新しいディスプレイとオペレーティングシステムを使用した仮想テストにより、エアロダイナミクスと熱力学の非常に精確なシミュレーションが可能になったという。「デジタルの世界は、フル電動モデルとなる次世代マカンの開発に不可欠です」と、エアロダイナミクスの専門家であるヴィーガントは述べている。バッテリーからモーターに至るまでのエレクトリックドライブシステムには、完全に独立した冷却および温度制御コンセプトが必要になる。これは、従来のエンジン搭載車両と大きく異なる点だ。90〜120℃の温度範囲がエンジンの目標だが、電気モーター、パワートレインのエレクトロニクス、および高電圧バッテリーは、コンポーネントに応じて20〜70℃の温度範囲が必要になる。危険なシナリオは道路上では発生しないが、高い外気温のなかでの高電力急速充電中に発生する。しかし、ポルシェの開発者は、位置、空気の流れおよび温度を精確に計算し、デジタル的に最適化することができる。
仮想プロトタイプは、早い段階で現実世界のシナリオと組み合わせることができる。その最も良い例が、次世代マカンのためのまったく新しいディスプレイおよびオペレーティングコンセプトの開発だ。シートボックスと呼ばれるものを使用してドライバーの環境を再現することで、デジタルプロトタイプと組み合わせた開発の初期段階でディスプレイおよびオペレーティングコンセプトを実現することができる。「シミュレーションによって、ドライバーの視点から、ディスプレイ、操作手順および走行中の影響の変化を評価することができます」と、ドライバーエクスペリエンス開発部門のファビアン・クラウスマンは説明する。このとき専門家だけでなく専門家以外も「テストドライバー」になる。これにより、ドライバーと車両間のあらゆる相互作用を細部まで調査できるため、最初の物理的コックピットが作成される前に、選択的な最適化が可能になる。
フル電動モデルとなる次世代マカンの最初の物理的プロトタイプは、シミュレーションから得られたデータに基づいて、場合によっては手作業または専用工具を使用して精巧に作成された。その後これは、仮想改良プロセスに基づいて定期的に適合される。同様に、路上テストの結果がデジタル開発に直接反映される。「車両構造、動作の安定性、ハードウェア、ソフトウェアおよびすべての機能の信頼性が当社の高品質基準を満たしていることを確認するために、現実世界の条件下における閉鎖されたテスト施設と公道での耐久テストが不可欠です」と、取締役のミヒャエル・シュタイナーは述べている。極端な気候条件や地形条件下で実施されるフル電動モデルとなる次世代マカンの厳しいテストプログラムには、厳格な基準を満たさなければならない高電圧バッテリーの充電や調整などの分野が含まれる。 「タイカンと同様に800Vアーキテクチャーを備えたフル電動モデルとなる次世代マカンは、ポルシェ特有のE-パフォーマンスを提供します」と約束するシュタイナーは、長い航続距離、高性能急速充電、再現性のあるクラス最高の性能値などの開発目標を挙げている。「フル電動モデルとなる次世代マカンは、セグメントで最もスポーティなモデルになるでしょう」
プレミアムプラットフォームエレクトリック(PPE)上に構築された最初のポルシェであるフル電動モデルとなる次世代マカンは、2023年のデビューが予定されている。ポルシェは純粋なE-モビリティへの移行に向けて自らを柔軟に位置付けている。「ヨーロッパでは、電気自動車の需要が増え続けていますが、変化のペースは世界中でかなり異なっています。そのため、2021年中にエンジンを搭載した現在のマカンの後継車を発売する予定です」とシュタイナー。エンジンを搭載した新型マカンモデルは、将来的にはフル電動モデルとなる次世代マカンと一緒に提供される予定だ。それまでは現実世界と仮想の両方において、さらに数100万kmのテストを実施する必要があるという。