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空にレーザーを発射して自然発生した稲妻の進路を変える技術


従来の避雷針が持つ有効範囲や効果性の限界を超える方法として、「レーザーによる稲妻の誘導」が研究されています。2022年、スイスのジュネーヴ大学の研究チームが成功したレーザー技術は、自然稲妻の進路を変更するものです。パルスレーザーにより大気中に「稲妻の道」と呼ばれるプラズマを作り出し、電流が流れやすい状態を活用して雷を誘導します。実験はスイスのゼンティス山で行われ、自然環境下での効果が確認されました。今後、空港やロケット発射施設などで応用が期待されますが、技術の精度向上にはさらなる研究が必要です。

落雷の対策といえば避雷針が一般的ですが、これには有効範囲や効果性の点で限界がありました。

そこで近年は、より効果的な「レーザーによる稲妻の誘導」という技術が検討されています。

2022年には、スイス・ジュネーヴ大学(University of Geneva)応用物理学部に所属するジャン・ピエール・ウルフ氏ら研究チームが、空にパルスレーザーを発射することで、自然発生した稲妻の進路を変えることに成功しています。

しかし、なぜレーザーによって稲妻は避雷針へと誘導されるのでしょうか?

この研究の詳細は、2023年1月13日に科学雑誌『Nature Photonics』に掲載されました。

目次

  • レーザーで落雷を制御する方法
  • 自然発生した稲妻のレーザー誘雷に成功!今後の進展に期待!

レーザーで落雷を制御する方法

落雷による機械設備の破壊、大規模な火災を防ぐためには、雷が安全な場所に落ちるよう誘導しなければいけません。

避雷針がその役割をいくらか担いますが、有効範囲や効果性には限界があります。

近くに避雷針があったとしても、必ずしも避雷針の方に雷が落ちるとは限らないのです。

落雷の被害を最小限に抑えるには?
落雷の被害を最小限に抑えるには? / Credit:Canva

そこで科学者たちは、より効果的な「レーザー誘雷」を研究してきました。

これは高強度のレーザーによってプラズマを作り、そのプラズマを「稲妻の道」にする方法です。

大気中の分子にレーザーでエネルギーを加えることで、それらの分子を破壊。

分子が原子になり、さらに原子核のまわりの電子が離れることで、イオン化するのです。

このイオン化した状態が、「固体・液体・気体」に続く、第4の物質の状態「プラズマ」であり、「電流が極めて流れやすい」という性質をもっています。

そのため、このプラズマの性質を利用するなら、大気中に「稲妻の道」をつくり、発生した稲妻を誘導できるというわけです。

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これまでの実験では人工稲妻によるレーザー誘雷は成功していましたが、自然に発生した稲妻を誘導できた例はありませんでした。

しかし今回、ウルフ氏ら研究チームは、パルスレーザー(短い間隔で点滅を繰り返すレーザー)を利用して、自然の稲妻を誘導することに成功しました。

自然発生した稲妻のレーザー誘雷に成功!今後の進展に期待!

スイスのゼンティス山で実験が行われる
スイスのゼンティス山で実験が行われる / Credit:Jean-Pierre Wolf(University of Geneva)et al., arXiv.org(2022)

実験が行われたのは、スイス北東部のゼンティス山です。

ここには124mのタワーがあり、金属製の避雷針が備わっています。

そして隣から高出力のパルスレーザーを空に向かって発射することで、「稲妻の道」を作り、自然発生した稲妻をタワー(避雷針)まで誘導しようとしたのです。

設置された避雷針とパルスレーザー装置
設置された避雷針とパルスレーザー装置 / Credit:Jean-Pierre Wolf(University of Geneva)et al., arXiv.org(2022)

実験は2021年7月21日~9月30日の約3カ月間続けられ、その間、タワーから3km圏内で発生した雷雨に応じて、合計6.3時間レーザー装置を作動させました。

その結果、観測された16回の稲妻のうち4つが避雷針まで誘導されました。

パルスレーザーによってつくられた「稲妻の道」に引き付けられて、避雷針まで導かれたのです。

単純に避雷針だけの効果ではなく、レーザーの効果によって避雷針まで導けていることも、専用の観測機器によって明らかになっています。

自然発生した稲妻が避雷針に誘導される
自然発生した稲妻が避雷針に誘導される / Credit:Jean-Pierre Wolf(University of Geneva)et al., arXiv.org(2022)

つまり、自然環境でも雷のレーザー誘雷が効果的であると実証できたのです。

研究チームは、この結果が「レーザー避雷針の開発につながる」と述べています。

従来の避雷針にレーザー機能を追加し、雷雨が生じている期間だけ動作させることで、より効果的・効率的な避雷針となるわけです。

重要で精密な機器が集まっている空港やロケット発射施設、また大規模インフラにおいて重要な役割を果たすでしょう。

とはいえ現段階では、このレーザー誘雷が、稲妻をどの程度誘導できるのか正確には分かっていません。

これら未解明な部分も含め、今後より多くの実験が必要となるでしょう。

※この記事は2022年07月に掲載したものを再掲載しています。

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元論文

Laser-guided lightning
https://www.nature.com/articles/s41566-022-01139-z

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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