TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO◎Honda
「タイヤのデグラデーション(性能劣化)によって(ペースが)落ちてしまうのを、ほぼ落ちない状況でもっていっている。だから、(タイヤを履き替えた直後に)抜かれても、後で抜き返すことができた。スティント(前の給油から次の給油まで走れる周回数)はだいたい30周です。一番大事な局面になるスティントの25周目なり、30周でゴールを迎えるように、最後のピットストップをする。その最後の30周を全力で走れるようなマシンづくりをする考えは今年も同じです」
だが、読み切れない部分がある。エアロパッケージがアップデートされたことで、燃費が悪くなる傾向だからだ。一般論として、ダウンフォースが増えれば、引き換えにドラッグ(空気抵抗)が増える。そのぶん燃費が悪くなるのだ。新エアロパッケージは義務付けではないので、装着しないという選択肢もある。だが、「それでは勝てない」と琢磨は断言する。
「ドラッグを削って(スピードを稼ぎ)抜かれないように走ることもできます。でもそれだと、2番手、3番手に落ちたときに、(乱流に弱く前のクルマに付いていけないので)上がっていけない。10番手まで落ちたら絶対に上がれない。だから、トラックポジション(レース中の順位)と予選が大事になってくる。去年であれば、燃費をセーブすれば32周、33周まで引っ張ることができました。今年はマイナス1周になるでしょうか。全開では28周くらいで燃料が尽きてしまうようなドラッグレベルになりそうです」
常にトップ集団に身を置き、たくさんは引き離されず、追い抜かれても抜き返せるだけの空力セットアップにしておき、スティント終盤に力を発揮できるようタイヤを温存できる状態にしておく。あっちを立てればこっちが立たずの状況にあって、200周あるレースの最後の数周に最もいい状態に持っていけるようなシナリオを描いて調整し、いいバランスに仕上げていく必要がある。
「(スティントの)最後にタイヤが厳しくなったときにペースを維持できるのが自分の強み。それを維持できる戦略は引き続きやるにしても、アドバンテージはないに等しい。(新しいエアロパッケージの影響で)タイヤによるタイムの落ち込みは去年よりずっと少なくなるはず。なので、今年は絶対的なスピードを上げるべく、予選からアプローチを変るプログラムを立てている。それがうまくいくことを願っています。予選はもちろんフロントロゥを狙い、絶対速度をトップチームと同じくらいにする。それが、僕の希望です」
インディカーシリーズの他のレースに比べ、走行機会が多い点が「自分としてはやりやすい」と琢磨はいう。インディ500では4日間を費やしてプラクティスを行ない、5日目に予選を行なう。その間、じっくりと時間をかけながら納得のいくバランスにまとめていくことができる。レースも長く、必要とあればピットストップのタイミングでウイングやタイヤ内圧の調整を行なうことができる。「難しい」ことに変わりはないが、「走りやすい環境がそろっている」のが、琢磨にとってのインディ500で、だから、「強く走れるのではないか」と自己分析する。「勝ち方がわかっていますし」と。
インディ500ウイナーに与えられるリングを2つ見せ、琢磨はこう言った。
「ここにリングが2つあります。ディフェンディングチャンピオンとして、3つめを狙い全力で走っていきたいと思います」