TEXT:世良耕太(SERA Kota)
アウディは2007年1月の通称デトロイトショーで、Q7にV12ディーゼルを搭載したモデルを発表した。ハンガリー工場で生産される量産V12ディーゼルは、レーシングV12ディーゼルよりも大きな、5934ccの排気量を持つ。ボア×ストロークは83.0×91.4mmで、既存のV6・3.0 TDIと同じ寸法。90mmのシリンダーピッチも共通だから、「V12ディーゼル」という記号はル・マン24時間で勝利を収めたエンジンと同じながら、実態は量産V6、V8エンジンの開発で培った知見の延長線上にあると理解していい。
もちろん、ストレスマウントを前提に設計されているわけもなく、Vバンク角はV型12気筒の定石に則った60度を採用。R10用V12ディーゼルがアルミ合金製のクランクケースを持つのに対し、量産V12ディーゼルはバーミキュラ鋳鉄。ただし、一般的な鋳鉄に比べて40%剛性の高いGJV-450という素材を用いている(のはV6TDI、V8TDIと共通)。
ボッシュ製燃料噴射システムを採用するのはレーシングV12と共通だが、最大噴射圧はレーシングV12や既存の量産ディーゼルが1600barなのに対し、量産V12は2000barを採用。この点は量産がレース用の上を行く。ピエゾインジェクターは8噴孔タイプで、径は0.12mm。最大5回に分けて噴射を行なう。必要に応じて片方のインテークポートを閉じ、スワールを積極的にコントロールする制御はV6、V8ディーゼルからのキャリーオーバー。カムシャフト駆動はもちろんレーシングエンジンで一般的なギヤではなく、チェーンだ。
片バンク毎に配されたターボチャージャーは可変ジオメトリー式で、最大過給圧は2.6bar。368kW(500ps)の最高出力はリッターあたりにすれば62.0kW/84.3ps。レーシングV12に比べれば控え目だが、1000Nmの最大トルクはレーシングV12に匹敵する。レーシングV12の開発で培った技術は、個々のスペックに反映されたというより、設計・開発手法に活かされたと理解すべきだろう。
Specification
エンジンタイプ V型12気筒DOHC+インタークーラー付きターボ 排気量(cc)5934 バンク角(度)60 圧縮比 16.0:1
最高出力(kW[ps]/rpm)368[500]/4000
最大トルク(Nm[kgm]/rpm)1000[102]/1750-3000
ボア×ストローク(mm)83.0×91.4
バンクオフセット(mm)17
全長(mm)684
燃料供給装置 ボッシュ製コモンレール式(2000bar)
インジェクター ピエゾ式、8噴孔(0.12mm)
ターボチャージャー 可変ジオメトリー式
最大過給圧(bar)2.6
エミッションコントロール Euro6