ゴールデンウィーク短期集中連載として、スイフトスポーツシリーズの進化を辿る3日目。今日と明日はエンジン編!直噴ターボ化で圧縮比は9.9に、ブースト圧1.0kg/㎠で過給される。少し前ならありえない組み合わせで、驚異のパワーを発揮するユニット。しかも、伸び代充分でブーストアップもタービン交換も可能だなんて!


「オレってスイフト博士カモ?」の加茂 新氏の解説でお届けする、スイスポ一挙丸わかり講座。お楽しみください。




TEXT:加茂 新(KAMO Arata)

驚きの1400cc+ターボエンジンをチョイスかっ飛びコンパクトカーの再来がZC33S

エンジン内部はスイフトチューナーのアールズ松野代表曰く「相当ちゃんとしてる。もっと華奢な作りかと思ったけど、さすがスズキ!! 全然パワーアップにも耐えられる構造。変なとこ真面目なんだよねぇ~」

燃焼室奥に直噴インジェクターが備わっているのがわかる。走行3万キロのエンジンでややカーボンが多いようにも見える

3代目スイフトスポーツとなるZC33S。1代目(ZC31S)~2代目(ZC32S)は完全キープコンセプト。デザインもエンジンもボディもブラッシュアップ版で、目新しさはないが質実剛健な進化内容だった。


エンジンは7500rpmまで回るものの、パンチ感は薄い。


VTECのような爆裂するパワー感はなく、「そよかぜ」のような加速。スズキのバイク「隼」のようなトルクにあふれるモンスターに憧れたものである……。




しかし、そこで3代目は攻めてくるのがスズキのうれしいところ。エンジンは1400cc+ターボに一新された。

左はZC33S。右はZC32Sのピストン。直噴化されピストントップは特殊な形状になっている。この部分で燃焼室内に空気の流れを起こし、ガソリンを直接噴射する。三菱のGDIエンジンもまさにこんなこんな形状でしたよね!?

K14Cエンジンはボア73.0mm×ストローク81.9mmで排気量は1371cc。4気筒16バルブDOHCで圧縮比は9.9。いわゆるダウンサイジングターボのようだが、ちょっと違う。


それをイメージするのは、すでに生産終了したがRStに搭載されたK10でエンジン。こちらは1000cc+ターボでNAの1600ccクラスのようなイメージで乗れる。ところがスイフトスポーツのK14Cは、普通に力のあるNAエンジンにターボを加えた爆裂するトルクが特徴なのだ。

アールズ松野代表もびっくりのゴツいクランクシャフト。フルカウンターではないので、高回転型ではないことがわかるが「高回転型じゃないのにこんなに軽量化に気合いの入っているクランクは見たことない」と松野さん

その刺激はターボエンジンとしては、ひと昔前ではびっくりするほどの圧縮比を実現したこと。その立役者は直噴インジェクター化だ。


それにより高圧縮比+ハイブーストという夢が可能になった。燃焼室に直接ガソリンを噴射できるので、異常燃焼が起きにくく、燃焼室の冷却にも優れるので高い圧縮比とハイブーストの両立が可能となったのだ。


そんな「K14C」エンジンはじつはなぜかエスクードから搭載されたが、ZC33Sにも使われ、コンパクトカーの世界観を変えるのである。

ターボチャージャーはシリンダーヘッド一体型エキマニの直近に配置。手前に見えるのがウェイストゲートのアクチュエーター

そしてタービン自体は、三菱重工製となっている

ちなみにブースト圧はオーバーシュート1.0kg/㎠で、0.8kg/㎠くらいで安定する。ECUチューンによってオーバーシュート1.3kg/㎠、安定1.0kg/㎠でもまったく問題なし。


ちょっと前ならそんなことをしようものなら、圧縮比は8.0くらいがいいところだった。これまでできなかった圧縮比とブースト圧の両立によって、信じられないようなパンチ感を実現。




970kgという軽量ボディに23.4kgmのトルクはシフトチェンジの回数を激減させた。市街地でも3速で右左折可能。高速道路は6速に入れておけば、減速後の追い越しもキックダウンは不要で、グイグイ加速していく。

それを可能にしたのがアクチュエーターのノーマルクローズ制御というやつ。近年のダウンサイジングターボエンジンは通常排気ガスはタービンをバイパスして排気していて、必要なときのみスイングバルブを閉じてタービンに排気ガスを回してタービンを発動させる。




ところが、クローズ制御はその逆。基本的に常にタービンをブンブン回すことで、いつでもどこでもブーストが瞬時に立ち上がる。


それをさらに高めるためにエキゾーストマニフォールドは存在しない。シリンダーヘッド内で排気ガスは集合され、エンジンにはタービンを直付け。最短距離でタービンを回す設計がされている。

基本タービンに排気がいくのがクローズ制御。レスポンスに優れており、1000rpmちょっとからバンバンタービンが機能してくれる

ターボといえばチューニングによるパワーアップの幅が大きいのが魅力。K14Cは140ps/23.4kgmと馬力はやや控えめであるが、ECU書き換えによるブーストアップと燃調、点火時期、可変バルブタイミングの最適化などで20~30ps向上は可能。


スポーツ触媒やマフラー交換をするとさらに出力は上がるが、何十馬力も上がらないのが正直なところ。しかし、数字には現れにくいがアクセルに対するパワーの出方のレスポンスが格段によくなるのだ。【明日へ続く】

情報提供元: MotorFan
記事名:「 スイスポエンジン論① 1400cc+ターボエンジンのお味は?【連載|スズキ・スイフトスポーツを愛しすぎた加茂からのラブレター③】