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脳細胞に咲く「毒の花」がアルツハイマー病の真の原因だった!


ニューヨーク大学の研究によると、アルツハイマー病は「アミロイドベータの蓄積」が原因ではなく、その蓄積は「毒の花」と呼ばれる異常な構造が起こした結果かもしれないと示されています。実験では、マウスの脳細胞が麻痺状態になり「毒の花」が形成されている段階で既に異常が始まっていることが判明しました。この異常な構造は、老廃物を溜め込んだオートファゴソームにリソソームが無意味な融合を繰り返し形成された巨大な液胞です。酸性度が低下したリソソームにより、細胞のゴミ処理システムが機能しなくなり、その結果としてアミロイドベータが蓄積するというメカニズムが示唆されました。この新発見は、今後の治療法開発においてリソソームの酸性度回復に焦点を当てるべきことを示しています。

私たちはとんでもない勘違いをしていたのかもしれません。

米ニューヨーク大学(NYU)で2022年に行われたマウス実験によって、長年アルツハイマー病の原因と考えられてきた「アミロイドベータの蓄積」は、真の原因が起こした副次的な結果にすぎない可能性が示されました

研究では、アミロイドベータが蓄積するより「かなり前」の段階で、すでにマウスの脳細胞が麻痺状態にあり、「毒の花」と呼ばれる異常な構造が発生している様子が示されています。

アミロイドベータを排除するように設計された薬がどれも効果を発揮できていないのも、真の原因となる「毒の花」を見過ごしていたいたからだと考えられます。

認知能力を蝕む、美しくも恐ろしい「毒の花」の正体とはいったい何なのでしょうか?

研究の詳細は2022年6月2日付で科学雑誌『Nature Neuroscience』に掲載されています。

目次

  • アミロイドベータの蓄積がはじまる前に何かが起きていた
  • 脳細胞に咲く「毒の花」はアミロイドベータを蓄積させる
  • アミロイドベータの蓄積は真の原因ではなく結果に過ぎない

アミロイドベータの蓄積がはじまる前に何かが起きていた

よく見るアルツハイマーを特集したテレビ番組や解説動画などでは、毒性のある「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質の蓄積が原因で脳細胞が死に、アルツハイマー病を引き起こしていると述べられています。

このアミロイドベータが原因とする説は「アミロイドカスケード仮説」と呼ばれており、ここ30年にわたりアルツハイマー病の原因と考えられていました。

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脳内に咲く「毒の花」の正体とは?/ Credit: NYU –Evidence Mounts for Alternate Origins of Alzheimer’s Disease Plaques(2022)

しかし奇妙なことに、アミロイドベータの蓄積を妨害したり分解したりするように設計された薬を投与しても、アルツハイマー病の進行を止めることはできませんでした。

原因を叩いているのに結果が変わらないのならば、考えられる理由は「技術的な問題」か「仮説そのものが間違っている」かのどちらかです。

そこで今回、ニューヨーク大学の研究者たちは、遺伝操作でアルツハイマーになるように運命づけられたマウスの脳細胞を詳細に観察し、アミロイドベータ蓄積の前に何か他の異変が起きていないかを確かめることにしました。

結果、マウスの脳細胞に、まるで花のような形をした異常な構造が出現していることを発見します。

脳細胞に咲く「毒の花」はアミロイドベータを蓄積させる

花の正体はいったい何なのか?

謎を解明するため研究者たちは早速、マウスの脳細胞に咲く花の調査にとりかかりました。

すると花は老廃物を大量に溜め込んだ細胞の「ゴミ回収車(オートファゴソーム)」であることが判明します。

通常、ゴミ回収車(オートファゴソーム)が老廃物をある程度まで溜め込むと、内部に酸性液を含む分解屋(リソソーム)と結合して、内部の老廃物の分解処理が行われます。

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Credit:オートファジー—細胞はなぜ自分を食べるのか

しかしアルツハイマー病のマウスたちの場合、分解屋(リソソーム)内部の酸性度が低下しており、何個結合してもゴミ収集車(オートファゴソーム)内部の老廃物の分解ができなくなっていました。

花のようにみえる構造は、ゴミ回収車(オートファゴソーム)に分解屋(リソソーム)が無意味な融合を繰り返して肥大した、巨大な液胞だったのです。

そのため研究者たちは、アルツハイマー病になったマウスたちの脳では、脳細胞のゴミ処理システムが機能しなくなっていると考えました。

細胞のゴミ処理システムが麻痺した場合、細胞は機能不全に陥り、死に至ります。

研究では損傷が酷く死にかけている脳細胞では、巨大な花が核の周りに形成されている様子が示されています。

また肥大化した液胞の内部を調べると、毒性のあるアミロイドベータが徐々に蓄積されていることが判明しました。

つまり花はアミロイドベータの供給源にもなっていたのです。

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Credit: Ju-Hyun Lee et al., Nature Neuroscience(2022)

研究者たちは、この奇妙な構造を「PANTHOS」と名付けています。

これはギリシア語で「花」を意味する「アントス(Anthos)」から作った造語で、「毒のある花」を意味しているようです。

(アントスは特に黄色いセキレイを指すと言われる。「PANTHOS」の読みはパントスになると思われるが、公式な日本語読みはまだ示されていない)

まとめると、アルツハイマー病では

・脳細胞内部の分解屋(リソソーム)の酸性度の喪失が先行して起こる

・酸性度の喪失が「毒の花」を形成させる

・最後に「毒の花」がアミロイドベータを蓄積させる

という経過を経ていた可能性が示されたのです。

アミロイドベータの蓄積は真の原因ではなく結果に過ぎない

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Credit: canva,ナゾロジー編集部

今回の研究により、アルツハイマーを発症したマウスの脳細胞ではアミロイドベータの蓄積に先立ち、細胞のゴミ処理能力が失われていることが示されました。

追加の調査では、分解屋(リソソーム)が酸性度を失ってから最初のアミロイドベータが細胞外に沈着するまでの期間を調べたところ、なんと4カ月ものタイムラグがあることも判明します。

これらの結果は、アミロイドベータの蓄積よりも「かなり前」にアルツハイマー病による変化が始まっており、アミロイドベータの蓄積は真の原因ではなく、結果に過ぎない可能性を示します。

さらに研究者たちがアルツハイマー病で亡くなった人間の脳を調べてみたところ、マウスと同様の「毒の花」が存在していることが判明しました。

そのため研究者たちは、今後のアルツハイマー病の治療薬を開発する場合には、既存の薬のようにアミロイドベータの蓄積を防ぐのではなく、分解屋(リソソーム)の酸性度を回復させることに焦点を当てるべきであると結論しています。

※この記事は2022年6月公開のものを再編集しています。

全ての画像を見る

参考文献

Evidence Mounts for Alternate Origins of Alzheimer’s Disease Plaques
https://nyulangone.org/news/evidence-mounts-alternate-origins-alzheimers-disease-plaques

元論文

Faulty autolysosome acidification in Alzheimer’s disease mouse models induces autophagic build-up of Aβ in neurons, yielding senile plaques
https://doi.org/10.1038/s41593-022-01084-8

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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