TEXT●松田秀士(MATSUDA Hideshi)
最近の記憶がイチバン印象的という人間の脳の性質もあるけど、昨年裏磐梯で試乗したBMW アルピナB3のハンドリングは素晴らしかった。
乗る前から心して(自分に言い聞かせてという意味)ステアリングを握らなきゃならないクルマってあるじゃない。ボクは1991年までF3000でレースしてたから、あの当時の鈴鹿130Rというコーナー。今はずいぶんと安全に様変わりしたけど、当時はブラインドで狭くてキツくて危険極まりない高速コーナーだった。雨なんか降ったら、アクセル踏み込んで出口のアウト側に水溜まりがあったし。スピンしてイン巻きしたらほぼ全損! 身体もヤバイ。身体は放っておけば治るけど、クルマは金かけなきゃ直らない。って冗談よく言ってたなぁ。
で、なんで昔の130Rを引き合いに出したかというと、そんなコーナーだからチャレンジのし甲斐があった。
ドライビングでクルマをねじ伏せるチャレンジと、行けるクルマに仕上げるチャレンジ。この2つがあった。どちらもピッタリくればもうサイコウに気持ちいいのが鈴鹿の130Rだったんだ。
実はワタクシ、1990年だったか? 1989年だったか? まだ誰もF3000で1分50秒を切れない時代、テストデーで予選用タイヤ履いて1分48秒1というタイムを叩き出して、鈴鹿で最初に50秒を切った男なのです。ま、ちょっとご自慢話。あの時のヨコハマタイヤは素晴らしかった。まず130Rを全開で行けるような時代でもなかったけど、アクセル、チョイ戻しですぐ全開でクリアできた。吸い付いてたクルマが路面に。
今回のテーマ『史上最高に運転が楽しかったクルマ』だから、前述した『行けるクルマに仕上げるチャレンジ』の『行けるクルマに仕上がっているクルマ』になる。
そこで、あの頃の鈴鹿130Rをこの3台のクルマで走ったらさぞかし楽しいことだろうなぁ!という基準で選んでみた。
実際、ポルシェ993GT2はあの頃に近い130Rで経験済み。スゴイじゃじゃ馬なクルマだったけど、フロント:バンプトーアウト/リヤ:バンプトーインというポルシェの基本ジオメトリーを最大限生かすためにソフトに足を動かすサスセッティング。アンダーステアーにクルマを仕上げ、タイトコーナーではそれをオーバーにするドライビング。
で、130Rでは入口可能な限りニュートラルで、出口はとにかく早くアクセル全開にして弱アンダー。考えて、あの手この手使って毎周すべてのコーナーでの挙動を記憶して、そういう運転がメチャメチャ楽しいクルマだった。今は中古でウン億円してるんだって? 壊したら金かかけなきゃ直らないんだから、もうそんな楽しみはチャレンジできないね。だから3位。
アルピーヌA110ピュアはこの手のスポーツの中ではサスが良く動く。ドライブしているとホイールトラベル感がメチャメチャある。その動きを自分のドライビングでマネージメントして走らせれば、アンダーもオーバーも手のうちに入る。オーバーもコントロール性がスゴク良くて、滑りを止めるカウンターステアのタイミングも分かりやすい。
近年、ここまでコントロール性を重視したクルマは無いね。もしかしたらA110が最後かもしれない。2位だ。
1位のBMW アルピナB3。これは路面を問わない。常にドライバーが求めるスタビリティーを与えてくれる。
じゃぁグリップしすぎてつまらない? それが違うんだよ、グリップしているスタビリティーの最中にアクセルやブレーキといった前後左右荷重移動で旋回弧を変えられる。独自の4WDセッティングもあるだろう。スタビリティーが高いから冷静でいられる。だから自分のドライビングを俯瞰的に見つめることができる。運転が楽しいって、こういうことだよね、って思える。
B3なら、あの頃の130Rにエイヤァ―!って飛び込んでみたいよ。