TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
ノーマルオープン型のソレノイドバルブを油圧で作動させ、その力でバルブを押し下げる油圧機構をつかうマルチエアは、独・シェフラー・グループが開発した「ユニエア」システムがベースである。もともとユニエアの開発にフィアット中央研究所が協力しており、実用化された最初の顧客がFPT(フィアット・パワートレイン・テクノロジーズ)だったこともうなずける。
上のイラストが初代マルチエアの構成であり、それぞれのデバイスもシェフラー・グループが得意とするものばかりだ。カムシャフトは排気側だけであり、これが回転すると青いカムの部分がポンプユニットを押し、吸気バルブを1回作動させるぶんの油圧を発生させる。この油圧は高圧チャンバーに送られ、その同軸上にあるソレノイドバルブによって吐出され、バルブを押し下げる。使い切らなかった油圧はふたたびソレノイドバルブに戻り、アキュムレーターにリザーブされる。
シェフラー・グループが供給するデバイスはポンプユニット、ソレノイドバルブ、ラッシュアジャスターを組み込んだブレーキユニット、アキュムレーター、温度センサーである。排気側カムから動力をもらって機械動作で作動するポンプは単純な構造。むしろ反対側のフィンガーフォロワー端にある油圧ラッシュアジャスターが重要だ。
電磁ソレノイドは一般的なノーマルオープン式。バルブ作動のバリエーションをつくるのはハイドローリックブレーキ&ラッシュアジャスターのほうであり、とくにブレーキ性能が重要だと聞いた。写真には写っていないが、ポンプユニット毎にアキュムレーターがあり、バルブの作動ごとに油圧をすべて捨てるのではなく、一部は回収されるとFPTは言う。
これは私見だが、まったく同じエンジンを通常の2本カムシャフトでつくってみないと油圧式のエネルギーロスを論じることは出来ないはず。ロスがあったとしても、それを補える「何か」があればいい。
油圧式のメリットは、バルブタイミングとリフト量の制御が機械機構の制約を受けないことだ。市販版マルチエアが登場する前にシェフラー・グループでユニエアについて取材した際、その可変の自由度が高いことと、将来のシステム発展で想定していることを聞いた。
イラストに描かれた赤い山は、バルブの開閉タイミングとリフト量をどれだけ変えられるかというFPTのデモンストレーションである、ただし、現時点では「2度開け」制御は行なっていないとFPTは言う。将来的には、2本ある吸気バルブをそれぞれ独立して制御する方式や、吸気側を通常のカムシャフトとしてディーゼルエンジンの圧縮比を下げる方法、吸排気2バルブへの展開など、いろいろとオプションがある。
現時点のマルチエアは、4気筒も2気筒もドライバビリティに重点を置いた制御のようで、燃費は「少々目をつむった」と言う。たしかに微小なアクセルコントロールへの追従が良く、なかなか官能的である。
上のイラストは、ユニエアを搭載するFPT製直4エンジンのヘッド部分。排気側カムシャフトと直交するポンプ、その先の高圧チャンバー&ソレノイドバルブ、アキュムレーターの配置がよくわかる。FPTではこれを「第1世代」と呼んでおり、順次アップデートする方針。ディーゼルエンジンへの適用も開発が進められているようだ。