何故、犬が死んだ時に飼い主のペットロスが増えているのか?
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人が死んだ時、身近な人は涙をし、時に立ち直れないこともある。
それは人として当然のことですよね。
ただ、その対象が犬にまで及ぶとなると普通の人だと「ん?」というような感情を抱くかもしれません。
しかし、人の価値観というのは時代によって変化します。
戦争時代では自分の子どもが死んだとしても、国のために戦って死んだ人は英雄として悲しみは半減されました。
逆にナチスドイツ時代のヒトラーを代表するように独裁者の死など身近ではないはずの人が死んだことに絶望して自殺を図る人もいました。
死んだ者に対する対象も同じで、今は犬も家族として心から受け入れられ、犬が死んだ時に飼い主がそれを受け入れられない状況が増えているのです。
マズローの欲求5段階から見る犬の立場の重要性
マズローの欲求
マズローの欲求5段階では、生き抜くための「生理的欲求」を1番下にして、自己の危険から守ろうとする「安全欲求」、3番目に仲間を欲して孤独感を解消する「社会的欲求」というものがあり、他者から認められる「尊厳欲求」、頂点に自分のしたいことを実現させたいという「自己実現欲求」があります。
ただ、今の社会は「他人の目を気にせず自分のスタイルで生きよう」というアメリカ的な思想が広がっています。そうなると、5段階ピラミッドの頂点にある「尊厳欲求」と「自己実現欲求」というものの価値が薄れてきます。
「成功」のイメージが固定されているからこそ、このピラミッドができるものですので、フリースタイル的な思想を持ちだされると、そうしたものの価値観が薄れてきます。そうした中で、最も価値観の頭角を現すのが、「社会的欲求」です。
つまり、仲間が欲しいという欲求です。
自殺者願望者に「成功しなくても認められなくても生きていていいんだよ」と言う人は今の時代多くいるかもしれませんが、「君が死んでも誰も悲しまないけど生きていていいんだよ」という人は皆無でしょう。
そうした意味で犬は最高のパートナーです。
保健所でただの貰ってくるだけで餌付けすれば自分を仲間だと愛情表現をわかりやすくしてくれる存在となります。
そのために、心の中で存在が大きくなり、死んだ時の悲しみも人と同じくらい大きなものとなっていると仮定できます。
犬が死んだというよりも家族が死んだという感覚に近い
身近な死は誰でも悲しむことはありますよね。
今までは犬が死んだというのは、あくまでも「ペットが死んだ」という感覚だったのです。
それが、「家族が死んだ」という意識に飼い主の意識がシフトしているのは確かです。
犬に求められている感情が大きくなっているのは、時代の流れでしょう。
50年前までは5人以上の子どもがいる大家族だったのが普通だった日本の家庭ですが、その時代だと犬と接する時間も子どもに合わせてわけられていました。
家族全体で犬を育てているという感覚だったのですね。それが少子化に伴って、子どもと同じくらいの時間を犬と過ごすようになってきました。
一緒に過ごした時間が長くなった分、感情移入をする割合も増えてきたのです。
犬に対する悪感情がないというのは大きい
日本の飼い主は犬に対して悪感情を持つことはありません。犬のせいでデメリットを被るという環境がないのです。
昔は狂犬病によって犬に殺される人もいました。
ニホンオオカミのように家畜を荒らすとして絶滅するまで狩猟された犬もいました。
江戸時代では徳川5代将軍である徳川綱吉が占い師に前世で動物を粗末に扱ったとして現世で生き物を大切にしなければ地獄に落ちると言われ「生類憐みの令」を出し、生き物への異常な動物愛護をして厳しく罰し、「お犬様」と呼ばれるほど犬を大切にして税金を費やし、犬に対して粗相を働いた者を直ぐに島流しにするなどし、庶民からは犬に対する憎悪心が膨らんでいました。
「生類憐みの令」がなくなると、報復に犬を虐殺する人々で横行し、社会問題となったほどです。
そうした社会的に犬に対する憎悪的要素がない以上、飼い主も犬に対して人と同じ感情で接するようになるのは必然と言えるかもしれません。
どういう場合がペットロス症候群となるのか、その基準について
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飼い犬が死んだことによって悲しむ。
それは飼い主としていつの時代でも同じだと思います。
何処までどういう症状が続けばペットロス症候群となるのか。
その基準について、医学的に解説していきたいと思います。
現れる症状について
まず犬が死んだ後に飼い主は以下の症状が出ればペットロス症候群予備軍とされています。
・鬱病
・不眠
・情緒不安定
・疲労しやすくなる
・虚脱感は続く
・無気力になる
・めまいがするようになる
・食べられなくなったり逆に食べすぎたりする摂食障害
・犬の幽霊が見えたように感じる錯覚が瞬間的に起こる
・犬の幻視や幻聴
・死んだ犬が生き返ってくるなどの妄想が止まらなくなる
・体に原因不明の異変が起こる心身症
これらの症状が出てくると危険です。
特に危険で起きやすいのが、死んだ犬の面影を感じるという幻覚です。
犬が死んだという事実を受け入れられない飼い主が、犬が生きていることにして精神を保つというのはよくあるパターンです。
一時の現実逃避ならばいいのですが、それが慢性的に続いて、日常化してしまうと精神疾患になってしまいます。
それに該当するので、注意が必要です。
喪失感系の精神の異常は多いですが、それを克服できないとペットロス症候群です。
ただ、人は大きな悲しみに包まれると多少なりともそういう症状はでるものです。
どのくらいの期間、それが続けばペットロス症候群という病名がつくのか基準があります。
どれだけの期間、続けばペットロス症候群となるのか
1ヶ月間。
上記に挙げた症状がそれだけ続けば立派な病気であると医学的には判別されています。
1個でも当てはまるものがあって、それが1ヶ月間経っても治らない場合は、対処が必要です。
精神科に受診する場合でも、「犬が死んだからこういう症状が出て1ヶ月経っても治らない」ということをしっかり説明するのはポイントです。
何故かというと、精神科というのは誤診が多く、特にペットロス症候群の場合だとお医者さんが「犬が死んだ」という事実を知らないと、病名を特定するのはほぼ不可能だからです。
症状だけ伝えても、「ただの鬱病だな」と思われたり、「軽い統合失調症」などと振り分けられたりします。
実際、ペットロス症候群で受診に来る人よりも、鬱病や統合失調症など世間でも知られているような病名で病院にやってくる人の方が遥かに多いのは事実ですので、お医者さんが「当たり前」の方に振り分ける確率の方が高いのです。
実際に、発達障害が原因で鬱病になっているのに、発達病害が見つからないというのは良くある話です。
そうした場合、間違った投薬治療などをされてしまって、病状が悪化するケースもあります。
1ヶ月。
それだけ苦しめば、普通の悲しみではありません。
病気です。
それをしっかりと認識する必要はあります。
飼い主のペットロスに対してどうアプローチするべきか?
犬は十数年生きる生き物です。
そこに感情を込めてしまうと、失った時に飼い主への精神的ダメージは大きくなっており、ストレス社会といわれる現代では、それが鬱などのきっかけになってしまうことも社会問題になっています。
では、犬が死んだ後にペットロスになった飼い主にはどういう対応をしたらいいのでしょうか?
周りの人は飼い主に対してコミュニケーションの機会を増やしてあげる
犬が死んだ飼い主は悲しみと同時に孤独感が強くなります。
飼い主の周りの人は、できる限り、飼い主とコミュニケーションを取る機会を増やしてあげましょう。
そうすることによって、今まで犬に依存してきた関係を徐々に忘れていき、心の傷も癒えてきます。
要するに時間が解決してくれるというものですね。
しかし、ただ時間を浪費するだけでは心の整理がつかない人が多いので、犬が死んだ後にペットロスになっているような傾向がある飼い主が知り合いにいたら積極的に関わって、話を聞いてあげることによって、思いを吐き出して心の整理もできますし、人と関わることによって孤独感を解消することもできます。
犬の飼い主にとって、ペットロスはそっとしておくというのは悪手です。
最近のペットロスは本当に心の闇となることが多いので、なるべく関わってあげましょう。
飼い主本人は天国で見守ってくれているという感情で温かく受け入れる
犬が死んだ後に、飼い主が「自分がペットロスになっている」と自覚することは少ないと思います。
自分の犬が死んだらこのくらい落ち込んで悲しむのは当然だろう。そう、思い込みがちだからです。
ただ、ふとした時に思い出して泣いてしまったり、気分が慢性的に落ち込んでしまったりしているのならば、それは立派なペットロスです。
そうした場合は、飼い主の心の持ちようです。
自分はしっかりと愛情を注いであげられたから、天国でしっかりと幸せになってくれているだろう。
天国で愛犬は自分を見守ってくれているはずだ。
そうした犬が死んだ事実に囚われるのではなく、生きた証を喜ぶ考え方にシフトすることが大切です。
死んだ犬は戻ってきません。
しかし、確実に現世で生きていたのです。
その事実を忘れないようにしてください。
宗教的な考え方で捉えることもポイント
無宗教である日本人でも、都合の良い時には宗教を利用しても誰も咎めません。
犬が死んだとしても宗教的にはその魂は消えていないと心を整理することができます。
例えば、仏教では六道輪廻という考えがあります。
魂というのは「地獄道」「餓鬼道」「畜生道」「修羅道」「人間道」「天上道」の順番に、六つの世界を循環しているとされています。
犬がいるのは、「畜生道」ですが、その次にある「修羅道」とは阿修羅の神として生きる世界であり、善界とされています。
犬として死んだら、阿修羅の神として魂は循環され、やがて人の魂となる。
そう考えれば、飼い主の苦痛も和らぐのではないでしょうか?
また、スピリチュアル的にいえば、仏教の六道をもっとナチュラルにした考え方をしており、現世で繋がった魂は来世でもまた魂の繋がりができるとされています。
来世でまた死んだ犬に会える。
そう考えれば、心も少しは穏やかになるでしょう。
生活に影響がある場合は受診も視野に入れる
飼い主が色々なことを試しても、犬が死んだことによるペットロスが治らず、生活に支障が出てくるという場合は、専門的なアプローチも視野に入れてください。
今では獣医師がペットロスのカウンセリングを行っている動物病院も多くあります。
また、専門的にペットロスのカウンセリングを行っている団体もあります。
そうしたカウンセリングでは、専門的な知識でカバーしてくれるため、非常に力になります。
また、ペットロス症候群としてしっかりと病名がつくため、重度の場合は精神科に受診してもいいでしょう。
犬が死んだからといって、精神科に受診するのは恥ずかしいと思うことはありません。
正式な病名がつく精神疾患ですので、専門的に診てもらうのは必要なことです。
犬が死んだ時に、飼い主は新しい犬を飼うべきか?
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犬が死んだ時にペットロスになると、新しい犬を飼うべきかどうかという選択肢に迫られることになります。
死んだ犬を失った心の穴を埋めるという効果もあるかもしれません。
しかし、死んだ犬に対する罪悪感で更にペットロス症候群が悪化するかもしれません。
どちらがいいのでしょうか?
犬依存症の飼い主は新しい犬を飼うべき
Purebred Jack Russel Terrier dog outdoors on a sunny summer day.
犬に愛情を注いで依存している関係で犬が死んだ飼い主は、新しい犬を飼うべきです。
そうした人は、ペットロス症候群というよりも「自分に愛情を注いでくれる存在」が死んだということで、それがいなくなったということでショックを受けているのです。
犬は無条件に愛情をくれます。
それを据え変えるというということはペットロス症候群の対策として問題ありません。
犬は動物です。
それに対して人並みの愛情や愛着を注がなければいけないという義務も道徳もありません。
飼い主にとっての愛情表現してくれる犬という都合の良い存在として考えても何の咎める部分もありません。
犬が死んだら、直ぐに新しい犬で再スタートする。
それでペットロス症候群を防げるのならばそうするべきです。
マズローの欲求5段階の社会的欲求を満たす存在として犬を扱っているのならば、それはそれでありです。誰も咎めることはありません。
そういう切り替えも必要です。
死んだ犬に対する罪悪感があるなら、人の子どもを育てるべき
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死んだ犬の直ぐに新しい犬を飼うことに罪悪感がする人は、犬にこだわるのはペットロス症候群の悪い兆候です。犬は短命です。
飼い主が何度も犬を飼っても、死んだ時に何回もペットロス症候群の症状が出ることになります。
そうした場合は、思い切って人の子どもを育てるという手段が解決策になります。
人ならば80歳は生きます。
親よりも先に死ぬことはありません。
犬のように飼い主に無条件に愛情表現を出すとは限りませんが、愛情を注いで育てればペットロスのような喪失感を味わうことはありません。
養子をもらうというのも手です。
友人に協力して貰って子どもを産むというのはありです。
女性ならば簡単に生めますし、男性ならばお金があれば出産協力もできます。
ペットロスとは違い、人の子どもは親より死ぬことはありませんので、そうした教育と育てることによって社会的欲求を満たすことができます。
犬が死んだことで、新たに犬を飼うことに罪悪感が出るならば、人の子どもを育てるべきです。
大変さは犬よりも遥かに大きいですが、社会的欲求を満たすという意味では、犬の飼い主よりも大きなものがあります。
まとめ
ペットロス症候群は今や社会問題になっています。
犬が死んだ飼い主の心はダメージが大きいです。
それを適切に解決しなければいけません。
間違った方法で対処すると、逆にメンタルがやられてしまう可能性があります。
そうしたことにならないためにも、適切な知識が必要です。それに自分に合った対策が必要です。
専門家によるカウンセリングなどの治療も視野に含め、ペットロスにならないために必要な心構え、犬が死んでも死んだということで不幸だと思わない宗教的な考え方。
様々な方法があります。
そうしたものを全部試してみて、1ヶ月の精神疾患の症状が現れられれば、精神科の専門的な治療が必要になります。
様々な方法を試す必要があるのですね。