簡単に装置構成を説明しておこう。BSG:ベルトスタータジェネレータは16のジジム(プラセオジム+ネオジムの合金)磁石を備える同期/誘導電動機。出力は、定格9kW/最高12kW。トルクアシスト時には瞬間的に200Nm超の大トルクを発揮する。マイナス40度から140度の雰囲気温度で使用可能な空冷式。
48Vのバッテリーパックは、多分にもれずリチウムイオン式。外寸は290×300×110mm/重量は15kg以下と、コンパクトに収めた。6.9Ahのセルをの直列12配置とし、容量は250kWh(つまりセル電圧は3.0V仕様)。最大発揮電流は350Aと強力で、入出力の電圧レンジは通常時36〜50.4V、冷間では最低24Vまで保証する。
コンバータも空冷式で、外寸220×175×75mm/重量3kg以下。こちらも先述のように48V系統から降圧させて12V系統の充放電を担う。12V系の出力は定格2.7kW/最高3.7kW、定格電流は185A/最大電流275A。電圧レンジは12V系が6〜16V、48V系が24〜54V。
BSGの出力はわずかではあるが、性能を発揮するシーンが限定的かつ瞬間的であり、エンジン出力とのシナジーを図ることから、ドライバーに与える満足度は高い。たとえば発進加速時、ゴルフのエンジンはターボ過給で低回転域から大トルクを発揮するパフォーマンスには仕立ててあるものの、ターボチャージャーの構造から瞬時の大トルク要求には応えられない。そこで、BSGによるアシストを用いてこれを満足させる。最大トルクに達する所要時間を比べれば、エンジン(1.5 TSI)のみにくらべてBSGを加えた場合は25%も早いとVWは訴求する。
「隙あらばエンジンを止めて燃料消費を抑える」のは停車時にとどまらず、走行中でも同じ。コースティング=空走時にエンジンを停止させる制御が盛り込まれるが、問題はそこからブレーキあるいはアクセルペダルをドライバーが踏んだときに、パワートレインがいかにうまく立ち回るかである。
ブレーキを踏んだ場合(下図①)。まず倍力装置が制動力を瞬時に立ち上げるのは通常のクルマと同じながら、同時にBSGがエンジンを始動させ、その後BSGは回生装置としてエンジンブレーキ+回生ブレーキの創出に努める。すると倍力装置は制動トルクを徐々に弱め、BSG回生に制動機能を受け渡す。
アクセルを踏んだ場合(下図②)。こちらは通常のアイドルストップ回復時と同様で、ベルトを介してBSGがエンジンのメインプーリを駆動し、エンジンを再始動させる。
BSGの再始動性が従来のスターターモーターに比べて優れるのは、エンジンがある程度回転していても一向に構わないところ。スターターモーターを働かせるにはピニオンをフライホイールのギヤに噛み合わせなければならず、それにはフライホイールが停止=エンジンが止まっている必要がある。しかしBSGはそもそもがオルタネータであり、ベルトでつねにエンジンと連れ回っていることから、いつでも回生と力行を切り替えられる。
状態が変わらないということはスムースさとレスポンスにも直結する。アイドル回復のエンジン回転数について、BSGとスターターモーターを比べてみると、ギザギザの回転変動が生じる後者に対してBSGはスムーズかつ早期にエンジン回転を高めていることがうかがえる。いわゆる「ヌルッ」とエンジンがかかるイメージだ。アイドルストップについてもゴルフ8の場合、20km/hを下回ると変速機はクラッチを解放してBSGに受け渡し、領域を拡大する制御とした。