そこで、クルマの運転のブランクが大きいペーパードライバーや高齢者、あるいはこの機会に運転免許を取得した初心者にオススメなのが、安価かつ狭い道でも扱いやすい軽自動車やコンパクトカーだ。しかし、肝心の帰省や旅行でも、家族みんなが快適に過ごせるのだろうか?
「最新の軽&コンパクトはファーストカーとして使えるか?」と題したこの企画、5台目は日産のBセグメントクロスオーバーSUV「キックス」。オレンジタン×ブラックの合皮シートを装着する「Xツートーンインテリアエディション」のFF車(4WD車の設定なし)で、高速道路約500km、一般道約100kmのルートを走行した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、日産自動車
今なお世界中を騒がせているカルロス・ゴーン元会長の逮捕・逃亡劇と、彼が残した負の遺産からの脱却を図るべく打ち立てた、2023年度までの事業構造改革計画「NISSAN NEXT」。その中には「18ヵ月間で12の新型車を投入する」というものが含まれており、そのプランの皮切りとなったのが、同年6月に国内デビューしたキックスだ。
このキックス、日本国内においてはその直前に販売を終了した初代ジュークの後継車に位置付けられるが、欧州などでは二代目ジュークが2019年11月より順次販売開始されている。また、二代目ジュークは新世代のCMF-Bプラットフォームを採用するが、キックスのベースとなっているのは現行四代目マーチをルーツとするVプラットフォームだ。
それらの経緯は上の記事に詳しいが、「二代目ノートe-POWERのSUV版」というべきその成り立ちを知り、過去の試乗経験を思い出すにつけ、期待値が下がっていったというのが正直な所。結論から先に言えば、その予想は若干外れ、概ね当たった。
まず外れた点を挙げると、内外装の見た目品質は高い。ドアパネルにこそマーチやノートなど同じVプラットフォームを採用する車種の面影が見られ、使われている素材も決して高価ではない。だがテスト車両は内外装とも鮮やかなオレンジと黒のツートーンで、各パネル間のチリも小さく、かつて所有していた現行マーチの初期型とは隔世の感がある。だがこれは、約10年間でタイ工場の製造品質が劇的に向上したというよりも、マーチの製造公差がコストカットのために大きく取られていると見るべきだろう。
二代目ノートe-POWERよりも20ps&6NmアップしたEM57型モーターは、同じく130kg増えた車重に対し過不足ないスムーズな加速フィールをもたらしてくれる。むしろ、バッテリーが減っても極力発電しないよう、発電用HR12DE型直列3気筒エンジンの制御が改められたほか、ボディ・シャシーの剛性が高められたため、静粛性が改善されていることの方が、メリットとしては大きい。
さて、実際に走らせてみるとどうか。本誌・鈴木慎一統括編集長が、上記の記事にて80km/h以下での燃費を計測しているため、今回はそれ以上の最高120km/hで走れるルートを選択。横浜の日産本社から市内の一般道を経て、東名・新東名高速道路ではプロパイロットを制限速度の上限に設定し、浜松SA・スマートICからは一般道で浜名湖に至り一周する、高速道路約500km・一般道約100kmのコースを走行した。なお走行モードは常時、ワンペダルドライブが可能になり減速力と加速レスポンスが最大となる「S」としている。
浜松SA・スマートICから一般道に降り、やがて浜名湖周辺に到着すると、道幅が狭く路面が荒れた、湖畔のワインディングが目の前に現れてくる。低い速度でもクルマのポテンシャルを測ることができる絶好のステージだが、ここでの印象は前述の新東名120km/h区間とほぼ変わらず。SUVながらタイトなコーナーも軽快にクリアできる一方、大きな凹凸やヒビ割れた路面でのノイズや振動、突き上げは非常に強く、必然的に低速での慎重な走行を強いられる。そのためストップ&ゴーを繰り返す市街地での走行状況に近くなり、この一般道を約70km走行した際の燃費は17.2km/Lと振るわなかった。
帰路も同様のルート・条件で走行し、最終的に約600km走行した後のトータル燃費は17.2km/L。やはりこのキックスというクルマ、e-POWERというシリーズハイブリッドシステムは、舗装のキレイな都心部の街乗りでこそ、その良さが活きてくる。裏を返せば帰省やドライブ、そしてSUVに対し本質的に求められるアウトドアレジャーなど、家族みんなで高速道路を長距離長時間走り続けるのには全く適していない。
従って、キックスをファーストカーとし、すべてをこの1台で賄うのは無理がある。むしろ街乗り専用のセカンドカーとして選ぶなら、魅力的な選択肢となり得るだろう。
■日産キックスXツートーンインテリアエディション(FF)
全長×全幅×全高:4290×1760×1610mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1350kg
エンジン形式:直列3気筒DOHC
総排気量:1198cc
エンジン最高出力:60kW(82ps)/6900rpm
エンジン最大トルク:60Nm/3600rpm
モーター最高出力:95kW(129ps)/4000-8992rpm
モーター最大トルク:260Nm/500-3008rpm
トランスミッション:--
サスペンション形式 前/後:ストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:205/55R17 91V
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:21.6km/L
市街地モード燃費:26.8km/L
郊外モード燃費:20.2km/L
高速道路モード燃費:20.8km/L
車両価格:286万9900円