これにより、FFながらまるでFRのような、ホイールハウスが車両前方にあるプロポーションを得ている。
なぜ5気筒か、なぜ縦置きか。これについてホンダは「FFとしての理想的前後重量配分」「パワートレインレイアウト」「超ロングホイールベース」の3つを目的として発信している。重量物であるパワートレインを全車軸後方に置き、FFとして前後重量配分の適正化をねらう。実際、同時にデビューしたセダン系のアコードの前62:後38に対して、FFミッドシップ車は前60:後40と、わずかながら改善を見せている。
5気筒というフォーマットについては、開発時に多種多様のエンジンを比較検討した結果、直6/V6とともに残った有力候補のひとつだった。そこからさらに「V6は重くなる」「直6はエンジンの剛性確保が難しい」ということになり、最終的に5気筒が選択された。
カムトレインはSOHCで、VTECの搭載が心待ちにされていたが市販車用としては結局最後まで載ることはなかった。バルブはロッカーアーム駆動の4バルブ式で、82mmのボア径内に、吸気側に32mm/排気側に28mmのバルブを収める。
ストローク値は75.6mmと、ボア径に対しては相対的に短く、これはエンジン全高を抑えることが目的のひとつだったからと思われる。先述のようにドライブシャフトがクランクケースを貫通する構造とするとクランクセンターは勢い高くなる。そのためG20A型エンジンは車両搭載のために右側に35度も傾ける格好となった。
吸気管はヘッドまで伸びるプライマリーとシャッターバルブを設けたセカンダリー管があり、このシャッターバルブを「アイドルから2500rpmまで閉」「2500〜3200rpmは開」「3200〜5100rpmは閉」「5100rpm以上は開」の制御とすることでトルクカーブに谷が生じないように慣性吸気効果と共鳴過給効果をねらう。さらに吸気ポートは入口36mm径〜中間部34.5mm径〜シート部36mm径と、中間部を絞る形状として流速を高め、筒内の流動促進についてはバルブ周りに土手を設ける格好のマスクドペントルーフとした。使用燃料はレギュラーガソリンで、圧縮比は9.7。
排気管は各ポートから1番4番/2番3番/5番の3本ブランチとし、さらに1本に集合させる5-3-1管構造としている。材質は軽量化と耐熱性の両立を図ったステンレス。
白眉はバランサーの装備である。先に記したように開発時には直6も検討されていて、最たる美点はスムースネスだった。5気筒でも同等レベルを確保できないかと、特有の1次偶力をキャンセルするためにバランスウェイトをクランクと逆方向に回転させる構造としている。
ドライブシャフトは、右側がクランクケース/オイルパンを2点支持で貫通する構造。デファレンシャルギヤはエンジンの外側にあり、左側ドライブシャフトはそのままハブに接続される。通常、縦置きFFの場合は変速機にデフを収めることとなるが、そうするとフロントオーバーハングにエンジンを置く格好となり、フロント荷重が大きくなる。「ならばエンジンに貫通させてしまえばいい」と考えて実現させたホンダのアイディアには心底驚かされる。
G20A型から遅れること3年後の1992年1月、2.5ℓに排気量を拡大したG25A型が登場。その後1995年2月の2代目インスパイア/セイバーにも継続搭載されたが、その代限りで「FFミッドシップ」は役目を終えることとなった。
■ G20A
気筒配列 直列5気筒
排気量 1996cc
内径×行程 82.0×75.6mm
圧縮比 9.7
最高出力 160ps/6700rpm
最大トルク 19.0kgm/4000rpm
給気方式 自然吸気
カム配置 SOHC
吸気弁/排気弁数 2/2
バルブ駆動方式 ロッカーアーム
燃料噴射方式 PFI
VVT/VVL ×/×
(アコードインスパイア)
■ G25A
気筒配列 直列5気筒
排気量 2451cc
内径×行程 85.0×86.4mm
圧縮比 10.0/9.3
最高出力 190ps/6500rpm / 180ps/6500rpm
最大トルク 24.2kgm/3800rpm / 23.0kgm/3800rpm
給気方式 自然吸気
カム配置 SOHC
吸気弁/排気弁数 2/2
バルブ駆動方式 ロッカーアーム
燃料噴射方式 PFI
VVT/VVL ×/×
(インスパイア)