犬は人間と共生を始めた最も古い動物の一種です。共感能力に長けていたので、いつの時代も人間と共に過ごし、協働し、愛されていたといえます。また現代においては、セラピードッグや盲導犬など人間をサポートする存在としても活躍しています。
近年、信頼性の高い方法で行われる犬の行動研究により、人間に共感する能力を犬が持ち合わせているのかが実験結果により実証されてきました。犬の共感能力について知ると、愛犬との関係性をより深いものにすることができます。
共感能力とは?
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国語辞典で共感力について調べると「同じ気持ちを持ったりすること、相手の考えや主張がわかること」と説明されています。つまり相手が泣いたり、怒ったり、喜んでいる時に自分の気持ちを重ねられる能力のことです。
人間同士でもこの能力を持っていると人間関係がうまくいきますが、同じ能力を犬も持っているのです。共感能力には2種類あり「感情的共感」と「認知的共感」があります。
感情的共感と認知的共感とは?
感情的共感とは「他者に悲しいことがあって泣いていると自分も同じように涙を流したり、逆に嬉しいことが起こると一緒に喜んだりする、まさに感情移入している状態のこと」です。
他方、認知的共感とは「他者の感情に同調しませんが、相手の立場になって状況を推測して分析すること」です。
この2つのうち、犬は特に感情的共感能力を持ち合わせているようです。とはいえ、犬によってどちらの共感力をより持っているかは異なります。
例えば、飼い主が楽しそうだと犬も元気にしていたり、飼い主が落ち込んでいる時には犬も悲しい表情をするなら感情的共感能力を強く持っているといえます。多くの犬はこの能力が高いといわれています。
反対に、飼い主に元気がないと犬が散歩に誘ったり、飼い主がイライラしている時におもちゃを持ってくるなどの行動をするなら、認知的共感能力が高く相手の立場になって考えられる犬といえます。
どうやって人間の感情を読み取っている?
共感する能力を持っている犬は、人間の顔の表情から感情を読み取っています。オーストラリアで行われたある研究では「犬は人間の喜んでいる表情や怒っている表情の区別ができており、喜んでいる顔は肯定的で、怒っている顔は否定的な意味を持つということを理解している」という結果が出ています。
また、犬は人間の声からもヒントを得ていて、声が低ければ怒っていて高ければ機嫌が良いことも理解していると考えられています。このように、犬は人間の顔の表情や声のトーンで感情を読み取り、一緒に悲しんだり喜んだりしています。
飼い主の短時間での情動変化も察知できる
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情動とは「怖い、ストレス、嬉しいといった一時的で急激な感情の変化」のことです。
この点に関して麻布大学や熊本大学などによって行われた興味深い研究例があります。研究では「短時間に起きる情動の変化が起きた時に、犬はその感情に気が付いているのか」という点が研究されました。
「人間の顔の表情などで犬に感情が伝わる」ということは国内外の研究チームで既に分かっていましたが「ストレスや恐れのような情動の短時間での変化が犬に伝わっているのか」ということについてはそれまで分かっていなかったのです。
そのため研究チームが行った実験では、心拍変動解析を使って秒単位で情動変化を評価しました。すると「15秒ごとに飼い主の情動の変化が起きたことを犬は察知し共感できた」という結果が出ました。
つまり、犬は短時間の飼い主さんの情動変化も察知できるということです。
イヌはヒトに共感する能力を有している/熊本大学飼い主以外の相手にも共感する能力がある
犬は飼い主だけに共感するわけではありません。実は飼い主以外にもこの能力を発揮します。
最近、ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの研究者による興味深い実験が行われました。この実験ではまず、多種類の犬18匹が飼い主のいる部屋と面識のない人がいる部屋とに分けて入れられました。参加者の人間には「いきなり泣いたり悲しんだりするように」という指示が出されていて、その行動に対して犬がどんな反応をするのかが観察されました。
実験の結果、18匹中15匹は遊んでいて夢中になっている状況でも、それをすぐに止めて泣き悲しんでいる人に寄り添い触れるという反応を示しました。飼い主のみならず見ず知らずの人にも同様に優しく寄り添ったのです。
このように犬は飼い主だけでなく辛い気持ちを感じている人であれば分け隔てなく慰め寄り添う、とても優しい習性があるということが判明しました。
Empathic-like responding by domestic dogs (Canis familiaris) to distress in humans: an exploratory s