この共同研究においてJAXAは、これまでに検討してきたGatewayにおける酸素製造および月面における移動用車両への電気供給に関するミッションのシナリオや要求に基づき、検討条件の設定を担当し、ホンダはJAXAのミッションやシナリオを実現するための技術検討を担当している。今年度(2021年度)は、昨年度の研究において識別した循環型再生エネルギーシステムの要素技術に関する課題に対し、試作による評価も行いながら実現性の検討を実施する。なお、この結果は来年度(2022年度)に計画しているシステムとしての成立性の検討へつなげていく予定だ。
本田技術研究所で先進パワーユニット・エネルギー研究所担当の武石伊久雄執行役員は次のように述べている。
「ホンダは豊かで持続可能な社会の実現と、地上、海洋、空、そして宇宙においても『すべての人に“生活の可能性が拡がる喜び”を提供する』ことを目指しています。今回の共同研究は、これまで培ってきた技術を活用して、人の生活圏を宇宙へ拡大し、人の可能性を拡げる挑戦です。また、循環型再生エネルギーシステムは、地上でのカーボンニュートラルに大きく貢献する技術のため、宇宙という究極の環境で技術を磨き、地上にもその成果をフィードバックしていきます」
一方、JAXAの理事で有人宇宙技術部門長を務める佐々木宏氏は次のように述べている。
「日本政府によるアルテミス計画への参画決定に伴い、JAXAは本格的な月探査の実現に向けたミッション開発やシステム検討を進めています。人類が宇宙で活動するためには酸素、水素、電気が必要ですが、循環型再生エネルギーシステムの実現により、水を利用して、それらを地球から補給することなく宇宙で入手することができ、宇宙での活動が飛躍的に拡大することが期待されます。ホンダとJAXAが有する強みを生かし、本共同研究を着実に進めていきたいと考えています」
高圧水電解システムと燃料電池システムを組み合わせたシステムで、太陽エネルギーと水から継続的に酸素・水素・電気を製造することを想定している。具体的には、太陽エネルギーを使って、高圧水電解システムで水を電気分解し、酸素と水素を製造する。酸素は有人拠点で活動する人の呼吸用として活用、水素は月面を離発着する輸送機の燃料として活用することを想定している。また、酸素と水素を使って燃料電池システムで発電し、有人拠点や移動用車両などへ電気供給することも想定されている。
ホンダの高圧水電解システムは、水素を圧縮するためのコンプレッサーが不要なため、コンパクト・軽量で、宇宙輸送の大きな課題である積載容量・質量の低減化にも貢献する。
ホンダは長年、水素技術の研究開発に取り組んでおり、2002年には世界で初めて燃料電池自動車のリース販売を開始。また高圧水電解システムを使ったスマート水素ステーションの開発・設置も行ってきた。循環型再生エネルギーシステムは、これらの技術を活用して実現を目指すものだ。
人類の活動領域を、月さらには火星へと拡大するためには、持続的かつ実現可能な宇宙探査の計画が重要。2000年代初頭から、米国をはじめとした国際協力による有人宇宙探査計画の検討が開始され、2018年、文部科学大臣主催により、40カ国を超える国・機関の代表により開催された「第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)」では、月・火星・その先の太陽系の探査活動が広く共有された目標であり、持続可能な形での探査の実施の重要性が確認された。
また、現在、26の宇宙機関が参加する「国際宇宙探査協働グループ(ISECG)」では、国際協調による宇宙探査に向けたロードマップ検討が進められており、JAXAではこれらに連動する形で、国際宇宙探査シナリオの検討を継続的に実施している。
2019年10月、日本は米国提案による国際宇宙探査プロジェクトである「アルテミス計画」に参画することを政府として決定し、協力項目について調整を進めることになった。この方針に則りJAXAでは、火星なども視野に入れた月周回有人拠点(Gateway)への日本が得意とする技術・機器の提供、Gatewayへの新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)での物資補給を目指し、研究開発を進めている。また、月面では、ピンポイント着陸技術の獲得を目指す小型月着陸実証機(SLIM)(2022年度打上げ予定)や、月面での水資源探査を目的とした月極域探査機(2023年度打上げ予定)により持続的な月面探査の基盤整備への貢献を目指し、さらに、2020年代後半以降の月面探査を支える移動手段として、有人与圧ローバの研究等を進めている。