REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke) 問い合わせ●KTMジャパン(https://www.ktm.com/ja-jp.html)
私が初めてバイクでクルーズコントロールを体験したのは、2005年に発売されたBMW・R1200RTだったと記憶している。都内の編集部をスタートし、宮城県石巻市まで一気に500km移動したロングランテストで、この先進装備の安楽さに衝撃を受けた。勾配や風向きによって負荷が変化しても設定速度を絶妙に維持してくれるので、スロットル操作に費やしていた神経と筋力を他に向けることができる。結果、疲労を軽減するだけでなく、安全運転にもつながると感じたのだ。ただ、これを有効に使えたのは東北道のかなり空いている区間ぐらいで、それ以外では前走車に追い付くたびに速度調整スイッチの操作が必要に。交通量の多い関東近郊ではあまり使えないシステムでは? などとすら思ったものだ。 あれから16年の月日が流れた。ライド・バイ・ワイヤーの普及もあって導入コストが下がったのか、ここ最近は特にクルーズコントロール採用車が増えた。そして今年、ついに車間距離制御装置付きのクルーズコントロール(ACC)を採用したモーターサイクルが登場した。これを執筆している2021年6月時点で、日本で購入できるのは上に紹介した3機種のみだが、間もなくここにカワサキ車が加わる予定だ。いずれもボッシュが開発したミリ波レーダーセンサーを採用しており、ドゥカティはフロントだけでなくリヤにもこれを搭載している。なお、ACCシステムの制御に関しては各車両メーカーが独自にアレンジしているとのこと。 テストしたACC搭載車両はKTMの1290スーパーアドベンチャーSで、今回は日本自動車研究所内(茨城県)にある1周5.8kmの外周路を使い、実際に追従テストを行うことができた。先行する4輪のドライバーには、100km/hから120km/hへの加速、速度を維持したままコーナーへの進入、割り込みを想定した車線変更からの減速など、公道で起こりそうなさまざまなシーンを再現してもらった。 結論から述べると、今回テストした範囲においてACCは完璧に機能した。先行車の速度の増減に対する追従性は文句なしであり、減速に関してはエンブレで対応できる範囲を超えるとブレーキ(最大制動力の約50%まで)が作動し、合わせてブレーキランプも点灯する。何より驚いたのは、強めの減速においてもあまりノーズダイブせず、前後のサスがバランスよくスッと沈むことだ。おそらく電子制御サスもACCに関わっているのだろう。おかげで目の前に4輪が割り込んできても慌てずに済んだのだ。
KTMのACCには二つのモード(コンフォートとスポーツ)があり、スポーツモードにすると加減速が明確にダイナミックになる。先行車が隣の車線に移動した途端、スロットル開度60~70%ぐらいのイメージで設定速度まで一気に加速するのだ。そして緩やかなコーナーに入ると、バンク角が深くなるほどスピードを落とすコンフォートモードに対し、スポーツモードは先行車との車間を維持したまま追従する。こうした元気なモードを設定したあたりはKTMらしいと言えるだろう。 ACCを体験して気が付いたことがある。それは、スピードの増減に合わせてシフトチェンジを行う必要があるということ。例えば先行車に合わせて50km/hぐらいまで速度が落ちているのに6速のままでいると、スポーツモードであっても再加速がもっさりとしたものになる。1290スーパーアドベンチャーSはアップとダウンに対応したクイックシフターを採用しているので、必要に応じてギヤをシフトしたい。ちなみに、クラッチレバーを2.5秒以上握ったり、スロットルをゼロ位置からさらに閉じるとACCがオフになる。 なお、ACC中の追い越しを簡単にできるように、ウインカーの操作と同時に加速する機能も盛り込まれている。その作動時間はコンフォートモードで3.5秒間、スポーツモードで2.5秒間に設定され、システムが車線変更を検知しなかった場合は加速が終了する。今回は短時間でのテストだったのでこれを試せなかったが、使いこなせればなかなか便利な機能と言えるだろう。 マスツーリングの基本とされる千鳥走行では、先行するバイクを認識できない可能性があることからACCは使用不可とされるなど、いくつかの作動条件はあるが、テストした範囲では特に問題がなかったことをお伝えしておきたい。性能としては4輪のACCと肩を並べるほどであり、現状においてそれを最も安価に享受できるのはこの1290スーパーアドベンチャーSなのだ。