TEXT●河村康彦(KAWAMURA Yasuhiko)
周囲を見渡せば、オーバー500psといったパワーを誇るモデルすら珍しくない今の時代。けれども、「運転が楽しかった」という条件付きで振り返ってみると、そんな”パワーエリート”たちは不思議と上位には入ってこない。
しかし考えてみればそれもそのはずで、そんな秘めたパワーを開放出来る環境はなかなか見当たらないし、そもそも自分の場合、残念ながら怒涛の出力を完全に御する腕も持ち合わせていない...というわけで、気がつけばここに挙げた3台は皆、うっかりすれば「非力」というタイトルで紹介をされかねない、アンダー200psの自然吸気エンジンを搭載したものばかりとなった。
3位の初代初期型トヨタMR2は、実は自分でも所有経験のあるモデル。"AE86"でも絶賛されたビュンビュン回る4A-Gエンジンも確かに気持ち良かったけれど、それよりも感動したのはミッドシップならではのハンドリングの感覚。
言うなれば「FFカローラ用のランニング・コンポーネンツをシート背後に移植しただけ」に過ぎなかったのに、それがあれほど新鮮な走りの感覚を味わわせてくれるとは! ちなみに、自分は「走りが良いとカッコも良く見えてしまうタチ」なので、冷静に見つめると"パキパキと平板的でヘンなカタチ"のスタイリングも、当時は全然気にならなかったもの(笑)。
そして第2位は「某"すべて本"の取材のためにホンダの北海道テストコースで乗って、一瞬で恋に落ちてしまった」という1台。
先行で発売された初代のインテグラ タイプRに比べると、こちらシビックRは特に高速コーナーでのスタビリティが明確に高く、エンジンが200cc小さい分パワーが控えめなこともあって、「能力を使い切っている」という感覚をより強く味わえることが印象的だった。
いずれにしても自然吸気時代のタイプRは、どれに乗ってもエンジンのフィーリングこそが最大の魅力の根源であったもの。あぁ、もうあのような「シンプルにエンジンが気持ち良いクルマ」は出てこないのか...。
そして堂々の第1位は、こちらも自身で手に入れて乗っていたルポGTIというモデル。
実はこれ、フォルクスワーゲンの”自動車テーマパーク”である『アウトシュタット』にある納車センターで新車を引き取りに行き、フランクフルト空港近くに地下ガレージを借りて置き去りにしていたもの。そんなわけで、アウトバーンを全開走行したりニュルブルクリンクの旧コースを走り回ったりという「ドイツならでは」の思い出も濃厚。
「当時のベーシックカーであるルポに、ゴルフから拝借した1.6リッター・エンジンを押し込んだだけ」とも思えるものの、実はフードやドアをアルミ化して軽量化に勤しんだり、太いタイヤを収めるべくリアフェンダーを拡幅したりと外板はほぼ専用。さらに、バイキセノン式のヘッドライトが奢られたり、メーターも専用デザインだったりと、冷静に考えればとんでもない高コスト体質。きっと、当時まだ絶大な権力を握っていたフェルディナント・ピエヒさんが、金に糸目を付けることもなく「作りたいの作っちゃった」りではないか、と(笑)。
面白いのはスペック上では205km/hの最高速が、アウトバーンでGPS計測すると、「平たん路でも下り坂でもピタリ212m/h」だったこと。実はこれ、6速ギアでレブリミッターに当たった時に出る値。
そして大雨の中、150m/hでアウトバーンを走っていてもペットボトルの飲みものを飲む気になれるスタビリティにも驚愕...と、そんなこんなで随所に"ピエヒさんの理想"が感じられたこのモデルのドライビングは、乗るたびに楽しさと驚きに溢れていたのである。
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