値や肝臓の数値の変動などさまざまな代謝障害が発生することが報告されています。
そのため研究者たちは子供の顔の変化は、母体の総合的な健康度の悪化が反映された可能性があると結論しています。
(※妊娠直前まで飲酒していた場合、健康はすぐには回復しないため影響は妊娠初期にも引き継がれ、結果として子供の顔の変形を引き起こしたと考えられます)
もしあなたが妊娠を望むのならば、少なくとも妊娠前の数か月と妊娠期間中は断酒すべきでしょう。
胎児の発達に絶対影響がない「安全なアルコール量」など存在しないからです。
参考文献
Mothers’ alcohol consumption before and during pregnancy is linked to changes in children’s face shapes https://www.eshre.eu/Press-Room/Press-releases-2023/alcohol-and-face-shape元論文
Association between prenatal alcohol exposure and children’s facial shape: a prospective population-based cohort study https://academic.oup.com/humrep/advance-article/doi/10.1093/humrep/dead006/7035056?searchresult=1&login=false