ポルシェは5月10日、ピュアEVとなる次期型「マカン」の開発状況を公開した。

ピュアEV版の一方で、2021年中にエンジンを搭載した現在のマカンの後継車も発売される予定

ボディにカモフラージュが施されたマカンの次世代プロトタイプは、ドイツ・ヴァイサッハのポルシェ開発センター性能試験場で初期テストを実施した後、初めてポルシェ施設の外へと向かう。「開発プロセスにおいて最も重要なマイルストーンとなる、現実環境でのテストが現在進行中です」と、ポルシェAG研究開発担当取締役のミヒャエル・シュタイナーは述べている。

2023年にフル電動モデルとなる次世代マカンが市場へ投入されるまでに、さまざまな条件下において、世界中で約300万kmにもおよぶテストが実施される。このプロトタイプには、仮想空間における膨大な距離のテスト走行から得られた経験が組み込まれている。

デジタルによる開発とテストは、時間とコストを節約するだけでなく資源も保護するため、持続可能性を高める。エンジニアは、実際の車両の代わりにデジタルプロトタイプを使用する。これは、車両の特性、システム、およびパワーユニットを高精度で複製する計算モデルとなる。エアロダイナミクス、エネルギー管理、オペレーション、サウンドなど、多くの開発カテゴリーでのシミュレーションを目的とした20のデジタルプロトタイプがある。「私達は定期的にさまざまな部門からのデータを照合し、それらによって可能な限り詳細で完全な仮想車両を作成します」と、ポルシェのデジタルプロトタイプマネージャーであるDr.アンドレアス・フーバーは説明。これにより、これまで発見されていなかった設計の矛盾を迅速に特定して解決することができる。

デジタルプロトタイプを使用する最初のエンジニアは、エアロダイナミクスのスペシャリスト。「プロジェクトが約4年前に開始されたとき、私達はフロー・アラウンド・モデルから始めました」と、エアロダイナミクス開発ディレクターであるDr.トーマス・ヴィーガントは述べる。長い航続距離を確保するという観点から、空力抵抗を最小限に抑えることがフル電動モデルとなる次世代マカンにとって重要。わずかな空気抵抗の増加が大きな違いを生み出す可能性があるのだ。エンジニアたちは現在、シミュレーションを使用して、冷却エアダクトなどの細部を微調整している。計算ではコンポーネントのさまざまな配置が考慮されるだけでなく、実際の温度差も反映される。




新しいディスプレイとオペレーティングシステムを使用した仮想テストにより、エアロダイナミクスと熱力学の非常に精確なシミュレーションが可能になったという。「デジタルの世界は、フル電動モデルとなる次世代マカンの開発に不可欠です」と、エアロダイナミクスの専門家であるヴィーガントは述べている。バッテリーからモーターに至るまでのエレクトリックドライブシステムには、完全に独立した冷却および温度制御コンセプトが必要になる。これは、従来のエンジン搭載車両と大きく異なる点だ。90〜120℃の温度範囲がエンジンの目標だが、電気モーター、パワートレインのエレクトロニクス、および高電圧バッテリーは、コンポーネントに応じて20〜70℃の温度範囲が必要になる。危険なシナリオは道路上では発生しないが、高い外気温のなかでの高電力急速充電中に発生する。しかし、ポルシェの開発者は、位置、空気の流れおよび温度を精確に計算し、デジタル的に最適化することができる。




仮想プロトタイプは、早い段階で現実世界のシナリオと組み合わせることができる。その最も良い例が、次世代マカンのためのまったく新しいディスプレイおよびオペレーティングコンセプトの開発だ。シートボックスと呼ばれるものを使用してドライバーの環境を再現することで、デジタルプロトタイプと組み合わせた開発の初期段階でディスプレイおよびオペレーティングコンセプトを実現することができる。「シミュレーションによって、ドライバーの視点から、ディスプレイ、操作手順および走行中の影響の変化を評価することができます」と、ドライバーエクスペリエンス開発部門のファビアン・クラウスマンは説明する。このとき専門家だけでなく専門家以外も「テストドライバー」になる。これにより、ドライバーと車両間のあらゆる相互作用を細部まで調査できるため、最初の物理的コックピットが作成される前に、選択的な最適化が可能になる。

フル電動モデルとなる次世代マカンの最初の物理的プロトタイプは、シミュレーションから得られたデータに基づいて、場合によっては手作業または専用工具を使用して精巧に作成された。その後これは、仮想改良プロセスに基づいて定期的に適合される。同様に、路上テストの結果がデジタル開発に直接反映される。「車両構造、動作の安定性、ハードウェア、ソフトウェアおよびすべての機能の信頼性が当社の高品質基準を満たしていることを確認するために、現実世界の条件下における閉鎖されたテスト施設と公道での耐久テストが不可欠です」と、取締役のミヒャエル・シュタイナーは述べている。極端な気候条件や地形条件下で実施されるフル電動モデルとなる次世代マカンの厳しいテストプログラムには、厳格な基準を満たさなければならない高電圧バッテリーの充電や調整などの分野が含まれる。 「タイカンと同様に800Vアーキテクチャーを備えたフル電動モデルとなる次世代マカンは、ポルシェ特有のE-パフォーマンスを提供します」と約束するシュタイナーは、長い航続距離、高性能急速充電、再現性のあるクラス最高の性能値などの開発目標を挙げている。「フル電動モデルとなる次世代マカンは、セグメントで最もスポーティなモデルになるでしょう」

プレミアムプラットフォームエレクトリック(PPE)上に構築された最初のポルシェであるフル電動モデルとなる次世代マカンは、2023年のデビューが予定されている。ポルシェは純粋なE-モビリティへの移行に向けて自らを柔軟に位置付けている。「ヨーロッパでは、電気自動車の需要が増え続けていますが、変化のペースは世界中でかなり異なっています。そのため、2021年中にエンジンを搭載した現在のマカンの後継車を発売する予定です」とシュタイナー。エンジンを搭載した新型マカンモデルは、将来的にはフル電動モデルとなる次世代マカンと一緒に提供される予定だ。それまでは現実世界と仮想の両方において、さらに数100万kmのテストを実施する必要があるという。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 ポルシェがピュアEVとなる次期型マカンのプロトタイプをテスト! 2023年の市場投入に向け世界中で約300万kmのテスト走行へ