TEXT●大音安弘(OTO Yasuhiro)
私に強烈なインパクトを与え、アメ車のイメージを刷新させてくれたのが、6代目のフォード・マスタング「V8 GTパフォーマンスパッケージ」だ。上級グレード「V8 GTプレミアム」をベースとした特別仕様車で、なんと足回りを固め、カタログモデルにはない6速MTも用意。しかもMT仕様は、ファイナルギアシオをローギア化させた専用品! つまりビッグトルクを活かした加速重視のクルマに仕上げられていたのだ。
426ps/529Nmを発揮する5.0L V8は、アイドルから“ドロドロ”という野太い排気音を奏で、ドライバーを挑発する。もちろん、アクセルを踏み込めば、シフト位置など関係なく、強烈な加速をお見舞してくれた。でも意外と巡行走行も心地よく、そこはアメ車らしい。
この限定車には「GHIグリーン」という70年代のマッスルカーを彷彿させる鮮やかなグリーンでイカしていた!
ただ冷静に分析すると、ボディや足がしっかりとパワーを受け止めており、真面目にスポーツしていた。なんとシートもレカロである。決して雰囲気重視ではなく、クルマ好きによるクルマ好きのための特別仕様車だったのだ。
フォードの技術者たちの熱意と共に、アメリカのクルマ好きの想いに触れたような感覚を覚えている。
私がフォルクスワーゲンに興味を持つきっかけとなったのが、ルポGTI。このクルマに乗った経験がなければ、自分でVWを買うことはなかったと思うほど。
このクルマは、小さなボディに、125psの1.6L 4気筒DOHCエンジンを積んだボーイズレーサーで、生意気にもMTは6速なのだ! 個人的には、シティターボとイメージが被る愛嬌たっぷりなところも可愛い。乗れば、軽量でしっかりとしたボディとレスポンスの良いテンロクエンジンの組み合わせで、痛快な走りを堪能させてくれた。
ルポって、可愛い響きだと思っていたが、その意味は、なんとイタリア語で「狼」。まさに名実共に、「羊の皮を被った狼」だった。
余談ではあるが、今やGTIしか話題とならないルポ。実はベースの1.4Lもなかなかのクルマ。小さいながらも、高速走行も得意で、運転も疲れにくいと文句なし。まさに狼の名は伊達ではなったのである。
史上最高に運転が楽しかったクルマというお題ならば、やはり最初の愛車は外せない。私にとって、それは平成7年式の日産180SXであった。中期型といわれるグリルレスマスクに、通称“黒ヘッド”と言われる黒いエンジンヘッドカバーを装着したSR20DETを搭載したモデルだ。
シルビア・オーナーを含めて共感してもらえると思うが、軽量なFRとターボエンジンの組み合わせは、愉しさのセオリーのようなもの。だからこそ、“あのクルマがなぜターボじゃないの”と、つい思ってしまう。それは私だけではないはずだ。
愛車に話を戻すと、学生生活を共にした3年間の走行距離は、7万kmを突破。我ながら良く走ったものである。勿体ないことに、乗りこなすまでは至らなかったが、運転のイロハは、このクルマに教わった。電子制御もないシンプルなFRを楽しめた経験は、私の貴重な財産となっている。
当時、MTのFRが、ここまで希少になるとは夢にも思わなかった。もしボロボロでも手元に残していたならば、コツコツとレストアをし、復活させるだろう。こんな時代だからこそ、シンプルに運転が愉しめるクルマに乗りたいと願う。
密かに日産には、そんなシルビアや180SX、スカイラインの思い出を心の奥にしまい込めるクルマを期待しているのだが、なかなか実現しないのが、寂しい限り。「やっちゃえ! 日産」をそっちでも発揮して欲しいもの。最後は、ちょっと今の現実を無視した理想論だが、同じ想いの人も少なくないはずだ。
『運転が楽しいクルマ・ベスト3』は毎日更新です!
クルマ好きにとって、クルマ選びの際に大きな基準となるのは、
「運転が楽しいかどうか」ではないでしょうか。
とはいえ、何をもって運転が楽しいと思うかは、人それぞれ。「とにかく速い」「速くないけど、エンジンが気持ち良い」「足周りが絶品」などなど、運転を楽しく感じさせる要素は様々です。
本企画では、自動車評論家・業界関係者の方々に、これまで試乗したクルマの中から「運転が楽しかった!」と思うクルマのベスト3を挙げてもらいます。
どんなクルマが楽しかったか。なぜ楽しいと感じたのか。それぞれの見解をご堪能ください。
明日の更新もお楽しみに!