はじめに
黒猫が横切ると縁起が悪いと信じている人が世界各地にいます。迷信によって縁起が悪いと決めつけられるなんて黒猫にとっては迷惑な話ですよね。迷惑な話だけならいいのですが、中には迷信のせいで虐待されたり殺されてしまったりした黒猫たちもいるようです。
しかし、黒猫にまつわる迷信は縁起が悪いものだけではありません。幸運や商売繁盛など縁起のいいものとして重宝されていたこともあります。
迷信と言う人間の思い込みに大きく運命を左右されてきた黒猫たちですが、日本をはじめとして世界にはどのような迷信があるのか、どのように扱われてきたのかを調べてみましょう。
日本の黒猫と迷信
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黒猫と迷信についてさらに詳しく調べてみましょう。日本では黒猫はどのように扱われてきたのでしょうか?またどのような迷信があるのでしょうか?
黒猫について
そもそも黒猫とはどの猫のことを言うのでしょうか?黒猫と言う猫種があるわけではなく、どの種類の猫でも被毛の色が黒いものを一般的に黒猫と呼びます。中には白い斑点の入っている個体もいますが、特に問題とはされないようです。
黒猫は一般的にグリーンまたはヘイゼルの目の色をしていることが多いですが、たまにゴールドの個体もいます。艶のある黒光りした猫は非常にエレガントで高貴なイメージを与えますね。猫好きの中には黒猫を好んで飼っている人も多くいますよ。
日本で黒猫はどのように扱われてきたのか
人気があるとはいえ、いまだに黒猫を見ると縁起が悪いと感じる人も少なくありません。クロネコヤマトの宅急便が通っただけで縁起が悪いなどと言う人もいるそうです。ここまでくると黒猫は完全に嫌われ者になってしまいますね。わたしたちの身近にも黒猫を縁起が悪いと感じている人がいるのではないでしょうか。
しかし、もともと江戸時代では黒猫は縁起がいい幸運の動物として扱われていました。
昔は真っ黒な猫は「カラス猫」と呼ばれ、縁起物とされていたカラスと同じように扱われていました。また幕末には、黒猫を飼うと結核が治るとも言われていたことがあります。天才剣士として有名な新選組の沖田総司が結核にかかったときに黒猫を飼っていたという話は有名ですね。
このように、科学的な根拠はまったくありませんが、黒猫が縁起物として重宝されていたことが分ります。
さらに、幸福や商売繁盛の象徴として昔から親しまれている招き猫にも黒猫バージョンがあります。京都の檀王法林寺(だんのうほうりんじ)は400年の歴史を持つお寺ですが、そこには日本最古の招き猫がいます。
何とその日本最古の招き猫は黒猫なんですよ。夜でも目が見える黒猫は、主夜神と結び付けられたようで、人を災いから遠ざける象徴とされました。
このお寺の黒い招き猫は右手を上げており、人だけでなくお金を呼ぶとも言われています。檀王法林寺の招き猫は不思議な神通力があるので模作することは禁じられていたようです。
日本に外国の文化が入るようになると、黒猫は縁起が悪い動物として扱われるようになりました。黒という色自体にも、「暗い」「夜」「死」「不吉」などと言うネガティブなイメージがあるので、黒猫は縁起が悪いという考えが浸透するのを加速させたのかもしれませんね。
多くの人に親しまれている黒猫のキャラクター
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外国文化が日本に入ってくると、黒猫は縁起が悪いという迷信がいつの間にか浸透するようになりました。黒猫が横切るのを見ると不吉だと感じる人が増えてしまったようです。
それでも全員が黒猫に対してネガティブなイメージを持っているわけではありません。会社などのキャラクターとして親しまれている黒猫もたくさんいます。
「クロネコヤマト」
「クロネコヤマトの宅急便」として知られているヤマト運輸ですが、黒猫親子のおなじみのロゴマークは1957年に誕生しました。
海外の運送会社アライド・ヴァン・ラインズ社のマークがモデルとなり、同社から許可をもらってデザインを考えたそうです。当時の広報担当の子どもが落書きした黒い猫の絵がヒントとなり、現在のデザインが完成したようです。
親猫が子猫を大切に運ぶ姿がロゴマークで表されていますが、宅配の際に荷物を大切に客に運ぶというヤマト運輸の気持ちがこもっていますね。
黒猫と言えばヤマト運輸を思い浮かべる人が多いほど私たちの身近なものになりました。ちなみにアライド・ヴァン・ラインズ社の親子猫は白猫だったそうです。
黒猫は縁起が悪いという考え方があまりにも一般的になっていれば、企業のロゴマークとして採用するなんて考えることはできませんよね。やはり昔からある縁起がいい黒猫のイメージを持っている人もたくさんいることが分ります。
クロネコヤマトのトラックが横切ったら縁起が悪いという都市伝説があるようですが、むしろラッキーだと考えたほうがいいのかもしれませんね。
「吾輩は猫である」
夏目漱石のデビュー作である長編小説「吾輩は猫である」のモデルになったのは、黒い野良猫だったこともよく知られています。家に迷い込んだ野良猫を世話するようになりましたが、猫が好きではなかった妻の鏡子は、最初はあまりよく思っていなかったようです。
それでも「全身が真っ黒の猫がいる家には福が舞い込む、これは福猫だ」と言われたことから、ご飯にかつお節を山盛り乗せて食べさせてもらったりなど、これまでとは別の扱いを受けるようになりました。
夏目家のラッキーアイテムとなったこの黒猫、小説のように名前は付けてもらえなかったそうですが、死んだときは親しい仲間に死亡通知を出すほど大切にされたようです。
「魔女の宅急便」
アニメ映画「魔女の宅急便」に出てくる主人公キキの相棒のジジは黒猫です。魔女がテーマなので黒猫になったのかもしれませんが、とてもかわいいキャラクターとして親しまれています。ジジのぬいぐるみを持っている人もいるのではないでしょうか?また、飼っている黒猫にジジと名付ける人も多いはずです。
福岡県警行橋署に居ついたメス猫のジジも黒猫でした。とても人懐っこいジジは署内でアイドルのように扱われていたそうです。縁起の悪い迷信を信じる人がたくさんいたら追い払われていたかもしれませんね。
同署の建物が古かったため、新庁舎への引っ越しをきっかけに一人の署員の家に引き取られることになったようです。
世界の黒猫にまつわる迷信
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黒猫にまつわる迷信は日本だけではありません。世界各地にも黒猫に関するいい迷信、悪い迷信があります。どのようなものがあるのか具体的に見てみましょう。
不吉または縁起が悪いとされる迷信
世界各地でも黒猫を縁起の悪いものとする迷信があります。例えばアイルランドでは「月明かりの下、黒猫が横切ったら伝染病にかかって死ぬ」と言われています。イタリアには「黒猫が病人のベッドに横になったらその人は確実に死ぬ」とされています。ドイツでは「クリスマスに黒猫の夢を見たら翌年に重病にかかる」と言う迷信もあります。
ヨーロッパにおける魔女と黒猫
中世ヨーロッパでは魔女狩りがさかんに行われていました。魔女のパートナーまたは化身と考えられた黒猫も処刑されるなど虐待の対象となりました。ヨーロッパでは白が善、黒が悪と言うイメージがついてしまったようです。
ベルギーにあるイーペルという町では黒猫を時計台から投げ落として殺すという行事が行われていました。この「猫の水曜日」と呼ばれる行事は19世紀初頭まで続けられていたそうです。イタリアでは黒猫が不吉だからと言う理由でたくさん虐殺されたということもありました。
悪魔と結び付けられた黒猫が縁起の悪い動物として扱われていたわけですが、この考え方が日本にも影響を与えたことは確かです。幸運や商売繁盛、結核すら治すと言われていた黒猫のイメージが完全に崩れ去ることとなってしまったのです。
幸運や縁起が良いとされる迷信
黒猫は縁起が悪いという迷信がある一方で、幸運の象徴として扱う迷信も存在しています。イングランドには「黒猫が住み着いたら幸運がやってくる」とか「黒猫が道を渡ったり家の中に入ってきたりしたら縁起が良い」という迷信があります。新郎新婦に幸せが訪れるようにという願いを込めて黒猫を結婚祝いとして贈ることもあるそうです。
フランスでは黒猫が魔法の猫なのでエサをきちんと与えて大切に接すると飼い主に幸運をもたらすという迷信があります。スコットランドには「玄関先に見知らぬ黒猫がいたら繁栄がもたらされる」という迷信もあるそうです。
猫が魔女と一緒に虐待されてきた同じヨーロッパでも、幸運をもたらすとして大切に扱われることがあるんですね。産まれた場所や時期によって大切に扱われることがあれば、虐待されて殺されることもある、黒猫にとってはまさに迷惑な話です。