TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎FCA JAPAN/Motor-Fan
北海道にこの冬一番の降雪があった日にジープ・ラングラーで雪道を走った。運転したのはラングラーに4モデルあるうちの「アンリミテッド・サハラ」で、3.6ℓV6自然吸気エンジンと8速ATの組み合わせである。極限状態に陥った人間の妄言と思われるかもしれないが、降りしきる雪のなかで「いいな、これ」と感じたのは、極端に薄いフロントガラスから見える雪景色だった。小ぶりなワイパーのぎこちない動きが興を添える。
薪がはぜる音に耳を傾けながら暖を取るのと同じようにリラックスしていられたのは、ラングラーとの信頼関係がすでに確立していたからだ。レネゲード4xeはシフトレバーの前に「SNOW」のボタンがあるので、雪道を走るときは「このボタンを押せばいい」とすぐにわかるが、ラングラーを乗りこなすにはちょっとばかり知識が必要だ。
パーキング(P)からリバース(R)、あるいはニュートラル(N)やドライブ(D)に切り換えるシフトレバーの左に、前後輪の駆動状態を切り換えるトランスファーレバーがある。デフォルトは「2H」で、リヤ2輪駆動で走る。Hは高速(High)の意味だ。乾燥した舗装路を走るならこのモードでいい。
「4H AUTO」に切り換えると、前後輪に自動的に駆動力を配分するフルタイム4WDになる。ウエット路面や未舗装路では、安心感につながるだろう。雪道を走るなら、「4H」がいい。センターデフがロックされて前後の軸が直結になり、駆動力の配分は各輪の荷重によって決まる。意図して強めにアクセルペダルを踏むと、グリグリ雪を掻きながら力強く前に進む。4つのタイヤがしっかり路面を掻いているのが感じ取れるので、安心感につながるのだろう。そうしていったんクルマとの信頼関係が築き上げられると不安はなくなり、楽しみしか残らない。薄いフロントガラスから見える雪景色を楽しむ余裕が出てくるというものだ。
ジープを販売しているのはFCAジャパンで、ジープのほかにアバルト、フィアット、アルファロメオの各ブランドを販売している。販売台数は右肩上がりだ。2020年の販売台数は前年に対して少し落ちた(2万4185台)が、第4四半期に関しては過去最高だったという。1万3588台を販売したジープに関しては、前年を上回る成績を挙げ、過去最高を記録(コロナ禍にもかかわらず)。ラングラーは5757台で、11年連続で前年越えを記録している。Dセグメントの輸入SUVでは、メルセデス・ベンツやBMW、ボルボを抑えてナンバーワンの座を獲得した。
魅力的な限定車を矢継ぎ早に投入(最新事例のひとつは、ラングラー・アンリミテッド・スポーツ・アルティテュード)しているのが成長を続けている要因のひとつだと、FCAジャパンは分析している。ジープに関していえば、リセールバリューが高いのも人気の秘密だ。ラングラー・アンリミテッドの登録3年後残存価値は67%〜83%だという。低い側の数字は先代で、現行に関してはほぼ80%超えなのだそう。だから、残価設定ローンで買ってもらえるし、若い人に人気なのだという。
若い人たちを呼び寄せている理由をFCAジャパンは、SNSを利用したマーケティングにあると分析している。例えばジープの公式ホームページ(www.jeep-japan.com)を開くと、ウェブマガジンのコンテンツが用意されているのがわかる。新たな記事がほぼ毎週アップされるので、訪れる人たちを飽きさせない仕掛け。さらに、インスタグラム、Facebook、ツイッターをフルに活用し、カスタマーとのフレンドリーなコミュニケーションを図っている。SNSではインスタグラムの調子がいいという。「ジープのユーザーは、出かけた先で風景を切り取って送るケースが多い」そうだ。
「ジープのコアバリューは『自由』『本物』『冒険』『情熱』です。1941年以来、本物のSUVを80年作ってきました。日本でどんな人がジープを買っているかというと、実は30代、40代が多く、小さなお子様がいらっしゃるケースが多い。都市に住んでいて、いい物や、いい情報にアクセスし、週末は家族と買い物や遊びに行くのが楽しくて仕方ない。そういう人たちに夢を与えているのがジープです」
FCAジャパンのコミュニケーション担当者はそう説明する。ジープは「本物」であり、同時に「歴史」がある。本物のポテンシャルを存分に引き出す機会はそうそうなくても、道具にはこだわりたい。そうした30〜40代にウケているのがジープというわけだ。ラングラーが本物中の本物であること(の、ほんの一部)は、短時間ではあったが深い雪のなかの走行で実感できた。