私たちが日常的に食べる卵といえば、ニワトリかウズラのものが大半です。
これらの卵を茹でると、半透明の卵白が凝固して白くなり、おなじみの”ゆで卵”になります。
しかし、同じ鳥類であるペンギンの卵を茹でると、鶏卵とはまったく違う仕上がりになるのをご存知でしょうか?
ペンギンの卵では、卵白が凝固しても半透明なままで、中の黄身が透けて見えるシースルーの不思議なゆで卵になるのです。
同じ鳥の卵なのになぜそんな違いが出るのでしょう?そして味はどうなのでしょうか?
目次
- ペンギンの卵って食べられるの?
- ペンギンのゆで卵が半透明なのはなぜか?
ペンギンの卵って食べられるの?
「現在、世界には18種のペンギンが確認されており、いくつかの種の卵は歴史的に何度も食用に供されてきました」
そう語るのは、英ケンブリッジ大学スコット極地研究所(University of Cambridge, SPRI)のロバート・ヘッドランド(Robert Headland)氏です。
ヘッドランド氏は1977年から南極でのフィールドワークを続けており、極地の生態系によく通じています。
近年、世界の一部地域ではペンギンやその卵の狩猟採集が違法となっていますが、過去の南極探検の際には、ペンギンの肉が壊血病の予防になったり、卵が貴重な栄養源の役割を果たしていたとヘッドランド氏は言います。
(※ 壊血病:ビタミンCの欠乏状態が数週間〜数カ月つづくと発症する病気で、体内の各器官で出血性の障害が生じる)
中でも南極周辺に分布する「ジェンツーペンギン(学名:Pygoscelis papua)」の卵は、南極の古いレシピ本によく登場する品種だそうです。
その理由はおそらく、1シーズンに1個の卵しか産まないコウテイペンギンとは違い、産卵期が長く、その間に複数個の卵を産むからだと氏は説明します。
ペンギンの卵は、一般的な鶏卵と比べてサイズが大きいですが、それ以外の特徴はさほど変わりません。
ところが熱湯で茹でてみると、まったく違うことが起こるのです。
ペンギンのゆで卵が半透明なのはなぜか?
ヘッドランド氏によると、ペンギンの卵は約10分ほど茹でることで、中までしっかり火が通るという。
また卵の殻は鶏卵より厚くて丈夫なため、割るときには少し注意が必要だといいます。
しかし殻を剥いたペンギンのゆで卵は、卵白がやや緑がかった半透明をしており、まるでゼラチンを固めたようになっているのです。
卵白は半透明のまま白化しないので、中心部にあるオレンジ色の鮮やかな卵黄が透けて見えます。
なぜペンギンのゆで卵が半透明になるのかというと、それは卵白に含まれるタンパク質に関係があります。
鶏卵の卵白は主に「オボアルブミン(OVA)」というタンパク質から成り、全タンパク質の60〜65%を占めています。
これが加熱により凝固すると卵白が白くなるのです。
一方で、ペンギンの卵白にはオボアルブミンの他に「ペナルブミン(penalbumin)」というタンパク質が多分に含まれています。
ペナルブミンは「不凍タンパク質(Antifreeze protein:AFP)」の一種であり、南極のような極寒の地に暮らす魚やペンギンに見られ、氷点下の環境で生体が凍らないようにする働きがあります。
ヘッドランド氏いわく、このペナルブミンの割合が多いために、ペンギンの卵白は凝固しても、そのまま半透明を保つというのです。
これまでの研究で、ペンギンの卵白にはオボアルブミンが約30%、ペナルブミンが約25%含まれているのに対し、ニワトリの卵白にはペナルブミンが0.01%以下であることが分かっています。
こうした理由でペンギンの卵は、かき混ぜてスクランブルエッグにしたり、オムレツにしたりすると、鶏卵を使ったときと同じ見た目になるそうですが、ただ茹でるだけだと、シースルーのゆで卵に仕上がるのです。
ちなみに、ペンギンのゆで卵はお腹がとても空いていれば食べられなくもないですが、味はそんなに褒められたものではないそうです。
ヘッドランド氏によると「ペンギンはオキアミを主食としているため、味はかなり生臭く感じられる」という。
酢に漬けると臭みが減り食べやすくなるようですが、ニワトリの卵に取って代わるようなものではないでしょう。
参考文献
Boiled Penguin Eggs Have See-Through “Whites”, Just In Case You Were Wondering
https://www.iflscience.com/boiled-penguin-eggs-have-see-through-whites-just-in-case-you-were-wondering-66521
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。