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凍死と熱死のギリギリの境界で生きるチベット高原の「温泉ヘビ」とは?


チベット高原に生息する「温泉ヘビ」(Thermophis baileyi)は、過酷な環境に適応するための進化を遂げました。標高4500メートルでは寒さと低酸素が厳しいため、温泉ヘビは地熱を利用することで凍死を避けています。さらに、DNA解析により、低酸素に適応するための遺伝子の変異が確認され、強い紫外線に対する対応や、温度感知を向上させる「TRPA1」遺伝子の変異も発見されました。これらの変化により、温泉ヘビは高地の厳しい条件を生き抜くことができます。しかし、チベット高原での人為的な活動は生息地の減少を引き起こしており、温泉ヘビの個体数は減少しています。この問題に対し、中国科学アカデミーは人の進入を制限し、人工的な生息地の復元を進める計画を立てています。

ヒマラヤ山脈の北に広がるチベット高原は、動物が生きていくには過酷すぎる場所です。


標高4500メートルにもなると寒い上に空気が薄く、ちょっと歩くだけで息切れしてしまいます。


また寒さだけでなく、より太陽に近づくため日差しは肌を焼くほど強いのです。


しかし、こんな地獄のような環境にも見事に適応したヘビがいます。


チベット高原に生息する「オンセンヘビ(学名:Thermophis baileyi)」です。


本種は英名でも”温泉ヘビ(hot-spring snake)”と呼ばれるように、寒い高地でも地熱で温まった温泉をうろつくことで、凍死を免れています。


さらに地熱で火傷したり温泉で沸騰しないよう、温度感知や熱耐性を高める遺伝子も発達させているのです。




目次



  • 温泉ヘビは「凍死」と「熱死」のギリギリラインで生きている
  • ギリギリを生き抜くための適応進化が凄かった!

温泉ヘビは「凍死」と「熱死」のギリギリラインで生きている


温泉ヘビを研究している中国科学アカデミー(CAS)の爬虫類学チームによると、本種は何百万年も前からチベット高原で繁栄してきたといいます。


チベット高原には100種以上のヘビがいますが、標高4500メートル級の高地に生息するのは温泉ヘビのみです。


ヘビにとって外気温は生きていく上で重要な意味を持ちます。


というのも、変温動物であるヘビは自らの体温維持を外気温に依存しなければならないからです。


そのため、ヘビには生存できる適温が決まっており、哺乳類や鳥類のように地域の気温に適応して生きていくことができません。


適温より暑すぎれば火傷したり熱中症になりますし、寒すぎれば凍傷を負ったり固まって動けなくなります。


特にチベット高原の標高4500メートル付近では、最低気温がマイナス20℃に達することもあるため、普通のヘビでは生きていけません。


しかし温泉ヘビは40℃に及ぶ地熱で温まったプールに入ったり、その縁に潜んで冬眠することで凍死を免れているのです。


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温泉ヘビ/ Credit: Markham X –Tibetan snake in Hot Springs Is Hunting Fish(youtube, 2019)

それでも40℃は変温動物のヘビにとって十分に高すぎる温度であり、逆に熱死のリスクもあります。


この「凍死」と「熱死」のギリギリラインを温泉ヘビはどのように生き抜いているのでしょうか?


ギリギリを生き抜くための適応進化が凄かった!


それを確かめるため、CASの研究チームは温泉ヘビの生態調査やDNA解析を続けてきました。


2015〜2018年にかけて、チベット高原で温泉ヘビを捕獲し、血液や組織サンプル、DNAを採取して分析。


温泉ヘビは基本、太陽が出ている午前11時〜午後3時までの間しか活動しないため、何日もヘビが見つからないこともあったといいます。


それでもDNA解析の結果、温泉ヘビは呼吸を促進する遺伝子、赤血球(酸素を運ぶ役割がある)の効率を上げる遺伝子、心臓の鼓動を強くする遺伝子を変異させていることが判明したのです。


同じような遺伝子変異は、ヤクやナキウサギ、ヒメサバクガラスなど、高地に適応する他の動物にも見られるという。


これにより温泉ヘビは、高地の低酸素環境にうまく対処し、ギリギリのラインを生き抜くことができていたのです。


さらに紫外線によってダメージを受けたDNAの修復を助けるタンパク質の遺伝子が変異していることも確認され、強い日差しにも適応していることがわかりました。


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チベット高原の温泉/ Credit: Markham X –Tibetan snake in Hot Springs Is Hunting Fish(youtube, 2019)

低酸素と日差しに加え、もう一つ重要なのは「快適ではあるが熱すぎない地熱・温泉スポットを見つけること」です。


そこでヘビの温度感知(狩りの際に使う)に関わる遺伝子を調べたところ、「TRPA1」という遺伝子に変異があることが確認されました。


その変異の効果を調べるため、冷たい岩と暖かい岩のどちらかを選ばせる実験を行い、優れた温度感知を持つが高地には生息しないガラガラヘビおよびニシキヘビと結果を比較。


すると温泉ヘビは、これら2種に比べて、俊敏かつ頻繁に暖かい岩を選択できることが判明したのです。


よって彼らは、高度に発達した熱感知器官をもとに、適度に暖かい場所を探すことができると考えられます。


それから温泉ヘビは熱ダメージ修復タンパク質も発達させており、他種のヘビに比べて、熱すぎる環境への耐性や回復力も高くなっていました。


研究チームは以上の結果を踏まえ、「温泉ヘビは凍死と熱死の間の、実に絶妙なラインを生き抜くことができる」と述べています。


しかし残念ながら、温泉ヘビの個体数は現在、チベット高原での人為的な活動により減少傾向にあるという。


ある場所では、温泉ヘビが冬を過ごすための巣穴が建設工事によって破壊され、またある場所では、産まれたばかりのヘビが育つ湿地帯が土地開発によって荒らされています。


そこでCASのチームは2023年5月からチベット高原に人が立ち入れないような場所を設けて、人工的な温泉ヘビの巣や湿地帯の復元を進める計画を立てているとのことです。


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参考文献

Secrets of Tibet’s hot-spring snakes revealed
https://www.science.org/content/article/secrets-tibet-s-hot-spring-snakes-revealed

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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